第14話 地に這うドラゴンを爆撃しました
グリフォンのドーントレスに乗ってから数分たつとヴァルキリーのシンボルといえる王城へ到着する。
ドーントレスの背中から降りて周りを見ると兵達が慌ただしく動いていた。
どうやら前線で負傷した兵達を本土であるここ、ヴァルキリーに連れて帰り治療をしているようだ。
そんな中でローウィンさんは兵士達の状態を見て「こいつの負傷は激しい! 最優先だ!」「こっちの四名は骨が折れてるみたいだから治癒魔法をかけてやれ!」「こいつは止血だ!」と的確に医療班に指示していた。
なんか仕事時の杉さんみたいだな。
そんな時、ローウィンは指示を止め一人の横たわる兵士の元に片膝で座り込む。
俺達は何があったのか気になったため近寄った。
「はは……自分は……国の為に……戦えましたでしょうか……?」
そこにはまだ成人もしていないような若く優しそうな雰囲気を出す青少年がいた。
そいつは右腕が無くなり腹には槍で刺されたような傷、それも複数あり出血も酷く助かる可能性は現代でもゼロに近いだろう。
ローウィンさんはそいつの左手を掴み爽快に笑いかける。
「お前はよくやった! 国の為に最後まで、よく頑張ったな。だからお前は、もう休め……」
「……あぁ……」
その言葉に若い男は安心したような表情を浮かべ、ゆっくりと目蓋を閉じ息を引き取った。
その青少年が死んだ事を確認したローウィンさんは立ち上がり「この男を家へ帰してやれ」と指示して兵達に運ばせる。
そして「この3名はまだ助かる! 最優先だ!」「こんな浅い切り傷で弱音はいてんじゃねぇ!」「ここにいるガキ共に飯を持ってこい!」など兵達の指示に戻る。
「これが……戦争なのか……?」
俺は辺りを見回してその酷い有り様につい、呟いてしまった。
「はい。でもこれは"優しい方"ですよ」
「これで優しい……?」
辺りには負傷した兵達が数百はいるが、その中では大人より子供の方が目立つ。パッと見て七割くらいは子供ではないだろうか。
子供が戦争に駆り出されるのが優しい……?
「生きて帰ってこれるなら優しのです。黙示録に神に立ち向かった人達は天使の軍勢に逃がされず皆殺しでした。それも"立ち向かった人の一族"までも皆殺しです」
「なっ……!?」
幼い子供や動けない老人も殺したってことなのか?
「……お前達天使はそんな神に不満を持たなかったのか?」
「もちろんその神の行動に不満を持つ天使は少なからずいたのです。ですが……。神の命令に天使は逆らえないのです」
「えっ……?」
逆らえない? 会社で上司の言うことを聞くみたいな社会的意味か?
「分かるように説明すると自分の気持ちと関わらず体が勝手に動くのです」
それって、命令されたらロボットの様に動くってことなのか?
そうやって嫌がる天使を無理矢理動かして人を殺させていたっていうのか?
「そいつ、ぶん殴りたわ俺……」
「私も正直ぶん殴りたいです。ですが、無理ですね」
まあ、神に手をあげるなんて普通なら無理だよな。近づく前に存在すら消されそうな気がする。
「まったく、あの神はどこに逃げたんですかねぇ~」
「えっ、逃げた?」
「はい。黙示録後、全て神から苦情の嵐に会い、法廷から逃れるために身を眩ませたんですよ」
法廷って神様にもあるのか。やっぱりそんな大惨事をやらかしたんだから終身刑か死刑にでもなるのだろうか?
「そんで? そい――」
――ドゴォォォォォォォン!!!
「なっ!?」
突如後ろから爆発したような音と振動が響く。
振り向くと集積していた前線用だろう補給物資がバチバチと音を立てて激しく燃えていた。
『敵襲っ!!!』
兵士の大声とカンカンカンカンと鐘を叩く音が周りに鳴り響き、負傷兵の看病にあたってい兵達は武器を持ち城門から走って出ていく。
俺達が近くにいたことを気づいたローウィンさんは俺に「ナチェリー様を頼む!」と言い残し負傷者を避難させるためかその場から走り去る。
「なあ、これってもしかして地上から攻められたのか?」
「そんなハズありません! もし敵の侵攻を見つけたらヘラ山脈の麓にある監視所からすぐに連絡が来るハズです!」
そう言い切ったその時、ナチェの元に走ってきた兵が「敵は全てが竜種! 数は万を越え! "地上から"接近中!」と報告する。
「…………」
「だそうだナチェ」
「……はい」
でも監視所の兵がサボってたという可能性を除いたとしてそれはおかしくないか? 見つからずにそんな大規模な軍勢を侵攻させるなんてもはや透明にさせないと無理じゃね?
俺は「オープン」と呟きF35 ライトニングを正面に出す。やっぱりカッコいいな。
「それじゃ、敵軍を潰してくるからナチェはここで待っててくれ」
「そんな! 私も行きます!」
(はぁ~。やっぱり言うと思ったよ。一人乗りのF35を出して正解だったな)
万が一撃墜されてナチェを殺すようなことになったらこの国は俺を恨み、殺しに来るかもしれない。(主にローウィンさんが)
「すまん! これ一人乗りだから!」
「あっ! 光輝様!」
逃げるように急いでキャノピーを開けて操縦席に乗り込み閉める。その時にちゃっかり俺の膝に座っていた人形姿のエリに吹きそうになった。
起動のために順番にパチッパチッとスイッチを押していきシステムを起動させる。
「(危ないからこの金属の物体から離れろよ!)」
外部スピーカーを使って機体の近くにいるナチェや周りの兵達に注意を呼び掛けた後、サブエンジン点火させ、先にレーダーとHUDを起動させる。
キチガイ全方位レーダーをつけた瞬間、ピピピピピピと目標を認識していく。
見ると敵が近くに沢山、俺を囲むように展開していた。ここから10mくらいの距離……、
「ってこれ! ここにいる人全員じゃねーか!」
あぶねぇ! リアルFF(フレンドリーファイア)するところだった! そんな事したらここに俺の居場所は無くなるだろう。
「やっぱりご主人はサイコパスですね!」
エリはこちらを見ながら意地悪そうにニヤリと笑う。
「ちげぇ! ただ設定してなかっただけだ!」
俺に負傷者を虐殺する趣味なんてねぇ!
このトリガーを引いただけで人を殺してしまうような危険な状態を改善するため、万能タブレット君を出して電源を入れて立ち上げF35の【編集】をタッチする。が……
(なんか違う? というか増えた?)
そこには昨日見たときには無かった【ペイント】という欄があった。
「これは?」
「あぁ、それは多分兵器製作表のレベルが上がったからではないでしょうか? 試しにレベルを見てください」
「レベル?」
ホーム(最初の画面)に戻り確認すると"lv2"となっていた。
「あれ? なんでレベル上がってんだ?」
「うーん、それは私には分かりません……」
「ん?」
その時、遠くで赤い玉のような物が上へ飛んでいき放物線を描くようにまっすぐ……
「って! やばっ!」
気づいたと同時にメインエンジンを点火させVTOLモードで真上に少し上昇した後、操縦桿を手前に傾ける。
気づいてから5秒。そんな短い時間で火玉をギリギリで回避する。
次の瞬間、ドゴォォォォォォン!!! と俺が今いた所に衝突する。
「あぶねぇ! 間一髪……ってナチェは無事なのか!?」
下部に取り付けた光学カメラから下を正面ディスプレイに映しナチェを探す。
この魔改造機体が少し揺れるほどの爆発だ。近くにいたら腕や足の一本軽く吹き飛ぶだろう。
「あっ、いた!」
ナチェは城壁の近くでローウィンさんと同じ鎧を着た男女二人の後ろに守られるように立っていた。
あの騎士二人はローウィンさんと同じくナチェの側近なのだろうか。
「ふぅー。そんじゃ、迫撃砲みたいに撃ってくる奴らを潰しにいきますか」
ナチェの無事を確認した俺は針路を敵が侵攻している方向へ向けて飛行する。
Д
「うわぁ……なにこれキモイ」
空中で静止して下を見た感想がこれであった。
下には人の姿はなく大きなトカゲのような生物、ヒュドラが地をガサガサガサとゴキブリのように跋扈(這いずり回る)していたのだ。
そいつらは急な崖が登れないのかずっと周りをうろうろしていた。
そしてその後ろからは亀のような姿をした生物三体が今もなおヴァルキリーに向けて火玉を吐き続けてる。
「まさか、ヒュドラだけではなくマラクまでいるなんて」
エリはディスプレイに映された下の状況を見て少し驚いていた。
「マラク?」
うーんどっかで聞いたことがあるような……。
「マラクは竜の中では好戦的な方で人間が飼いならす事はほぼ不可能なはずなんです」
「ほう? 不可能なこと相手は三回もやってのけたのか」
普通ではできないことをする=異常者である。
もしかして相手に俺と同じようなチート使いがいるとか……まさかないよなー。
俺はとりあえず迫撃砲のように撃ち続けるマラクを潰すことにした。
タブレットを操作してMK84×2とブリムストーン対戦車ミサイル×4を機体下部に装着し、フラップの邪魔にならない所にある翼上部のハードポイントに25mmガトリング砲ポッドを左右二門装着する。
AN/APG-81(レーダー)を使い対地攻撃モードにした後、正面ディスプレイをタッチしてマラク三体をロックする。
「そんじゃ、見せてもらおう、ブリムストーン対戦車ミサイルの威力とやらを!」
トリガーを引くとパシュゥゥゥゥゥ!!! と大きな音と煙を上げながらミサイルは目標へ飛来していく。
それに気づいたマラクは危険を感じたのかそのミサイルを撃ち落とそうと火玉を何度も吐く。だが精度が悪いせいか当たらない。
そして吸い込まれるようにマラク胴体に命中し、ドォォォォォォォン!!! と大きな爆発が起こり煙が着弾した辺りに立ち籠る。
「まさか、これで死なないとか……ないよな……?」
ドラゴンっていうとやっぱり強いイメージしかないからな。これで耐えられたら他の方々で倒さなきゃだし。
「ご主人……。なんで自分からフラグを建てに行くんですか? ドMなんですか?」
「違うッ! 今のはただの弱音的な何かであって、断じてッ! フラグなんていう強力な呪いではないッ!」
「そ……そうですか。それならいいのですが……」
それから数十秒が経過すると煙が徐々に霧散していく。
俺は「あれはフラグではないフラグではない!」と自分に言い聞かせながらズームして着弾位置を確認すると、
――竜の姿形、その残骸すらなかった。
「ほらな! だからこれはフラグではない……と……ってそれはおかしい」
核じゃあるまいし、あんな20mはありそうな大きな竜が肉片すら残らないってどう考えてもおかしいだろ。何? これってそんな強力な兵器だったの? 巡航ミサイルのトマホークでもそれは無理な気がするんですが……。
「ご主人……あれは違います!」
エリは驚いたような表情で映されたマルクがさっきいた場所を見ていた。
「えっ? 何がだ?」
「あのマルクですよ! あれは生物であって”生物ではありません”!」
「生物ではない?」
「はい。あれはご主人が今乗っている戦闘機と同じように召喚されたものです!」
はい、フラグ回収ワロタ
「ってことは俺のようなチーターがいるってことなのか?」
「そのようですね。……でもどの神がそんなこと……」
エリは何かぶつぶつと言いながら何かを考えているようだ。
最後になんとか聞こえた、どの神がそんなこと、が気になるが今は敵を倒すことに専念する。
ヒュドラが密集している地点にVTOLモードのまま接近してMK84を落とす準備をする。
多分、この地面が見えなくなるほど埋め尽くすヒュドラを倒すには爆撃機を使うか、F35ならB61戦術核を使った方が楽なのだがどちらも範囲と自然環境的によろしくないので地道に削ることにした。
操縦桿についている赤いスイッチを押すとカチャン! と外れた音がしたあとヒュゥゥと下へMK84、2発が落ちていく。
そして密集したヒュドラの中心に二つ同時着弾し、ドゴゴォォォォォォォン!!! とその周囲に爆風をまき散らす。体に来る大きな振動はさっきのブリムストーン対戦車ミサイルやダネルNTWの比ではない。
煙が消えた後その位置を確認すると、爆心地から約半径200m以内にいたヒュドラは姿形が消えて、それ以外は片足が取れたり首がなくなったりと損傷していた。
(本当にこれで兵士数百人分の強さなのか? これなら頭を撃てばアサルトライフルでも殺せそうなんだが……。いや、これはただ兵装が強いだけなのか?)
今ので多分60体くらいのヒュドラを巻き込むことができただろう。
しかし山を埋め尽くすような量のヒュドラすべて、約1万を潰すには単純計算で最低でも166回を投下しなければならない。作業ゲーもいいところだし、山の形も変わってしまうだろう。
それに何かのはずみでヒュドラがヴァルキリー最後の防壁である崖を登らんとも限らないし早く駆除しなければならない。
「うーん……。親玉でもいればいいんだがなー」
「あのご主人、あれじゃないですか?」
「えっ?」
俺はエリが指をさした斜め上方向を見る。
そこには大きな胴体に翼を羽ばたかせた二本足の生物がこちらをずっと凝視していた。
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