第15話 最高の同士を見つけました

「うーんどっかで見たことあるんだよなー」


 俺はその生物を光学カメラでズームした後、そう呟いた。


 真っ黒な胴体に大きな両翼、退化してなのか足より小さな鋭い爪の生えた手、大きな二本足、長く太い尻尾、顔は……はいこれどう見てもドラゴンですね。

 やっぱりこのドラゴン、俺がお世話になっていたソシャゲ―の看板モンスターによく似ている。


「なあエリ。あのドラゴンはなんていうんだ?」


 まさか名前まで同じじゃないよなぁ。


「えっとーそれがですねー。あれ、色々と混じっているので……わかりません!」


「混じってるってつまり?」


「ファフニールとかリヴァイアサンとか赤龍とかワイバーンとかヨルムンガンドとか

 ……。とにかく色々混ぜたらあんな感じになると思います」


 要するにハイブリットドラゴンってやつなのかあれは。


 俺は回避行動の準備をしつつ確認の為、ゆっくりドラゴンへ近づいていく。

 するとドラゴンも動き始め、こちらへゆっくりと近づいてきた。

 

 相手との間隔が10mくらいになったところで俺とドラゴンは止まる。

 

 よく見るとドラゴンの背中には人が乗っていた。

 光学カメラでズームすると、その人は”逃げた者勝ち”と書かれたTシャツを着た20代前半くらいに見える眼鏡をかけた女性だった。雰囲気的に今まで家に引きこもってPCでもいじってたんじゃないか? って感じがする。

 こちらへ何かを伝えようとしているのか口がパクパクさせている。

 

 俺は対話するために外部マイクとスピーカーをONにする。


「君は! 現実世界に! 生きていた! 人間! なんすか!」


 その女性はさっきからずっとそう問いかけていたらしい。


「(ああそうだ! あんたもか?)」


「あぁ! やっと話せた! そうっすよ! 私も現実世界で生きてた者っす!」


 マジか……。転生者は俺だけじゃないのか。そしてチートを使うなんて。


「まさか私以外にした人がいるなんて!」


「(転移?)」


「あれ? 君も転移したからここにいるんじゃないっすか?」


 おかしい。この世界に来るには数時間の制限、又は死んで転生しなければ来る事ができないはずなのにどうやってこの世界に……。


「(あ……あぁ、いや確かにそうだったな)」


 俺は情報を引き出すために嘘をつく。

 

「いやー、それにしても転生なんてゲームとかアニメ、二次元の中だけだと思ってたのにまさか実際に自分がするなんてビックリっすよねー。それも一国の王になるなんてビックリを通り過ぎて草」


 なるほど。


「(あんたも二次元好きなのか?)」


「えっ? ってことはもしかして君も?」


「(あぁ、周りから異常者と言われていたほど好きだぞ)」


 そんな俺の回答に引きこもりのような女性は仲間でも見るような顔で「ふふふふふ」と変な笑い方をする。


「まさか、異世界で私と同じ人種を見つける事になろうとは!」


「(ほう? なら試させてもらおう)」


「へ?」


 その言葉に嘘はないだろうが一応確認を取らせてもらう。にわかは一番むかつく人種だからな。


「(おきのどくですがぼうけんのしょはきえてしまいました)」


「っ……! 呪われた装備をした時のBGMが流れるトラウマ!」


「(猫リセット!)」


「やめて! それでデータ破損したから!」


「(アンチ!)」


「否定的な糞野郎!」


 くっ! やるなこいつ! だがこれならどうだっ!


「(泣きゲー!)」


「主にR18のアダルトゲーム! そして私は乙女ゲーだぁぁぁ!」


『OU! マイフレンド!!』


 こいつ! 俺と同じで二次元とゲームを極めるものだ! つーか言葉がハモるとか学でもなかった。ここまで気の合う人にあったのは初めてかもしれない。


「(俺は阿達光輝っていうんだ。光輝でいい。最高の同士よ、名前は?)」


「私は秋元真千あきもとまちっていうっす。真千でいいっすよ最高のブラザー」


 初対面で言ったら絶対に引かれそうなことを普通に言える俺達ってすげぇ!


「(なあ同士よ。一つ聞いてもいいか?)」


「なんすか、ブラザー?」


「(なんで我が国ヴァルキリーを攻めるんだ? できるならやめて欲しいんだが)」


 もっとも気になっていたことを聞く。


「ああ、あの国は君の国だったんすね。なら、なおさら燃えてきたっすよ!」


「(いや説明を)」


「あれ? 君なら攻める理由を知ってるんじゃないんすか?」


「(いや、何も)」


 攻める理由ってもしかしてこの自然豊かな山々に囲まれたヴァルキリーを占領して自分の移住先にするとか、もしくは自国の植民地にするとかか?


「なら教えてあげるっすよ~。攻める理由。それは”ある死体”を求めてっすよ! その死体は何でも、一生魔法を使い続けてもなくならない程の魔力が詰まっているらしいっすからねー。それさえあれば私はこの世界で最強になれるんすよ~」


「まさかっ……」


「エリ?」


 エリはその言葉を聞いて瞬間、怒りや悲しみを込めた表情になり真千を睨む

 そしていきなり天使の姿に変わる。


「ちょ!? エリ!?」


「ご主人……、このガラス窓を開けてください。私にはやらなければいけないことができました……」


「やらなければいけないことって?」


「それは……あちらの人間を”殺す”ことです」


「はぁ!? 待つんだエリ!」


 開けないならキャノピーを突き破ってでも行くという雰囲気が出ているエリの腕を掴み止める。


「どうして殺す必要があるんだ! そこまでしてそれは守らなきゃいけないものなのか!?」


「そんなの……当たり前ですっ!!!」


「……!」


 俺は会ってから初めて聞いた、怒鳴り声にも似た大声を聞いて驚き、声が出せなかった。

 その死体はエリにとって一番大事な人だったのだろう。


「……とりあえず開けてください。殺しませんので……」


「……本当に、殺さないんだな?」

 

 エリは俺の確認にコクッと頷いたのでそれを信じて、キャノピーを開ける。

 するとエリはバサッと羽をはばたかせF35の隣を飛ぶ。


 「まあ、そっちがヴァルキリーってことはやっぱり居るっすよねー」

 

 真千はドラゴンに何か指示をすると、殺気が満ちた雰囲気に変わる。多分戦闘態勢になったのだろう。

 エリは「オープン」と呟き、淡く光る長剣を手元に出す。


「光輝君は戦わないなら離れているっす。巻き込まれるっすよ」


「ご主人、危ないので離れていてください」 

   

 俺は二人の指示に従い、巻き込まれないように後方へ移動する。


「最後に警告します。殺したくありませんので引いてはもらえませんか?」


「ふっ。するわけないっすよそんなの。っていうか前に会った時より雰囲気変わりすぎじゃないっすか? 前なんて虐められている子供みたいに暗かったのに」


「はい? 私、貴方と何処かで会いましたか?」


 エリは首をかしげて「えっと……」と思い返している。


「一週間前の事をもう忘れたん? ……もしかして天使って洗脳とかされるんすか?」


「……一週間……一週間……。あっ! もしかしてあのやけに固かった赤いドラゴンですか?」


「そうっすよ! 私が高高度からオワタ式対空があるヴァルキリーに突入しようとした時、いきなり魔法で攻撃してきたじゃないっすか!」


 高高度って事は成層圏じゃん。そんな生身の体で行ってよく無事だったな。それとも何か対策でもあったのだろうか。


「そんなの、侵攻しようとしたら防衛するなんて当たり前じゃないですか」


「ぐっ……正論……」


「それに私は、"大切な人"に危険が迫ったら……全力で守り通しますよ……?」


 エリは真千へ最終警告をして長剣の刃先を向ける。


「……ほう? あの死体が大切な人なんすか。なら奪って私の物にしてネトラレダグをつけてやんよ!」


 さすが俺と同じ二次元信者。乙女ゲーをやり過ぎて危ない単語を至極普通に言いやがった!


「絶対にヤらせません!」


「絶対にトってやんよ!」

 

 それを合図にしてドラゴンチーターと大天使が互いに「うらぁぁぁ!!!」と叫びながら突っ込む。



 ーーーーガキィィィィンッ!!! 



 鉄と鉄がぶつかり合うような大きな音がこの空に響き、大きな火花を散らす。

 

 つーかこの人達、限りなく危険なんですが……。これ以上危なくなったら神様に消される前に規制をかけないとマズイですね。


 

 天使とドラゴンは何度か打ち合った後、互いに離れて中距離戦をしようと準備する。


「ホーリーレイ!」


 エリは片手で数十の魔方陣を空中に展開し、固定砲台のようにドラゴンに向けてビームを一斉掃射し全てを命中させる。

 前に俺を攻撃してきた人間の魔法使いは単発撃って再度詠唱って感じでリキャスがあったのに対し、エリは魔法の名前を言っただけで数十発を放っている。


(大天使さんはやっぱりチート気味てるな)


 あんな生物特効がついたビームを食らったらバ○ムート擬きでもひとたまりもないだろう……と思っていた。

 しかし、


「ふふふ、たかがホーリーレイごときでこの"ディメンションギャラクシードラゴン"に傷をつけられるとでも?」


 ビームが命中した所を確認するが傷らしい跡がひとつもなかった。

 それに真千の周りには薄虹色の障壁が展開されていた。もしかしたらあれが成層圏に行って無事だった理由だったのかもしれない。


(つーかなんだその凄い共感できる中二病要素満点の名前は! マジリスペクトっす!)


「そんな、どうして!」


 エリはありえないといった表情でドラゴンを見ていた。生物に効果を発揮する攻撃が全く効かないという事に驚いているのだろう。


「そんじゃ~次は私の番っすよ!」


 真千が指示をするとドラゴンの口から炎のような赤い光が溢れ始める。

 そして次の瞬間、



 ――ブワァァァァ!!!!



「うわっ! はかいこうせんじゃねぇかっ!!!」


 赤く光る極太ビームがドラゴンの口からエリへ発射される。こんなの直撃を受けたら死ねないエリでもキツいんじゃないか?

 痛覚はあるみたいだし。


 そのビームはエリが動く前に巻き込み、彼方まで飛んでいく。

 あんな撃ったら当たるみたいな速度を認識して避けるなんて無理だろう。


「(エリっ!!)」


 俺は名前を叫び、安否を確認する。

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