第20話 軍隊化計画
「待っててください! 今から治癒魔法をかけるので!!」
エリはすぐ駆け寄ってくるやローウィンさんの誤射によって撃ちぬかれた右足の部分に両手を添え目を瞑り、
「ウィータ・イルピュ・グランデ!」
そう発すると添えている両手から緑に輝く暖かな光が溢れ出す。これはさっきの馬鹿鳥、グリフォンのドーントレスを治療した時に使った治癒魔法だ。
あんなに酷かった激痛は魔法をかけられてから十数秒で無くなり出血も止まった事から傷口もしっかりと塞がれたようだ。
「ふう、出血が酷くなくて助かりましたよもう!」
治療が終わり手を傷口から離したかと思うと、いきなりギュッと抱きついてきた。
「あ、あぁ、助かった。ありがとうエリ」
「はい、どういたしまして。――それでこの危害を加えたこの人は、どうしましょうか?」
「うぉ、ガブリエル様!?」
抱きつくのを止めローウィンさんの方を向いたと思った瞬間、いきなり長剣を手元に出現させ刃先を首に向ける。
その放った低いトーンに場は凍りつき、またしても緊迫とした空気が場を包む。さっきの馬鹿鳥の時や真千の時を見て分かったがキレると決まってこんな怖いオーラを出し始めるのだ。
「目には目を歯には歯をという”ことわざ”通りに一回ご主人を受けた所、右足にブスリと突き刺して――」
「待つんだエリィィィッ!!!」
今から実行しようとしていたエリを阻止する為に背中に生えている白い翼を掴んで止める。まあ本気を出されたらゴミを払うようにすぐに吹き飛ばされそうだが。
しかし、実際の反応は予想だにしていないものだった。
「ひゃんっ! あっ! ご、主人! やめっ!」
「えっ?」
掴んだ羽から伝わるピクピクと小刻みの震える体、熱っぽさが混じる声。これは俺が”良く知ってる”声だ。それはつまり、18歳以上がプレイすることを許されるギャルゲキャラが決まって出す声、そう喘ぎ声だ。
聞き間違いかどうか確かめる為、羽の内側に人差し指をスッと滑らせる。
「いっ、いやっ……! ひぐっ……! はぅ……!」
「…………!」
――その時、俺には何かのスイッチが入った。
逃げ出そうとするエリを左手で羽をがっしり掴み、右手でススススッと何度も必要深く
「ひゃ……! やめっ……! あっ……! て、くだ……さいっ! ご主人っ! んっ……駄目ぇ……!」
体をピクピクと痙攣しているように震わせ、その時に出てしまう声を口を押さえて周りに聞こえないようにと押し殺そうとする。その反応が俺を滾らせる。
「おぉ~、頑張るな~。じゃあ、これならどうだ?」
今まで羽裏を擦っていた人差し指をつけたまま”付け根”へスゥゥゥと滑らせていく。そのいつまでも触っていたいと思えるそれはフワフワとした綿のようで高級羽毛布団を想像させる。
「っ~~!?」
ビクンッ! とさっきよりも一段と大きく体を震わし、後ろで弄っている俺の方へ顔を向ける。涙を滲ませたその瞳は「お願いですからやめてください!」と訴えかけているようであった。
――だがその背徳感が逆に火をつけた。
エリを壁まで押しつけ、正面から更なる追撃を開始する。裏から付け根、外側から端と色々弄ってみる。
小刻みに体が震え、手で口から出る変な声を押し殺し、まるで怯えているかのように上目遣いで俺を見てくる姿が俺に更なる炎上を起こす。
「さて、ラストスパート!」
――スッスッスッスッ!
「っ~~!! んあっ……! いやぁ……」
エロゲ曰く、人外娘は人にはない部分が弱点であるらしい。獣人娘ならケモミミと尻尾、人魚系なら下の魚の部分、ケンタウロス系なら下半身の何処か、ハーピーなら翼と言った感じである。
今まで現実では役に立たないだろうと思っていたエロゲの知識がこんなところで役に立つとは思わなかった。
「これでとどめだ!」
――ススススススススッ!!
「ひぅ……! い、いやぁぁぁぁぁぁっ!!」
部屋に響き渡る人類が初めて聞くだろう天使の断末魔。その声は次第に薄れ小さくなって消えていく。
§
「さて、さっきの話の続きでもしますか」
一仕事を終えさっき座っていた席に座り直す俺。だが周りは未だに唖然としてこちらを眺め続けている。
エリは今、さっきの責めの影響で「はぁ、はぁ……」と吐息を漏らしながらグッタリとして床に倒れ伏している。
「あ、あの、大丈夫なんですか?」
その状況で最初に俺へ質問してきたのはナチェだった。手で顔を隠しながら俺を見るその顔は真っ赤に染まっている。
「天使は死ねないらしいし大丈夫だろ」
「ガブリエル様もそうですが一番心配しているのは光輝様ですよ」
ん? あぁ、そういう事か。確かにエリが復活したら俺はおしまいだな。でも俺は自分の意志を貫くことができたから後悔はしていない。
「いいんだナチェ。あの暴挙に出た結果、ローウィンさんを救う事ができたのだから」
「光輝様……」
こんな事でも俺の身を案じてくれるナチェは本当に優しい子だと思う。戦争がなければどんな風に生きていたのか容易に想像できる程に。
「すまん光輝殿……。俺があんな事をしてしまったばっかりに……」
俺の足を撃ちぬいたベレッタM92をテーブルに置き申し訳なさそうに頭を下げる。銃のグリップを見るとしっかりとロックがされていた。
「いいんです。謝らないでください。俺は自分の
場の空気は通夜の時のように雰囲気が重く、暗くなっていく。寝ているアイリ以外。つーかあの状況で寝るとか凄い神経してんな。
§
俺が生存できるあと少しの時間、それを今から有効に使いたいと思う。
「なあ、今から”ある事”を記すから紙を貰えないか?」
「紙、ですか? 分かりました。ハドラーさん」
「かしこまりました」
執事のハドラーさんはナチェが名を呼んだだけで理解し、紙を取りに行く為に扉を開けて部屋から出ていく。そして何故かマリも追いかけるように出て行った。
「あの、何を書くのか聞いてもよろしいでしょうか?」
「あぁ、それは――」
「お待たせしました」
「えっ?」
扉が閉まってから多分10秒も立っていないだろう間。「取りに行っ」と心で思いかけている途中に戻って来たのだ。紙がある場所はそんな近くにあるのだろうか。
「光輝様、これで差支えないでしょうか?」
「ん? これは……」
手渡された紙は、まあ紙なんだけど、全体が少し茶色く変色していて端がボロボロで少し変な匂いがする。コーヒー牛乳をぶっかけた紙を干したらこうなるんじゃないか?
「すみません。どうやら綺麗な羊皮紙を今切らしているようで。これは私共がメモ代わりに使っている商品になる事がない紙です」
「羊皮紙……だと……!?」
まさかリアルで羊皮紙を目にするなんて思わなかった。昔にアニメ化した行商人物のラノベで存在を初めて知ったくらいだし。
「だ、大丈夫……です。ありがとうございます」
「それは何よりでございます。それではこれをお使いください」
俺の前にコトッと置かれる小瓶に入った黒い羽。小瓶の中が黒い液体で満ちている事から多分羽ペンと呼ばれる物だろう。
「光輝殿。今から何を書こうとしてるのか聞いてもいいか?」
今質問してきたローウィンさんだけではなく周りの人も知りたそうにこちらを見ている。まあ、書く前にいくつか聞いて整理して状況を判断しておかないといけないんだが。
「それを答える前に質問をしてもいいですか?」
「なんだ質問って?」
俺が知りたい事、それは、
「この国の兵力です」
これから俺が記す事、それはこの国を現代装備でガチガチに固めて最強にするための指示書、いわば計画表だ。それを作るにはまずこの国の兵の数と特徴を確かめなければいけない。
「兵力? 人数とか特徴とかでいいのか?」
「はい、大丈夫です」
するとローウィンさんはハドラーさんを呼び何やら小さな紙を受け取る。俺が今いる所からも分かる程、びっしりと何かが書かれている。
「えっとな、この国の現在の兵士数は魔法使いを合わせて947人だ」
眉をひそめ頭を片手で押さえながら受けとったメモを見て答える。
「それで特徴だが、数こそ少ないが兵士全員にこの国を守るという硬骨な意思があるため、そんじょそこらの国の兵より手ごわいぞ」
「なるほど」
それなら怖くて逃げだすとか寝返るとかはなさそうだ。まるで第二次世界大戦中の家族と天皇の為に戦う日本兵のようだな。
だが人数が多くなるに比例して人間が活動に必要な物、水食糧の消費が激しくなる。それが途中でなくなれば戦線は数日もせず崩壊するだろう。
「攻める手前、食料は足りているんですか? 相手の出方によって長期戦になるのですが」
「それならヴァルキリーを囲む自然豊かなヘラ山脈のおかげで腐る程有り余っている」
一番重要な物があるなら大丈夫かな。よし、必要な情報は揃ったしそろそろ記入を始めますか。
茶色い羊皮紙を自分の目の前に広げ、黒い羽ペンから垂れるインクをポンポンと払ってから書き始める。
――軍隊化計画――
まず全ての兵士にベレッタM92(実弾)を所持させる。
◦陸戦汎用攻撃部隊
10式戦車×45(その中で兵装をA型とB型で分ける)陸戦隊。
その中でAとBの部隊長と副部隊長を兵士に中で選抜するにあたって以下の条件を要する。
1、物覚えがいい者。2、怖気づかず勇敢な者。3、命令に忠実な者。
できるなら男、それも大人が好ましい。
兵士は一台の戦車に3名が登場し、部隊を結成するにあたって3×45、部隊長と副部隊長を合わせた135名が必要。
――補足――
A型――対人戦闘を主眼に置いた15機は主砲HE弾と上部ハッチに取り付けられた手動のM60(ゴム)。中の搭乗員はゴム弾を使用したAK-47を装備。
B型――対ドラゴン戦を想定した20機は主砲APFSDSと主砲の左右に取り付けられたオートタレット化されたM134。搭乗員の一人にRPG及びダネルNTWを配備する。
◦航空支援攻撃部隊
AH-64D×27(攻撃隊)、CH-47×60(輸送隊)の戦線を支える航空大隊。
攻撃隊で隊長と副隊長を一人ずつ、輸送隊で隊長三人、副隊長6名を以下の条件で選抜する。
1、物覚えがいい者。2、状況を見極め指示を適確に送ることができる者。
3、高い所が苦手ではない者。4、命令に忠実な者。
一機につきAH-64Dには一人、CH-47には4名が搭乗し、隊長と副部隊長を合わせた207名が必要。
――補足――
AH-64Dにはスタブウイングにハイドラ70ロケットを左右四つ設置。左上部ポットにはM264RP(煙幕)、左上部ポットにはM156(攻撃マーカー)を装備。左右下部ポットにはM255(ロケット弾)を装備をする。
CH-47は主に10式戦車、歩兵、燃料弾薬、食料水などの輸送を主とする。
◦白兵陸戦部隊
重武装を施した200名の本土制圧部隊。1小隊5名からなる40小隊。
武装はAK-47で30発入りのマガジンを10つ所持。その中の8つはゴム弾、緊急時の為の実弾マガジン2つ。
各小隊に1名の小隊長とそれらを束ねる部隊長を以下の条件で選出する。
1、物覚えがいい者。2、状況を見極め指示を適確に送ることができる者。
3、慈悲の心を持つ者。4、命令に忠実な者。
小隊長と部隊長は大人である事が必須。
◦BV(ビギニングヴァルキリー)独立部隊。
隊長俺の率いるF35+F16×3機からなる4機編成の航空隊。
編成するにあたって以下の人員を要する。
1、物覚えがいい人。2、高い所が苦手ではない人。3、命令に忠実な人。
この条件を満たしているのなら男女年齢は問わない。
俺を含めた計546名が今回の反抗作戦の参加者である。参加しない者はヴァルキリーにて防衛に回ってもらう。
――――――――――――――――――――――――――――
「まあ、こんな感じかな」
今書いた軍事計画書(仮)をナチェに手渡す。その周りにはローウインさんやグアル、ガリアさんが興味に駆られ群がっていく。(アイリは気持ちよさそうに寝ている)
「この”じゅっしきせんしゃ”というのはなんじゃ? それに航空支援攻撃部隊の下にこの国の物ではない語源が使われておるしの」
ガリアさんはAH-64Dの文字に指を指して「ふむぅ」と悩みながら疑問を口にする。やっぱり初めて見る人は”ヒトマル式”をじゅっしきと言ってしまうようだ。
「10式戦車はいわばヒュドラに匹敵、あるいは凌駕するだろう現代兵……魔法の乗り物です」
『なっ!?』
俺の解説でまた驚く周りの人達。一般兵では数百人でも太刀打ちできないドラゴンをたった一台で倒せる、そして凌駕するかもしれないというのは驚かずにはいられないだろう。
「上位魔法使いの十人がやっとの思いで倒せるヒュドラをたった一つの乗り物でだと!?」
「はい、いけると思いますよ」
さっきヒュドラの大群にMK84を投下した時、その被害範囲で大体の固さが分かった。鱗の強度は一般の鉄、その厚さ12mm前後。例えるならば日本に昔配備されていた九七式軽装甲車くらいの防御力だと思えばいい。それならAPFSDSで余裕に貫通できる。多分HEでもいけるだろう。
「うわぁ! 光輝様の魔法は凄いですね!」
うはぁー! 天使の満面の笑み頂きました! なんとまあ可愛いんでしょう! 目をキラキラさせながら両腕をぶんぶん振って、凄いと体でも伝えようとしているなんて。
「いやー! それほどで—―」
――キラーーンッ
「……………………」
泣く子は気絶し笑う子は発狂するだろう禍々しいオーラを放つ者が俺の後ろに立っている。お前は本当の意味での天使だが……天使じゃない! それは悪魔っていうんだ! エリさん!
「…………ナチェ、とりあえずそこに書かれている条件の人を厳選しておいてくれ。もし生きて戻ってこれたら編成を始める」
「光輝様……。分かりました。貴方様が必ず戻ってくると信じて必ずや今日中に選び抜いておきます!」
「光輝殿……。ナチェリー様を救って頂いた事、俺が死ぬまで一生忘れることはない。本当に世話になった!」
なんかローウィンさんの言い方だと俺が確定で死ぬみたいじゃん。確かにそうかもしれないけど。
「ふふふふ」
後ろから悪者のように笑いながら、獲物を縛る蛇のように手を回してくる天使と言う名の悪魔。それは心の底から愉しそうに笑う。
「ごーしゅじん♪ やられたらやり返すって知ってます?」
その答え、昔のロボットアニメ又は近年のドラマの有名セリフだよなぁ。
「ば……倍返しだ……?」
「せいかーーい! 流石ご主人――分かっていますね♪」
耳元で囁かれる背筋が凍るような声。笑っているのにもの凄く冷たい。
「は、はは」
その誰にも止める事ができない詰んだ状況に自己放棄からくる乾いた笑いを口にする。
「それでは! 今日は失礼しますね♪ テレポート!」
エリがそう言い放つと視界がどんどん歪んでいき手を見ると透けていた。多分誰もいない所に連れていかれて俺の人生は終わるのだろうか。
この予想していた悲劇用に余った紙に書いておいた物をナチェの方へ丸めて投げる。
俺が書いたこと、それは、
――やっぱり神様なんていなかったね――
「こう……き、さま」
その次の瞬間、俺と俺を抱くエリはポワァァと粒子になってその場から消えた。
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