第12話
「ッ!」
「…………結構、しぶといな」
木の影から姿を現したのは愛らしく耳と尻尾がついている少年だった。
「……はぁ、……はぁ」
肩を上下に荒い呼吸を繰り返すルアル。
全身が傷だらけで出血も酷い姿をしていた。
「早く倒れたらどう?ラストアークの……えっと、……名前を知らないな。おい、お前名は?」
「……人の名前を聞く時はまず貴方から名乗るべきでは?」
「ふむ、それも一理あるな。……僕はカルミラ。」
「ラストアーク所属魔法派閥者のルアル」
2人は互いに睨み合う。緊張が走る中、ガサガサと茂みから音がする。また敵かと思いルアルは茂みに視線を移す。
「る、ルア〜!!」
「エルちゃん!?」
こちらへ一直線に走ってくるのは行方不明となっていたエルだった。どうやらガサガサの音の原因はエルだったようだ。
エルを受け止め、目線を合わせる。
「どこいってたの?皆心配してたんだよ?」
「ご、ごめんなさい……あの人と一緒にいて……」
「あの人?」
「……僕ですよ」
エルが飛び出してきた方向から神父のような男が現れた。エルを背中に隠すように庇う。ぎゅっと服を握ってくるエルの手が震えていることにルアルは気づいた。
きっと、エルちゃんの怯えの原因はこの人だ……
「大丈夫……エルちゃん、離れないでね」
「う、うん……」
「嫌ですね、人を悪者みたいに」
「実際悪者だけどな」
「まぁ、そうなんだけど」
「やっぱり君……エルちゃんを攫った犯人?」
「?……えぇ、そうですが?あ、名前まだだったね……ミッシェルっていいます。」
「…………君、ロリコンなの?」
「え、…ろ、ロリ…」
「そうだよ!!」
「エルさん!?」
「そうか、なら、エルちゃんをこの変態から守らないと……だね」
逃げるが勝ちかとルアルは判断した。エルの手を引き、森の中へと駆け込む。ミッシェルもすぐさま追いかけようとするが、カルミラがそれを止めた。
「カルミラさん?」
「まぁ、待て。一つ聞かせろ……お前、やけにあの子に執着しているな?」
「……気に入ったんです。エルさん無邪気で、僕、あの子仲間にします」
「仲間にしますって……犯罪者にする気か?まぁ、僕は止めはしないけど…………なぁ、ミッシェル」
「はい?」
「僕と手を組まないか?」
_______________
「ふぅええ〜ん!怖かったァァァ」
「はぁ、泣き止んでよ……」
「ルア〜〜〜」
エルが力強くルアルに抱きついた。ルアルは傷が痛むのか顔を一瞬歪める。
「あ、ごめん……傷、痛む……よね。……コエ、呼ばないとだよね………………」
「エルちゃん?」
いつも笑顔のエルに元気がない。顔を俯かせ、震えた声で
「ごめんなさい……」
と、呟いた。
「……エルちゃん?どうしたの?」
「ルアがこんなに怪我したのも、皆が敵と戦ってるのも、全部……全部……エルのせいだよね……」
エルが顔を上げた。大きな目には涙が溜まり、そして流れる。ルアルはエルが泣いている姿を見たことがなかった。初めてのことでいつも冷静なルアルもあわあわと焦る。
「とりあえず、泣くのやめよ?ね?」
服の袖でエルの涙を拭ってやり、エルは首を縦にふる。
「まだ、奴らが僕らを追ってきてるかもしれないから、ひとまず身を隠せるところ……本当は皆に合流出来れば良かったんだけど……」
「エル、頑張って風の声聞く!」
「……うん頑張って……合流できたら、一緒に謝ろうか」
「…………うん!」
ルアルは立ち上がり、エルに手を差し伸べる。エルはルアルの手を握り笑顔になる。つられてルアルも笑顔になる。
「じゃ、頑張ってカピラタ君みたいに風の声聞こう」
「うん!待ってねぇ!!」
目を閉じ耳に手を当て意識を集中させる。ルアルには何も感じないがどうやら風属性には何か感じるものがあるらしい。
「カピラタ君の専売特許だと思ってたけど、違うのかな」
「…………ルア」
「どう?何か聞こえた?」
「…………………………」
「エルちゃん?」
「分からない」
「ん?」
「風の声よく分からないよ!やっぱりカピラっちすごいよね!!」
「……地道に探すか」
しょんぼりとするエルの頭にルアルは手を置き
「いいよ。気にしないで」
「ルア」
「元々期待してないから」
「ルア……」
はぐれないようにと手を繋ぐ。不安は拭いきれないが一人でいるよりは2人の方が何かと良いだろう。エルが攫われた理由は分からないが守らないといけないということは変わらない。2人は森を進み続ける。
「……このまま仲間に合流されるのは困るなぁ」
「それは僕も同感だ」
エルとルアルを木の影から見つめるミッシェルとカルミラ。
「さて、どうしようかな」
「ミッシェル…作戦でもあるのか?」
「あれば良かったんだけど、彼、隙がないから…」
「アイツ、力はなくても頭がキレるタイプだ。」
「せめて、2人が少しでも引き剥がされてくれれば」
「2人が離れればいいんだな?」
ニヤリとカルミラは笑った。
_______________
「うぅ……不気味〜。この森怖いよ〜皆どこー!?」
「この森、広いから下手したら野宿……いや、野宿すら出来ないかも」
敵も潜んでいる森で気を休めたら命取りだ。徹夜かなとルアルが考えていると、エルが「きゃっ」と小さな悲鳴をあげる。その時繋いでいた手が離れた。
「うわっ、大丈夫?」
「ごめん、足になんか感触があって……えへへ転んじゃった」
「気をつけなよ」
と、言いながらエルの手を掴もうとしたが、掴んだものは空気だった。
「えっ」
「ルアーーー!!!!」
上の方からエルの声がした。顔を上げると、木の枝にエルを抱えるミッシェルがいた。しまったと思い、敵のいる木の枝に向かおうとするが足が上手く動かず、その場でルアルは転落した。自分の足を見ると、狐がルアルの足を噛んでいた。
「ッ!?」
小さな雷で狐を追い払う。狐はカルミラの足元に戻り消えた。
「…………式神?」
「へぇ、知ってるんだ。」
「でも、式神って使える人が限られているはず。今ではもう式神を使える人なんてそうそういない。……貴方は一体……」
「……ミッシェル」
「ん?なんだい?」
「早くソイツ連れてこの場からいなくなってくれ。僕は僕でコイツに用がある」
「勝手だなぁ。まぁ、いいや……行きましょエルさん」
「いやっ!!離してッ!!!助けてルア!!ルアァァァッ!!!」
「エルちゃッ!……くっ」
「いやァァァァァァァッ!!!!!」
ルアルはエルに近づこうとしたがカルミラの狐に邪魔をされ、遠のいていくミッシェルとエルを見つめることしかできなかった。背後から近づいてくるカルミラをキっと睨み、カルミラは怖じける様子もなく逆に笑顔を浮かべていた。
「僕の正体…………だったっけ?」
「……」
「やだなぁ、そう睨まないでよ。ルアル…お前はもっと冷めた人間だと思ってたけど、ホントは熱い人間なのかな?……どうだった?仲間が連れ去られた瞬間の感想は?」
「エルちゃんを返せ」
「さぁ、僕に言われても……僕は連れ去るのを手伝っただけ、あの子を欲しがったのはミッシェルの奴。文句ならミッシェルに言ってよ」
「じゃあ、エルちゃんが言ってた足の感触って」
「そう、僕の式神。アインスとツヴァイっていうの……可愛いでしょ?」
「……で、貴方ホントになんなの?」
さっきまでニコニコと笑顔を浮かべていたカルミラだが、今は無表情だ。大きな赤い瞳はただのガラス玉のようにルアルを写す。そしてゆっくり口を開きこう言った。
「…………元…………神様だよ」
_______________
「離して!!離してよッ!!!」
「ちょっ、エルさん暴れないで、木から落ちたらどうするんだい?」
ここの森の木はとにかく大きい。巨人のカリンですらすっぽりハマるこの森の木から落ちたとなればただでは済まないだろう。
「大丈夫だもん!!エルは風属性だから風をクッションにすればいけるもん!!」
「あぁ、なるほど。エルさんは頭がいいね」
「え?そう?……えへへ」
「もしそれを実行されて逃げられたりでもしたら面倒だからエルさんを降ろすのはなしにしよう」
「えっ!?」
エルは気づいていない。サラッと手の内を晒してしまったことに。
「いいから離してよ!!エル食べたって美味しくないよ!!それにエルには皆がいるもん!君なんかすぐにやっつけちゃうもんね!!」
「おぉ、それは怖い」
「…………君は一体、エルを使って何がしたいの?」
「直球……そうだね、僕は…………エルさんと仲間になって仲良くなりたいんだ」
「仲良く?仲間??でも、エルはラストアークだよ!犯罪者とは仲間になれないし!仲良くなんかできないよ!!犯罪者はラストアークには入れないんだよ!?」
「分かってるさだから、エルさんと仲間になる方法……」
エルは目を見開いた。恐怖で体は動かず、ただその場で震えている。ミッシェルの言ったことが理解出来なかった理解したくなかった。なぜなら彼は本気だったから。
「…………えっ」
「あれ?聞こえなかった?」
どうして彼はこんなにも普通の声色なのだろう。犯罪者は皆こうなのかとエルは思った。
「じゃあ、もう1回言うから聞き逃さないでくださいよ?…………エルさんと僕が仲間になるためには」
「エルさんも僕と同じ犯罪者になること」
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