第6話
「君さ、行くとこないの?」
最近片目で慣れた視界はぼやけてばかりだ。久しぶりの日差しに目は霞んでしまうけど、彼の顔だけははっきりと見えた。
「なら、ラストアークに……入らないか?」
コエが手を差し伸べた。
♢♢♢
窓から差し込む朝日で目を覚ます。目を擦り焦点を合わせる。隣にはシンとサリエラが眠っている。アリマは静かにベットから降り、上着を着て外へ出た。柵を握り何をする訳でもなくただぼーっと朝日に照らされる湖を見ている。
「なにしてる」
「ユースティア」
アリマの隣に立ち声をかけたのはユースティアだった。汗をかいているところを見れば朝練でもしてきたのであろうか。彼は口は悪いものの根は真面目なのだ。
「なぁ、1つ聞いていいか」
「なんだ」
「なぜこちらへ来た……」
「ここは水の町だろ?……マリアは水属性だ。必然的に水の多いこの町にくるかと思って。まぁ、ただの私のカンだ」
「なんだ、カンか」
そう言ってユースティアは立ち去った。アリマは引き続き湖を眺める。昔はこの景色を綺麗だと思えたのだろうか……などとくだらない事を思った。戻ろうと呟き宿へと向かった。宿の中にある食事処へ行くと、皆が集まっておりご飯を食べていた。空いている席に座り、注文をする。暫くすると注文の品が届いた。
「とりあえず飯を食べたら活動開始だ」
「りょーかーい」
「すぐに見つかるといいのだがな」
「犯罪者のアジトがそんな簡単に見つかったら奇跡だよ」
「ですよねー」
ごちそうさまと最後に食べ終わったアリマが言う。宿を出て最初は地道な聞き込みをする。案の定目撃情報など1つも出てこない。やる気を無くす者、違う方へ目移りする者を説得し、何とか聞き込みを続ける。
「やっぱりないね〜」
「まぁ、こんなもんじゃない?」
エルが疲れたようにその場に座り込む、キロネックスはうーんと頭を抱える。エルがふと左を向くとそこに廃れた大きい倉庫があることに気づいた。エルはこっそりその倉庫へと、向かう。屋根は穴だらけ壁は剥がれ骨部だけとなっている。雑草が生え、カビもある。帰ろうと思った矢先人の気配がした。走って気配のする場所へ急ぐ。扉を開け目で確かめる。そこに居たのは神父の服を着て顔に傷のある男性だった。ゆっくりゆっくりと近づく。
「これはまた、随分と小さな人が来たものですね」
「…………誰?」
男はエルの方へ歩き出す。エルは男が歩いた数だけ後に下がる。やれやれと言いたげな顔をして、1歩進みエルへ近づいた。数メートルあった距離が今はゼロ距離だ。一瞬で距離を縮められたエルは驚き尻餅をつく。男はエルの手を取り指先にキスをした。
「……えっと……」
「初めましてお嬢さん。僕はミッシェル=パラディールよろしくね、エルさん」
「……エ……わ、私の名前……」
ニコッとミッシェルは笑った。エルを立ち上がらせ、逃がさないようにするためかのように腰に手を添え二人は姿を消した。
♢♢♢
「エルが消えた!?」
「はぁぁぁぁ!?ちょ!キロちゃん何してたのさッ!」
「効率的な聞き込みを考えてたの!!結局思いつかなかったからとりあえず帰ろうと思ったらエルエルがいなくて!!周り探してもいなかったからもしかして先に合流してると思ったけどまさかいないなんて!!」
エルの失踪に皆はどよめく。アリマの支持で聞き込み兼エルの行方を探すこととなった。
「あの、この辺りに犯罪者とか見かけませんでしたか?あと、この子探してるのですが」
「あら、お嬢ちゃん巨人族?まぁまぁ可愛い顔してること」
「あはは、ありがとうございます」
典型的なおばさんの言葉を軽く促す。エルの写真を受け取ったおばさんは思い出したように
「あぁ、この子なら、見たよ。」
「え!?どこでですか!?」
「ほら、あの森だよ」
「……森……?」
おばさんが指を指した方へ顔を向けるとカリンの大きさでも飲み込めるくらいの大きな森があった。おばさんにお礼を言い皆へ知らせる。だいぶ暗くなってきたが仲間が居なくなった事は非常事態だ。すぐ様探しに行く。森の入り口付近まで来ると森の迫力に足がすくむ。
「すっげぇでけぇ。カリンちゃんすらすっぽりじゃん」
「だが、立ち止まる訳にはいかない。いくぞ」
おう!と皆の声が揃う。森の道は地獄へ誘うかのように暗く嫌な気配が体中にまとわりつく。
♢♢♢
「〜♪」
「随分とご機嫌じゃねーの」
「るしっち分かる?この興奮するような気配」
「あぁ。やっと来たようだな」
「いい素材の子入ればいいなぁ。」
「どんな子がいるのでしょうかね〜」
マリアはチラッと先程から気になる方へ視線を向ける。
「……てかさ、みしぇっち……誘拐とかw」
「誘拐だなんて失礼な……ただちょっと遊ぶだけですよ」
男──ミッシェルは自分の膝ですやすや眠るエルを見ながら笑顔を浮かべた。
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