第11話

「燃えろおおお!!」

「うわ!あつッ!!!」

「ちっ、さっきからすばしっこいなぁ?」

スバルの相手は獣人であるクレイグ=ファントムだ。拳も蹴りも技も全て華麗にかわされ続けておりスバルは最高潮に苛立っていた。「当たったら痛いじゃないか!」

「痛めつけるために当てるようにしてんだよバカか!?ちっ……女々しい見た目しやがってか弱いメス兎かよ君」

「なっ!?お前だって兎じゃないか!!」

自分の言われたくない言葉を言われたスバルは感情に比例するように炎を体から放出させる。炎はたちまち木に燃え移り辺りは火の海とかしている。

「それを言うんじゃねーよ!!ぶっ殺すぞパツキン兎がぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」

「それはコチラの台詞だ!!赤髪兎ぃぃぃぃぃッ!!!!!」

オラァァァァッ!と2人の声が重なる。スバルが見る限りクレイグと力の差はない。魔法にもよるが相手が魔法を使わないのでどんな属性か判断のしようがない。

「……参ったなぁ」

これ、負けたら皆から馬鹿にされるやつだ。

「まぁ、負けないけど」

「さっきから何をブツブツと喋っているんだい?」

「うるせー独り言だ」

魔法を使われる前にやったいいだけの話だと頭の中で自己完結させる。

「おらっ!」

「ッ!!!」

「どーした。速さが落ちてきてるぞ?」

「……くそ……ッ!」

ここは凌げると確信したスバルは他のメンバーのことを考える。特にカリンだ。多分だがこのパーティーで1番弱いのはカリンとコエだ。コエは男だからまぁ多少の怪我は見過ごせてもカリンは女子。もし、凄く強い敵に遭遇していたとしたらと考える。背中がゾッとする感覚がし、冷や汗を流す。

「ある意味……こえーな」

_______________


一方スバルに心配されているカリンは樹木に絡まれ身動きを封じられていた。体を動かせばさらに締め付けが強くなりカリンはどうしようかと思考を巡らせた。魔法が下手なカリンは魔法を使って脱出という考えはとうの昔に捨てている。頭を悩ませるカリンにゆっくりと近づく人影。カリンはその存在に気づき、目を凝らす。

「あー!可愛い女の子だぁ〜!」

キャッキャッと騒ぐ褐色の少女。目をキラキラと光らせぐるぐるとカリンを見回す。見られることに恥ずかしさを感じる。

「あ、あの」

「君は巨人族なのかしら!?」

「えっ、えぇ……まぁ」

「へー!巨人族ってもっとごついのかと思ったけど、案外そうでもないのね!」

少女は息をつく間もなく話を進め、カリンはあわあわとしていた。話に入る隙がない…仲間ではもちろんない、少女は敵だと分かっているが、雰囲気がただの子供のように見える。歳相応のただの子供。

「きれ〜」

「えっ」

ボソッと少女が呟いた。

「目が綺麗ッ!!!」

キラキラとした目がより一層光り輝く。さっきまでと雰囲気が変わったとカリンは感づいた。少女は狂笑を浮かべながら

「いいなぁ、いいなぁ、……欲しいなぁ」

と同じことをずっとブツブツと口にしている。頭の中で警報がなる。危ない逃げろと訴えているが体は動かないし、動けたとしても少女に気圧されどのみち足は動かせなかっただろう。目に涙が溜まる。

「君の目私欲しい!だから、私に……メアリに……頂戴なッ!!!!!」

少女……メアリの手がカリンの目に触れようとしていた

_______________


「ッ!!!」

ハァハァと浅い呼吸を繰り返し、心臓の音がやけにうるさく感じた。スバルの体はボロボロになっていた。腕や足からは血やかすり傷切り傷が数多くある。

「油断……してるから」

木の枝で仁王立ちするクレイグ。服の汚れはあるもののスバルほど怪我をしていない。

「はぁ……はぁ……」

「……そろそろ倒れてもいいんじゃない?」

「倒れねーよ……」

「……?」

「君に負けたら……仲間に笑われるじゃねーかよ!!」

「そんなこと!?」

「うるせー!俺には大したことなんだよ……」

傷が酷い……こういう時にコエがいてくれたら良かったのだが。いないものはしょうがない。

「思ったよりめんどくさいな」

「お前に言われたくないよ!!」

「そうじゃねーよ、君の強さを見誤ってたって話。たく、ホントに馬鹿だな」

「うぐっ」

それにしても、正直何されたか分からなかったなとここまでの経緯を思い出す。最初は接戦だったはずだ。だが、クレイグがスバルに手をかざした途端、スバルは一気に今の状態となった。第三者の攻撃かもしれないと思ったがここにいるのは間違いなくスバルとクレイグの2人だけだった。なら、スバルは誰に攻撃されたのかと思考を巡らせるが未だに答えが分からない。

「……君の魔法の属性ってなに?」

「ふんっ!敵に情報を教えるわけないだろ」

「ちっ、馬鹿だから話してくれると思ったのに」

「お前どれだけ馬鹿馬鹿いうんだ!」

「ホントのことだろ!」

口で悪態つくがスバルの体は限界に近かった。傷が多ければ流れる血も多い。

「威勢がいいのは口だけ、体は立ってるのがやっとってとこかな?」

「ご名答……結構辛いから、休まない?」

「なにか、企んでいるのかい?」

「別に……敵に情報を教えるわけないだろ……ばーか」

クレイグは木から降り、ゆっくりとスバルに近づく。2人に忍び寄る影に、2人は気づかない。

_______________


「いやぁぁぁぁぁッ!!!」

カリンの叫びと共に氷の壁が現れた。

「なぁに?……この、脆い氷」

カリンはじたばたと暴れる。力の強いカリンに耐えきれなかった樹木は次々にちぎれていく。あまりの力に驚きメアリは唖然とする。体が自由になったカリンは無我夢中で森の中に走り出す。メアリには勝てない絶対に。なら、少しでも距離をとろう必死に走った。

「ッ!?……私のコレクション!!!!」

「ひっ!!」

泣きながらカリンは足を早めた。歩幅の違いでメアリはすぐにカリンを見失った。

「なによ、……予想外。アイツ思ったより足が速いじゃない。弱くてもラストアークなのね」

爪を噛み、ドス黒いオーラがメアリから放たれる。

ムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつく。

メアリの頭にはムカつくの言葉で一杯だった。

「あぁ!もう!せっかく綺麗な目だったのに……ラストアークなんて滅多に会わないレアギルドなのに!」

可愛く頬を膨らませスタスタと前へ進む。カリンはというと、道に迷っていた。知らない場所なのだから迷うのは当然で、何か見えないかと辺りを見渡した。そこでカリンは廃墟を見つけた。

「他に建物もないようだし、よし!行ってみよう……」

カリンは廃墟へ向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る