第10話

ザザーと風が吹く。サリエラと敵であるクレアは互いに睨み合っていた。クレアがスっとサリエラを指さし

「……ぺたんこ」

「ぺたんこ言うなッ!!!」

って、相手のペースに飲まれちゃダメだ

ハッとしてがむしゃらに自身の頭を掻き回す。そんなサリエラを見つめながらクレアは淡々と話す。

「私、貴方を倒さなければならないのです。……だから、殺されて?」

サリエラはマントを脱いだ。最初から本気でいかなければきっと勝てない。

「生憎だな……私は負けるための理由など持ち合わせてはいない」

「貴方は私には勝てないのです」

「それは、やってみたいと分からないだろう」

サリエラは武器である透明な刃を持つ刀を握りしめる。クレアは武器を構えるサリエラをじっと見る。彼女の目は不思議だ。オッドアイなのだが、そういうことではなく、なにか偽物のような作り物のような。

そんなことを考えているとプツンッと何かが切れる音がした。目が霞む。体に力が入らない。

「……良かった……新技試してみたかったのです。」

「……あっ……ぁ、……」

言葉が上手く話せない。腕が勝手に動く。指が自分の首を締めていく。息がしずらくてしょうがない。このままではいずれ息が出来なくなってしまう。クレアは静かな声で

「お人形の完成なのです。」

♢♢♢

「ハァ……ハァッ……」

「み〜つけた、狼さん」

「ッ!!」

シンの相手はテイラーという男だ。全速力で走っているシンにいとも容易く追いつく。シンは足が速い多分パーティー一番に速いと思う。なのに、重そうな荷物を持っているテイラーに追いつかれる。本気ではないその足取りがさらにシンの不安を煽る。テイラーに勝てないかもしれないという不安が。

「顔見せて」

「ッ」

顔を掴まれ無理やりテイラーと顔を見合わせる。テイラーの腕を凍らせ力が緩んだ隙に逃げ出すがいきなりの浮遊感に襲われ目に映るのは大きな木々。思いっきり腕を踏まれる。ボキッと嫌な音が響いた。

「も〜逃げたらダメ」

「ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ッ!!うっ、」

「八重歯綺麗だね〜。ん?犬歯かな?」

「~ッ!」

「こらこら、暴れない」

またボキッと音がする。もう、片腕は使い物にはならなそうだ。痛みを堪えるが自然と涙は出てくる。

「あらら、泣いちゃった……」

「……ッ!!」

「そんな顔しないでよ…………興奮するじゃないですかぁ〜」

テイラーは笑った。

♢♢♢

息ができない。意識が遠のいていく感覚に微かな恐怖感を覚える。そんな時

「うわぁぁぁぁッ!!来るなぁァァァァァッ!!!」

「なぁぁんで逃げるの!?遊ぼ!!遊ぼうよ!!コエくんッ!!」

「ッ!!?」

「……ッ」

聞き覚えのある声の主にサリーだけでなくクレアも一瞬ではあるが意識が傾いた。

一瞬浮遊感に襲われるが倒れるわけにもいかずグッと堪え、バランスを取り直す。しまったと言いたい表情をするクレア。先程と同じ術にかからないよう、サリエラはそばに落ちていた自身の刀を握り、クレアに突進する。刀を振りかざしクレアの腕に傷をつけた。

「ッ!……お前、その腕」

「……ッ」

クレアの腕は血が出るのではなく何も無い空っぽだった。まるで、人形のような

「……貴方は人形が人として生きるのはダメだと思うのです?」

「……?」

「人形が人として生きていたら犯罪なのですか……ッ!?」

怒りに顔を歪めるクレアはどこからともなくぬいぐるみを多数取り出す。ぬいぐるみの目が一瞬目が光る。すると猛スピードでサリエラ向かって走ってきた。ぬいぐるみに意思が宿りクレアの指示通りに動く。1匹ならまだしも数え切れないぬいぐるみの数にサリエラは苦戦を強いられる。

「私は許さない。……私は……生きたいだけなのにッ!!!」

♢♢♢

「シンくん……と言ったかな。……いやぁ!君は実にいい素材だね!惚れ惚れするよ」

テイラーはシンを追い詰め、無理矢理顔を合わせる。テイラーのうっとりとした目にシンは寒気を覚える。だが、そろそろ反撃をしなくては

「……動かないでね」

「ッ!」

シンがテイラーの肩に歯を立てる。テイラーの肩からは血が溢れだしている。地面を蹴り距離をとる。今までのシンとは雰囲気が違う。

「俺……狼だから……噛まれたら危ないよ……」

ギロリとテイラーを見る。武器を手に取るテイラーだが、気がつくと目の前にシンがいた。鋭い爪でテイラーを引っ掻き、氷魔法を発動させる。息をつく暇さえないくらいにシンは次々と攻撃する。ここは1度退避した方が良さそうだと考えたテイラーは後ろへと下がっていく。シンはぼうっと立ち尽くし、森の奥深くを睨みつける。膝から崩れ落ち、バタッと倒れる。シンの目からは涙が落ちていた。自身の手をグッと握り

「俺は狼で、人間じゃない。俺は……あの人みたいになれない……」

そう呟く。目を閉じると誰かが笑いかけ、幼い自分がキラキラとした目でその誰かを見ている。そして、ラストアークの皆が自分に微笑む。いつも無表情なシンだが、皆が笑ってくれるのは嬉しいのだ。だが、血で汚れた自分を見るとシンはどこか不安に駆られる。

「……助けて…………皆……」

シンの意識が途切れた。

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