第19話 拳銃で足を撃ちぬかれました
「そうじゃ。わしは昨日、ローウィン殿にガブリエル様の話を聞いての、どうしても大天使様の力が見とうなって、ナチェリー様にお願いしたのじゃ」
『天使?』
アイリとグアルは首を傾げ、不思議そうにその言葉を何度も呟く。その反応から現実世界では天使なんて色んな意味で有名だったのに対して、この世界ではあまり有名ではないと推察できる。これがネットが有るか無いかの違いなのだろう。
その若い騎士二人の反応を見るや、じいさんは顔がみるみるうちに赤くなっていき、
「このっ!! 馬鹿共がぁぁ!!!」
『っ――!?』
じいさんの雷を想像させるような激しい怒鳴り声に体をビクッと震わせる二人。いや、俺も今ビックったから三人だわ。
「お主らにあれほど! 聖書を読めと言っておっただろうに! 何故読まん!」
『せ……せいしょ?』
二人は顔を見合わせ「……なんだっけ?」と思い返している。でもこういうのって大体思い出せなく終わる奴なんだよな。
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
ヤバい! じいさんの顔が般若みたいに素晴らしく怖い顔になっていらっしゃる! こんな顔が追いかけてくるホラーゲームがあったら俺、絶対にクリアできる気しませんぜ!?
「餓鬼共ッ!! その場に座れッ!!!」
『はいッ!!』
二人は般若のような形相に変わったじいさんの指示にタイムラグ無く返事をし、その場で正座を人類ができる最高スピードで行った。
「わしはお主らに言ったはずじゃぞ? ”これはいつか必ず必要となる知識だから必ず覚えるんじゃぞ”と。なのにッ!! 何故、読まん!? それどころか存在自体忘れていたじゃろ!!」
「い……いやさ? だって、あれ詰まら――」
「このッ!!! 糞共がッ!!!!!!!!!」
『!?』
さっきの怒号より何倍も大きくなった、バイクの吹かす時に出る音にも似た超巨大ボリュームにアイリ、グアル、俺はもちろん、ナチェやローウィンさん、遠くからこちらをヒヤヒヤとしながら眺めていたメイド達も一斉にビクリとする。
「詰まる詰まらないで読んでんじゃねーぞこの野郎!!」
ブチ切れして話し方まで変わる始末。いやー、恐ろしや。
その大声に驚かなかった一人の人物、エリはじじいをウザそうに眺め、
「もうっ! ガリアさんうるさいです! そもそもあんな嘘ばっかり書かれた本読んだところで意味なんて何もないんですよ!」
「なん……ですと……!?」
エリのイライラが混りの放った言葉に、般若形相のじいさんの顔が真顔になってそこから微動だにしなくなる。この人、顔芸担当でいいっすねもう。
「確かに、出てくる人物は本当に存在しました。でも書かれている事は嘘ばっかりなんですよ」
「なっ……」
「じいちゃーん、大丈夫かー」
じいさんはその驚いた声を出した後、顔だけではなく、まるでカチコチに凍り付いたように体が全く動かなくなった。そんなにそれがショックだったのだろうか。
「ほんと嫌になっちゃいますよねー。いきなり嘘ばっかり書かれた本を地上にばら撒いてそれを信じさせるなんて」
「そっ、そんな! それではをヴァルキリーを救ったバイルという人物は!?」
いきなり動き出したじいさんは身をぶつけんとばかりの勢いでエリへ近づき、何かを願うよう、かつ無礼にならないよう姿勢を下げ問いかける。
「あぁ、あのチキンですね。神の軍勢を見て恐れをなして逃げてましたよ。敵前逃亡ってやつですね~」
「うっ……!?」
軽く言い放った言葉で特大ダメージが入ったように見えるじいさん。明らかに今って精神ダメージが入ったよな。そんなにバイルっていう人物はこの国で崇められるような凄い人だったのだろうか。
「そ、それでは……! ハヒロンの大淫婦が”十の角と獣に憎まれて肉を食われ、火で焼き尽くされた”という記述は!?」
心に負った傷に耐え、まだ何かにすがるように質問をするじいさん。それ以上は止めておくんだ。
「あぁ、あの雌豚ですね~。凄いウザかったので私が殺しました♪」
「っ!?」
笑顔で残酷な事をさらりと言い放つこの大天使。それを受けてじいさんにはさらなる追加ダメージが入りよろよろと姿勢を崩す。
俺には分かる。あと一回、ダメージを受けたらこのじいさんは死んでしまう(精神的に)。
「そ、それ……ではっ! この国を滅亡させようとした初代国王の兄、コウ・バルフェ――」
――キィィィィン!!
「うっ……」
長剣を首筋に突き付けられたじいさんはその名前を最後まで口にする前に、その場で意識を失ったのかバタッと崩れるように倒れる。
「ほんと、そこが一番気に食わないんですよ。次言ったら貴方の首をご主人にプレゼントしま――」
「いらねぇよ! 俺には生首コレクションとかいうクレイジーな趣味はねぇ!!」
生首を貰って喜ぶ人間なんているか!? ……いや、この世界にならいそうな気がするが……。とにかく! 少なくとも俺は絶対にいらねぇ!
「え~? ご主人ってそういうジャンルが好きだったじゃないですか~」
意地悪そうな表情を浮かべニヤリと笑いながらいきなり言葉の攻撃を仕掛けてくるこの天使。何故にすぐ矛先が俺に向くんだよ。確かにグロ系は”アニメとして”見るのは好きだったけどリアルスプラッターは流石に無理だわ。
「…………あ、あの、そろそろ……本題に入っても、よろしいで、しょうか……?」
こんな事を普通の人が見たら10人中10人全員がドン引きするだろう危ない話をする俺達にナチェは小動物のように怯えながら声をかける。
エリから視線を外し周りを見ると、ローウィンさん達騎士は険しい表情でこちらを窺い、こちらを遠くで覗いていたメイド達は、ケモミミのマリと執事のハドラーさんを残し誰もいなくなっていた。
「あ、あぁ……いいぞ、本題に入っても! あと俺は精神異常者じゃねぇからなッ!!」
意味があるのかわからないがしっかりと今ここにいる全員に宣言しておく。
§
「それでは、本題に入りたいと思います」
俺達はさっきの若い騎士二人と鬼畜大天使の戦闘で埃が舞い散った宴会場から、昨日俺がもてなされた客室へ移動してナチェリーの説明を受ける事になった。
結局俺が食えた料理はポイズンフィッシュと呼ばれるゲテモノ
そういや、あれがこの世界に来て初めて食った物だった。何故昨日は全く腹が減らなかったのかは謎である。
「まず最初に、このたびは私の命を救って頂いたどころか、進行してきた大群を撃退し、この国を破滅からを救って頂いたことに対して礼を述べたいと思います」
椅子から立ち上がり俺に向かって頭を恭しく垂れ礼を述べる、この国を統べる王であるナチェリー・バルフェルト。普通だったら一国の王が頭を下げる事なんて無いのかもしれない。
「俺からも、ナチェリー様に仕える一同を代表してお礼を申し挙げる」
ナチェ感謝のお礼を述べた後、ローウィンさんやグアルも椅子から立ち上がり礼を述べ、周りに立つメイドと共に深々と頭を下げる。
――バシッ!
「ま、まあ、うちからも一応、礼を言って――」
――ゴシャ!
ローウィンさんに「お前も言え」という意味を込めたパーで叩かれたアイリは座ったまま適当に礼を言うが、それでは失礼過ぎると、”げんこつ”とエフェクトが出そうなくらい強く叩かれる。
「光輝様には……ナチェリー様を助けていただいて、感謝の言葉もございません……」
頭を押さえ目尻に涙を浮かばせながら、大げさすぎる感謝の礼に土下座をその場でするナチェ側近騎士の一人。さっきの威勢は何処へ行ったのやら勇ましいその面影が全くない。
「それで、そんなこの国の英雄である光輝様にお願いがあるのです」
そのお願いする姿勢は、さっきの小動物のように怯えていた保護欲に刺激されるような姿から一転して、目に強い意志を感じる真面目な雰囲気へと変わる。
「お願い?」
「はい。それは、我が国ヴァルキリーの軍師になって頂きたいのです」
「ぐんし?」
それってもしかして……あの軍師のことなのだろうか。
Orepedia[オレペディア]
「そうです。昨日もそうですが今日も光輝様はすぐに状況を判断し、行動、無力化をしていました。もし光輝様の切れる知識や強力な魔術で助力をして頂けるのならば我が国の損失、死傷者を減らし勝率は”大きく”上がることでしょう!」
実際にその状況を想像して言っているのかナチェは体を使って表現し、語る言葉に熱意が籠る。
「…………」
貢献して助けてもいいと心の何処かで思ったが俺の答えは、
「俺を評価してくれたのは嬉しい。だが俺は軍師にはならない」
「えっ……?」
ナチェリーは予想していた答えと違かったからなのか、何が起こっているのか理解できないというような表情で拍子抜けしたような声を出す。
「そ、そう……ですか……」
数秒のタイムラグの後、理解が追いついたナチェは心底残念そうに熱意を覚まし机から乗り出していた体を引き戻す。
俺が断った理由、それはもし俺の判断ミスで通常より大きな被害を出してしまったり、その結果で国を破滅へ追い込んでしまったりと言う不安。そして何よりその自分がこの国の民の命を握っているというプレッシャーに耐えられる気がしないからだ。
「あれ? この流れならご主人はそのまま軍師になると思っていたんですが」
気怠そうに頬杖をつきながら聞いていたエリは、少し驚いたように体を起こす。エリ以外も俺の回答に意外だという視線を向けてくる。
多分これは皆勘違いしているだろうから一応補足しておくか。
「俺は軍師”には”ならないって言ったんだ」
『には?』
「あー、そういう事ですか」
その言葉の意図に気づいたような声を上げるエリ以外はその強調した部分を呟やき頭を傾げる。
「なあ光輝殿。それはどういう事なんだ?」
その疑問を最初に口にしたのはナチェの隣に座るローウィンさんであった。やっぱり”殿”付けは調子が狂うんだよなー。
「それは、戦術は任せて、戦略は手伝うって事ですよ」
「戦略だ?」
「はい。例えば――オープン」
俺は出したい物、対物ライフルのダネルNTWを心で想像しながら呟きテーブルの上に出現させる。
『えっ!?』
俺の素性を知らない人、ナチェリーとローウィンさん以外のアイリやグアル、賢者のガリアさんや執事のバトラーさん、それ以外のメイド達がいきなり出現した銃を見て一斉に驚く。
「これは銃と呼ばれ、弾丸という鉄でできた物体を高速で射出する遠距離武器です。そして弓の何倍もの殺傷能力と射程を持っています」
俺の銃の説明が終わった後、ローウィンさんやガリアさん、アイリとグアルが立ち上がって対物ライフルに近づき、興味津々に眺め始める。
「ほう? この”じゅう”とやらはどのくらいの射程があるんだ? 今この場には同席していないが、俺と同じナチェリー様の側近騎士の一人が弓で500間もの離れた敵兵を狙い撃っていたぞ」
確か60間で110mだったはずだから、ざっと計算して約900mくらいか。うん、それ人間じゃねーな。弦を引き人間の力でそれだけの距離を飛ばすのは化け物レベルである。それも命中させるという事は視力もとても高いのだろう。
「えっと、この改造ダネルの射程は約5000mだから間で換算すると…………約2800間くらいじゃないですかね」
『なんだって!?』
俺の回答によって聞いていた一同が一瞬で驚愕に染まる。やっぱりこの世界では射程5000mはありえない事だったようだな。現実でもそうだけど。
「でもそれじゃ敵が見えんし当たらないんじゃないか?」
「あっ、それは大丈夫です。電子スコ――魔法でその距離を拡大できるので楽々狙えます」
いちいち分かるように言い換えないといけないのが少しだるい。銃が普及したら専門用語をたたき込むか。
「まあ、この武器は玄人向けなんで一般兵には持たせませんが」
「えっ? これじゃないなら何を使うんだ?」
「それを今から出すので待っててください」
銃を持ち上げて質問してくるローウィンさんを止め、テーブルに置きっぱなしだったタブレットを持ち起動し【銃火器】を選択して【HG(ハンドガン)】を選ぶ。
その中は
自動拳銃ならアメリカ軍で長く採用されたM1911、日本の自衛隊が現在も採用しているシグザウエル P220、通称「9mm拳銃」などが表示される。
「えっと、難しい構造だと覚えるのに時間がかかるから単純かつ扱いやすい拳銃は……………………これかな」
そのいいと思った銃の画像をタッチして弾薬は通常にし製作を始める。
すると目の前に3Dグラフィックの骨組みのような物が現れパァァァと小さい為か一瞬で生成される。
「…………!」
やっぱりこの初めて見る瞬間というのは心が躍らずにはいられない。
この銃の基本素材は鉄からステンレスへ変更され、軽量化のためにグリップフレームの素材はスチールからアルミニウム合金に変更さている。そしてこれは15発の9x19mmパラベラム弾を使用する事ができる。
これで分かったなら君も生粋の軍事マニアだッ!
「な、なんだそれ! いきなり光輝の目の前が青く光だしたと思ったら目の前に小さな鉄の塊が出現したんだが!?」
おいアイリさんや。ベレッタM92に対してそれは失礼じゃないか?
次期米軍制式採用拳銃のトライアル(次世代銃探し)でM1911の上位互換としてアメリカで正式採用された傑作拳銃なんだぞ!
「これは鉄クズじゃなくてッ! 拳銃と呼ばれる最低限の力があれば誰でも使える遠距離武器だッ! ゴミじゃなくて傑作なんだぞ!」
「うちそこまで酷く言ってないんだが……」
「そんで? その拳銃と呼ばれるさっきの改造ダネル? とは一回りも二回りも小さいがそんなので人を殺せるのか?」
ローウィンさんは貸してくれと言わんばかりに手を出してきたのでそこにベレッタM92を乗せる。今はロックがかかっているから危険はないんだ――
「なんだこれ?」
――パチッ
「!?」
グリップに付いているロックを下に降ろしロックを解除するローウィンさん。
流石、この世界の武器好き。この程度の武器なら説明がなくてもできますか。
「ほう、持つ手の部分にあるこのくぼみを人差し指で引いて――」
「あぁぁぁ!!! ダメッ! ソレッ! ヤッチャ! ダメ! ゼッタ――」
――パアァァァン!!!
その客室に鳴り響く大きな発射音と赤く光るマズルフラッシュ。撃った後カランと床へ落ちる薬莢(中身がなくなった殻)。
そして止めにかかった時に貫かれた俺の右足。
「っあぁぁぁぁぁ!!! ぐぁっ!!」
この痛みは忘れもしない飛行機爆発事故で受けた時と同等の痛覚。腕がなくなったり目がつぶれてないだけマシなのだが、痛いものは痛いから二度と受けたくはなかった。
その場で片膝立ちになり弾を受けた足を押え、血が流れださないように手で押さえる。動脈には当たっていなかったのか血が外に流れ出す量は少ない。
「ご主人!!」
いきなり起こった出来事にエリはすぐ反応をし俺に駆け寄ってきた。
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