第13話
「アリマァ……大丈夫?」
「……皆は、……どこだ」
木に寄りかかっていないと立っていられないアリマと目線を合わせるようにしゃがみ、首を傾げるマリア。
「言ったじゃん、皆はもういないって」
「アイツらはそんじょそこらでやられるような…やつらじゃない」
「でも、私たちは犯罪者だよ?チンピラじゃないんだよ?あぁいう雑魚と一緒にしないでよー」
「…………あぁいう?」
「あれ?今まで捕まえてこなかった?おかしいなぁ。アイツら弱くていらないからラストアークの近くに捨てたんだけどなぁ」
マリアの言葉を聞いて、アリマは会議室でサリエラから聞いた話を思い出す。
「まさか、犯罪者たちの中で優劣がついているって話は……」
「あぁ!それそれ!やっぱりバレてたんだー!」
マリアは「あはは!」と無邪気に笑う。そう、犯罪者たちの隔離を行ったのはマリア。主犯格だったのだ。いらない、興味のないものは人だろうと簡単に捨てることが出来るのだ。アリマはその思考が何年経っても理解出来ない。
「ねぇ!そんなことよりもっと遊ぼう!!あ!そうだ!昔アリマは鬼ごっこ苦手だったよね?鬼ごっこしようよ!なんでもありの鬼ごっこ!!」
「ふざけているのか!?」
「ふざける?私、ふざけてなんかないよ?」
きょとんとした顔をしたマリアはアリマの顔を掴んだ。あまりにも強い力にアリマは小さく呻く。
「アリマぁ……アリマはこんなにつまらない子だったっけ?……ほら、反撃してよ~」
「くっ……」
「うーん、アリマがつまらなくなったのはやっぱりラストアークのせいだよね〜。仲間を殺したらいいのかな?」
「ッ!?」
「でもなぁ、私あの子達結構好きだからな……あ!殺すんじゃなくて私の玩具にしよう!あー!いい考え!体なくなってもみしぇっちがいるしー!」
「ま……まて……」
「確かこえっち……だったっけ?」
「……ッ!……コエ……」
「綺麗な目してるよねー!オッドアイなんてカッコイイし!…………私ね、こえっち好きだよ。というか、アリマのものはなんでも好き……奪いたくなっちゃう。」
「お、まえ……仲間に何かしてみろ……私がお前を殺すぞッ!!!」
アリマの火力が上がる。メラメラと火は燃え盛り、2人の周りを囲む。手に宿した炎でアリマはマリアに殴りかかるがマリアはひょいっとかわす。
「ふー、怖いし暑いしそんなムキにならないでよ可愛いなぁアリマは」
「マリア、お前のことだ……冗談なんかじゃないんだろ?仲間には手を出すな!!」
「出すなって言われたら出しちゃうのが犯罪者の性だよ……そんなにこえっちが奪われるのが嫌?」
「コエだけじゃない。他のみんなもだ」
「でもさぁ?明らかにこえっちにだけ過剰反応してるよねー!?やっぱりあれかな?アリマを救ったのがこえっちだからかな?嫌だよね!自分の恩人が犯罪者の妹に汚されたら傷つけられたら……弱虫で可哀想なアリマちゃんは泣いちゃうよね?」
マリアはアリマに近づき耳元で囁く。
「こえっちの目、綺麗だから私がもらうね」
ニヤリとマリアは不敵に笑う。
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「…………ここは」
「あー!やっっっと起きたねー!!」
「……?」
木にぶら下がりこちらをじっと見つめている少年がいる。どうやらコエの目覚めを待っていたらしい。起きたばかりの状態で聞く少年の声は少し頭に響くものでコエは顔を顰める。
辺りを見回すと大きな湖があり、とても綺麗な風景だ。
「ヒノワ待ちくたびれたよー!でもおとこのこだから許してあげる!」
「……何様なのさ君」
「ヒノワは犯罪者様だよ!」
「ッ!?……こんな小さな子が犯罪者?」
世の中分からないものだと思いながら立ち上がる。
「でもさぁ、君……治癒属性なんでしょ?戦えるの?」
「……いや、普段は戦わないよ。治癒だし、」
「そうだよね」
何かが頬をかすめた。血が流れている感覚がわかる。手の甲で頬の血を拭い、また顔を顰めた。
後ろを振り返ると尖った氷が木に刺さっているのが見えた。
「氷属性……」
「そう!ヒノワは氷属性!どう?どう?凄い戦闘向きでしょ??」
「あ、あぁ……うん。」
あぁ、苦手なタイプだと思った。
ヒノワは先程の氷と同じように尖った氷を何本もつくりコエに向け一斉射撃される。
「ッ!」
やっぱり…全部回避なんてできないよな
「所詮は治癒…治すことしかできない。だから君はヒノワには勝てないの〜♪」
「それはどうだろう…」
「は?」
「だって俺勝とうとか思ってないし、それにこんなイケメンのことが知りたくてお前は突っかかってきたんだろ?自己紹介がまだだったね……ラストアークには魔法派閥者と対人派閥者があるんだ。魔法派閥者は魔法を得意とし対人派閥者は肉弾戦を得意とする。」
「君……さっきから何言って」
首に刃物の感触があるとヒノワは気づくまで数秒あった。さっきまでいたコエが目の前から消え、今ヒノワの後ろにいて、ヒノワの首に刃物を突き立てている。この瞬時の出来事はヒノワの理解を超えていた。
なんだ…コイツ…いつの間に
「俺の名前はコエ。ラストアークの魔法派閥者に所属し属性は治癒……そして、元対人派閥者だ」
_______________
「こえっちの目をあの時のアリマみたいに抉って飾ろうかなぁ」
無邪気な子供のようにマリアはそう言った。アリマは震えが止まらず、目の前にいる人物は本当に人間なのかと疑った。
「あれ?アリマ震えてる?」
「目的はなんだ」
「目的?」
「お前は私が狙いだろ!!仲間まで巻き込むな!!頼むから!!…………頼む、仲間には手を出さないでくれ」
膝から崩れ落ち、己を抱きしめる。マリアはそんなアリマを無表情で見つめるのだ。
「…………アリマはホントに弱虫さんだね。弱虫で泣き虫でホントに可哀想。でもさ、それがアリマなんだよ。いくら皆の前では強がっても、平気そうな顔しても、根本的にアリマは変わってないんだよ。あの頃と一緒……ラストアークに入って変わったことと言えば力がついた…ただそれだけ。アリマの力は強くなってもアリマが弱いままじゃ誰も救えない。…………私はそんなアリマが大好きだよ。大丈夫変わんなくていいよアリマ……アリマはずっとずっとこのままで、昔のままのアリマでいい。」
アリマを優しく包み込む。愛おしそうに壊れ物を扱うように。
「アリマを守ってあげるよ。可哀想なアリマ……ふふ、やっぱり双子だね。私達は変わらない……変われない。互いがいる限りずっとずっとずっとずっと片割れを気にして前に進むことを怖がるの。一緒にいたからこそ、前に進む歩幅も一緒じゃないと不安になる。アリマ……変わっちゃやーだよ」
静かな時間が流れる。2人が思い出すのは昔のこと。豊かな自然に囲まれ幸せだった家族。その家族を燃やすアリマの火と火を放った張本人のマリア。右目を奪われ左目を抉りおそろいと嬉しそうに笑うマリアに恐怖を覚えた。あの日からアリマの頭を支配するのはマリアだった。
「忘れよう。また、2人で暮らそっか。……それもそれで楽しそうだよね。うんん、きっと楽しいよ」
ぎゅっとアリマを抱きしめる。されるがままのアリマの目には光がなかった。
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「さすが俺!腕は鈍ってなかった!でも怖いからもうやらないぞ!…………顔傷つけられちゃったなぁ」
あの後、ヒノワを気絶させ適当な木に括り付け湖をあとにした。コエは基本的に戦闘には出ないが一対一でもあり、しかも顔に傷がついたという条件の下、仕方なく戦っていた。わけも分からない森を右へ左へと適当に進む。すると、後からガサガサと音がした。
「コエくぅぅぅん!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁッ!!!」
後から飛び出してきたのはさっき倒したはずのヒノワだった。これ以上戦うのは避けたいコエはひた走る。全速力で走る。
「な、なんで!?起きるの早すぎ!!」
「コエくんコエくん!!ヒノワコエくんなめてたよ!実はすっごい強かったんだね!あの瞬発力はなかなかお目にかかれないよ!しかもあの冷たい目!!ヒノワぞくぞくしちゃったー!他にもコエくんを知りたいんだ!ねぇ!もう1回戦おう!!ねぇ!ねぇ!ねぇ!コエくん!!ヒノワコエくん大好き!!」
「そんな告白いらねー!!」
方向など無視しながらとにかく走る。光のある方へ進むとまさに戦い中のサリエラがいたがヒノワから逃げるのに必死なコエの目にはサリエラが見えない。
「うわぁぁぁぁッ!!来るなぁァァァァァッ!!!」
「なぁぁんで逃げるの!?遊ぼ!!遊ぼうよ!!コエくんッ!!」
そのままサリエラを通り過ぎ、曲がったりを繰り返しながらやっとのことでヒノワから間逃れた。
「ハァハァ……つ、疲れた……」
無駄な体力を使ったと脱力する。
「ひとまず休もう……体力回復とかできないかなー……父さん出来たよな……俺にも出来たりするんじゃね?」
ブツブツと独り言を喋り続けるコエに魔の手が近づいてきた。突然の浮遊感にコエは驚く。
「うわっ!?……な、なに!?」
逆さまに釣り上げられたコエは吊るされた原因の足を見た。足には糸が絡みついており、糸の先に視線を送る。そこには、見たことがない犯罪者がいた。
「意外と警戒心が緩いんですね」
「!?……だ、誰」
「……えっと、コエくんでしたっけ?」
「……ッ!」
「君、とってもいい素材になりそう……」
その瞬間、コエの右目に針が刺された。
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