第14話
「さぁ、おしまいにしようか」
ルシフェンの手がフォスターの顔に触れた時、突然壁が破壊された。予想外の出来事にルシフェンは破壊された壁を見つめる。土煙から見えた姿は巨人の女の子。カリンだった。
「いたた……うぅ、転んじゃった……」
「……か、カリン……さん」
「フォスターさん!?」
「ちっ、ラストアークかよ」
いるとは思わなかった仲間の姿にカリンは驚いたが、フォスターの今の現状を見て我に返った。助けなきゃという思いでカリンはルシフェンに攻撃する。カリンにとってはただの平手打ちでも周りからすれば破壊力抜群で、ルシフェンはフォスターを離し、廃墟から脱出した。
「あっ!まって!……あぁ、いや、まずフォスターさんを……って!私コエさんどこにいるか知らないんだった!あぁどうしよう!」
「お、落ち着いて……ッ!」
「あぁ、無理に動いたらダメですよ!」
廃墟から出たルシフェンを探すが見つからなかった。
「お兄ちゃん……はどこですか?」
「お兄ちゃん?」
「あっ……えっと」
フォスターは気まずそうに視線を迷わせる。カリンが口を開くと同時に爆発音が聞こえた。振り返ると森が燃えて黒い煙が黙々と上がっていた。次は雷が次々と降り注ぐ光景が目に映る。風も吹き荒れ、木々が倒れるなど森が荒れている。
「きっと、皆戦っているんだ……」
強いことは分かってはいるが、それでも不安になる。手が足が震え、冷や汗を流す。
「カリンさん?」
「……どうしてでしょうか…足が動かなくて…助けなきゃいけないのに…私は守られたいんじゃない…守りたいんです。皆を、私が……」
「……カリンさん……行きましょう」
「まだ体が!」
「大丈夫です。……行きましょう…………皆を守りに」
「…………はい!」
カリンはフォスターを手のひらに乗せ走り出す。
「…………いつか、話さなくては……」
フォスターのその言葉は風と共に消え、カリンに聞こえることは無かった。
_______________
「ぐっ!!」
「あ、命中」
ロウディアの攻撃はユースティアの腹部を貫いた。致命傷な避けたものの出血がひどくどくどくと血が流れ、地面に落ちる。意識が飛びそうななか、必死に耐える。
「あれ、これ……ケリついた?ラッキー」
「何がラッキーだ。とどめさしてねーじゃんかよ」
ロウディアが、後ろを振り返るとルシフェンが茂みの中から出てきた。ロウディアはあからさまに顔を歪める。
「あ?なんだよその顔ブサイクだな」
「あんたに可愛いとか思われたくないし傲慢野郎」
「ぁあ?やんのか怠惰野郎」
「いいよ、買ってやんよそのケンカ」
「……」
互いの胸ぐらを掴み合いいがみ合う2人にユースティアはおいてけぼりだった。いきなり現れ、始まる喧嘩。仲が悪いとひと目でわかる2人に呆れる。
逃げようにも、体がいうことを聞かず1歩も踏み出せない状態。
ユースが頭を悩ませていると凄い地響きが近づいてくることに気づいた。
「なんだ、これ……」
いがみ合っていたロウディアとルシフェンも違和感に気づく。
「ちょ、か、カリンさん!?そこ危ないです!」
「え?どこです?……ッ!あ、わぁぁ!」
ドシャッと派手に転ぶ音。土煙が起き、目の前が見えなくなってしまったが、ユースティアには地響き、土煙の正体が分かっていた。
「……カリン……フォスター」
「あっ!ユース!!良かった合流できて」
地面とカリンの間からほふく前進で出てきたのはフォスター。カリンも顔を上げユースティアを見るなりにっこりと笑う。
「ッ!ユース……け、怪我して……」
「だ、大丈夫だ。今は敵がいるから…って、いな、い……」
ユースティアがロウディアとルシフェンのいた方向に顔を向けるとそこに2人の姿はなかった。
ルシフェンはロウディアを脇に抱え、木から木へと飛び移っていた。
「……傲慢野郎にしては逃げるんだ」
「逃げたんじゃねーよ。言ってただろ……今回は味見だけだ」
「うわ、なんか変態みたい、キモいから離してよ変態」
「なっ!?今ここで落としてやろーか?あ??」
「やれるもんならやってみなよチビ」
「…………お前、本気で俺を怒らせたな」
「3流のセリフ」
「ッ!お前ってやつはつくづく減らず口をたたくな?力じゃ俺に勝てねーからって言葉で対抗してんじゃねーよ水女」
「は?誰が勝てないって?バカ言わないで、アンタがバカなだけでしょ?力も言葉も幼稚なあんたじゃ私とあんたの力の差もわからないもんね。あーぁ、可哀想」
2人の喧嘩は続く。
_______________
「フォスターさんも酷いけど、ユースティアさんも酷い傷……」
「俺は大丈夫だ。」
「私も……大丈夫ですよ」
「とにかくコエさんを見つけないと!2人の傷を治してもらわなくては」
カリンは優しく2人を自身の手のひらに乗せ、走ってはまた転ぶので歩くことにした。
「それにしても、こうも犯罪者が多いなんて……」
「きっと、ほかの人達も犯罪者と戦っているはず……もし、私たちと同じ人数だったなら……」
「考えたくもないな」
「エルさんを攫った理由もまだ不明です。エルさん……無事だといいんだけど」
「一体、何が起きているんだ……いや、何かが起きるのか?」
「ちょっとユース。変なこと言わないでくださいよ。まるでこの戦いが余興みたいじゃないですか」
「でも、本当に今回、犯罪者側が本気でないのだとしたら……遊び半分であの強さ……」
3人は息を呑む。嫌な予感がする、出来るならば当たって欲しくない予想が脳内に浮かんだ。
「……どうして、犯罪者なんているのかな」
カリンがボソッと呟いた。素朴な疑問であり答えのない疑問。
「さぁ、理由なんて本人しか知らないですよ」
「考えたって時間の無駄だ」
「…………確かに、そうなんですけど……でも、分からないんです」
カリンは歩みを止め、眉を下げた。
「分からないのは怖いです……正義と悪が背中合わせのものならば、それってひっくり返ったら私達だって犯罪者になるんですよね?……犯罪者達にとっての正義ってなんなんでしょう。私達がやっていることは犯罪者達にとっては悪な事だったら……」
「やめろ、考えるな」
「ユース」
「他人の正義が違うのは当たり前だ。でも、俺達が追っているのは世間一般での犯罪者。俺達にとっての悪を追ってるわけじゃない」
カリンが小さく頷くとフォスターは優しく笑いかけ、ユースは前を見つめた。
「それより、他のみんなは大丈夫かな?」
「大丈夫だろ。そうそうやられる様な連中じゃない」
「はい!皆強いから信じるしかないです!」
「……そうですね……そう言えば、アリマさんの妹さん犯罪者なんでしたよね?」
「あぁ、それがどうした」
「いえ、双子とはいえこんなにも正反対に育つことあるんだなって思いまして」
「まぁ、俺達はアリマの話の中の妹しか知らないからなんとも言えないな。でも、アリマの妹だからって手加減するつもりは無い」
「手加減なんかしたら、アンタがマリアに殺されるよ〜!!」
「ッ!?」
聞き覚えのある声がし、カリンはゾッとした。声がした方向に顔を向けるとそこにはメアリがいた。
「ひ、ひぃぃ……あ、貴方は……」
「やっと見つけたわよ!私のコレクション!!」
「コレクション?」
メアリは腕を組み得意気に微笑む。
「マリアはね、結構強い方なのよ?ま、私の方がいろいろ勝ってるけど……アリマだっけ?あの子ならもう……負けたわよ」
「あ、アリマさんが……」
メアリの言葉に3人は青ざめた。それをメアリは愉快そうに声を上げ笑い出す。信じたくない知らせだが、無くはない可能性。嘘かもしれないがメアリが今の時点で嘘をつくメリットが思い浮かばない。でも、あのアリマが?と思う。パーティーの中で膝をつく姿が想像出来ない人物の1人。それほど彼女は強く、逞しい。
「…………アリマさん……」
「何してる!戦うぞ!!」
「あー!待って!」
ユースティアが立ち上がろうとすると、メアリは両手を忙しなく上下に動かす。
「私、もう戦意ないんだよね。戦うつもりなんてないの!分かる?」
「どういうことだ」
「いや、どういうこともなにも私はただアンタ達にアリマの状況を教えに来ただけ。もちろん、ただの私の気まぐれよ?」
メアリは自分の言いたいことだけを言うと満足したのか森の中へと消えていった。残された3人はボー然とする。てっきり戦いものだと思い込んでいたのだから拍子抜けしたのだ。暫くして我に返りまた3人は森を歩き出す。
_______________
一方その頃、キロネックスとカピラタはバルネシとフィサリアと戦っていた。
「はぁ……はぁ…………もう、しつこい……」
「……楽しいですキロちゃん。ふふっ、またこうしてキロちゃんと遊べるなんて」
「あっそ……私は楽しくないけどね」
キロネックスは睨みバルネシは笑う。互いに息が上がり、同じくらいの傷を負っている。
「……でも、残念。時間切れです。キロちゃん。」
「は?時間切れ?」
「私達、帰らなきゃいけません。」
バルネシは向こう側で戦うフィサリアを呼び、不敵に笑い風のように消えていく。フィサリアはカピラタを見つめ、バルネシと同様に消えていった。2人を追うつもりのないキロネックスはその場にへなへなと座り込み、そのそばにカピラタは立つ。
「一体、時間切れってなんなの?」
「うーん、犯罪者の目的は僕らを殺すことじゃないってことかな?」
「それはそれでいいんだけど……私が知りたいのはそうじゃなくて」
「奴らの目的が果たされた…………とか。それか、果たされようとしている…なーんてことも考えられるよね!」
「…………目的…ね」
カピラタはキロネックスのそばに座り込み、キロネックスの顔を覗き込む。
「な、なに……?」
「良かった」
「何が?」
「キロちゃんが、あのままあの子を殺してたら、僕がキロちゃんを殺さないといけなくなるとこだった。」
「……」
「思いとどまってくれて良かった」
「……結構本気だったりしたんだよ?」
「でも、キロちゃんは殺せないよ。あの子のことも僕らのことも」
「……ラタちゃんは一体なんなの?」
「風が教えてくれるよ。みんなのこと、僕のこと、キロちゃんのこと。……街に行く前にさ、アリマちゃんが昔のこと、話してくれたでしょ?」
「うん。」
「……始まりなんだよ。あれは」
「?……始まり?なんの?」
「僕らのパーティーのだよ。昔のことを話してくれたのはアリマちゃんが初めてでしょ?アリマちゃんが話したんだもん。僕もキロちゃんもみんなも遅かれ早かれ話さなきゃいけないよ……そうじゃなきゃ、不公平だもの。」
「例えばさ、その昔話をしたとして……仲間が離れていったらどうする?話さなきゃ良かったって後悔するかもしれないよ?……私は、できるなら話したくないな。」
「でも、離れていかないかもしれない」
「どうだろ」
「多分、アリマちゃん達は離れていかないよ。逆に絆が深まったとか言いそう……それでね、コエくんがまた変なこと言って、みんなが冷たい目で見るの、サリエラさんが変なもの作ったり、アリマちゃんとスバルくんがまた喧嘩したりしてさ……」
「……いつもじゃん。そんなの」
「そうだよ……これが僕らのパーティーだもん……昔話を聞いたからって変わったりしないよ。……ねぇ、キロちゃん」
カピラタはおもむろに立ち上がり、キロネックスの手を握る。カピラタの体温がキロネックスの手を伝わり、体へと届く。
「…………暗い未来なんてつまらないよ」
キロネックスから手を離し、カピラタはスタスタと歩いていった。離された手にちょっとした名残惜しさを感じながら自身の手を見つめるキロネックス。
「暗い未来なんてつまらない……か。…………どいつもこいつも勝手なんだから」
目頭が熱くなる。目が霞んで見えない。手のひらに暑い雫が落ちてくる。
「…………勝手に私を、信じないでよ……」
その場で蹲る。信じて欲しいと思うが、信じないでほしいという思いもあるあまりに矛盾だらけの気持ちにキロネックスは悩まされる。今までもそしてこれからも。
_______________
「あ、カピラタさーん!」
「ん?あ!カリンちゃーん!ユースさーん!フォスターさーん!」
カリンがカピラタを視界に入れ、小さく手を振り、カピラタも自分の位置を知らせるためか大きく手を振る。
「カピラタさんは、あまり傷ついてないみたいで良かったです……他の人と一緒だったりしませんか?」
「あ!キロちゃんと一緒にいたんだけど、僕が前スタスタ歩いてたらキロちゃんとはぐれたみたいで……ちゃんとついてきてくれてると思ってたんだけど」
「そうだったんですね!キロネックスさんに傷とかは?」
「あるけど、風が大丈夫って言っていたから大丈夫かも!……でも、痛そうだったよ?」
「痛くなんかないから大丈夫」
ガサガサと草木を分けながらキロネックスは姿を現した。キロネックスの目が赤くなっている事にカピラタは気づき、小走りでキロネックスに近づく。
「キロちゃん……泣いてたの?」
「……泣いてないよ」
「傷、やっぱり痛い?」
「大丈夫……」
慣れてるからと小さく呟いた。カリン達には聞こえないだろうが、カピラタには微かに聞こえたようで、横を通り過ぎ、カリン達と話し合うキロネックスの背中がカピラタにはどうにも小さく、弱く見えた。
「ねぇ、ラタちゃん」
「!!……な、なに?」
「コエコエの場所知りたいの。風に聞いてみてくれない?」
「いいよ!コエくんだね!」
目を閉じ、意識を集中させて暫くしてカピラタは目を開けた。あっち!と指差しカリン達の前を走りながら案内した。
「本当にあっているんです?」
「風がこっちって言ってるから大丈夫!!」
「今はカピラタを信じよう」
森の中をひた走り、薄暗い場所でカピラタは立ち止まった。
「ラタちゃん?」
「……ここだよ」
「……こんなところにコエさんが?」
「見当たらないけど……」
「ごめん…一歩遅かったみたい……でも、コエくんがここにいたのは本当だよ!風は嘘つかないから」
キロネックスはカリンの手のひらから降りて、辺りを見回した。皆からあまり離れないように近くをぐるぐると歩いていると何かが足に当たった感触があり、キロネックスは足元を見ると絶句した。
「……キロネックスさん?」
「おい、なんだそれ?」
キロネックスの足元にあるものはコエの右腕だった。ちぎられた様な裂け目、右腕のあった場所にはおびただしい血があたりの木々に飛び散っていた。まだ生々しい血の匂いがする。キロネックスはコエの右腕を拾い、カリン達に見せた。
「これ、もしかしてコエさんの腕……」
「それに、なんだ?……この量の血は……一体アイツ何されたんだよ」
「結構、エグいことするじゃん」
「酷い……」
いくらコエが治癒属性だとしても、大量の血がこんなにも飛び散っているのだから、危ない状況だろう。不安は募るばかりだ。
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