第13話 ダネルNTW-20で狙い撃ちました

「オープン」


 ――ガキィィィィン!!!


 俺が腕で顔を伏せ、死を覚悟している時、前で鉄と鉄がぶつかり合うような大きな音がした。


「な……なんだ……?」

 

 ゆっくりと目を開けていくと天使の姿になっているエリが俺の前に立ち、突っ込んできた巨大なグリフォンと対峙していた。

 エリの持つ淡く輝く長剣とグリフォンの片方の長い牙がぶつかり合い、ギリギリと火花を散らしている。


「な、なにぃぃ!?」


 グリフォンはその状況に驚き、ゆっくり足を後ろに引いていく。


「私のご主人に……貴方は……、?」


 エリの低いトーンでの問いかけで辺りの空気が一瞬でピシッと凍りつく。まるでこの場所が凍土になってしまったのではないか? と感じてしまったほどに。

 あんな華奢な体で15m以上の巨体の突進を止めるとか、エリさん強すぎません?

 

 エリは長剣をラインを描くようにスッと横に振り下げた後、ゆっくりと歩いてグリフォンに近づいていく。

 グリフォンはそんなエリを恐れ、1歩ずつ逃げるように引いていく。

 その光景がまるで狩る者と狩られる者のように見えた。


 そして甲板の端に追いやられたグリフォンは止まり、観念した、と思いきやいきなり「あっ!! あんたのご主人がっ!!」と叫ぶ。


 どう見てもこれは「UFOが飛んでる!」みたいなノリなので騙される事はないだろう……と思っていた。

 しかしエリは「えっ!? ご主人!?」と見事にグリフォンに釣られて俺の方を振り向く。


「ははっ! かかったな天使!」


 グリフォンはバサッと翼を羽ばたかせ、勢いよく空へ飛び上がっていく。


「くっ……! ご主人を使うとか卑怯なっ!」


 エリもバサッと翼を羽ばたかせ飛んで追いかける……が、グリフォンの方が1.5倍くらい早く、速度的に追いかけるのは無理なようだ。


「ははっ! 天使ごときがグリフォンのスピードに勝てるわけないだろ~!」


「…………殺していいなら楽なのに…………」

 

 何か物騒な言葉が聞こえた気がするが気にしない。

 

(なんかこのまま終わるのは悔しいなー)


 というわけで俺はタブレットを取りだし起動させ兵器製作表を表示させる。

 そして【銃火器】を選択する。するとHG(ハンドガン)、SMG(サブマシンガン)、LMG(ライトマシンガン)、AR(アサルトライフル)、SR(スナイパーライフル)、【その他】が表示される。


(やっぱりゲームみたいだよなぁ)


 俺はそこそこの距離を飛行するグリフォンを撃ち落とすためスナイパーライフルを選択して、その中にある、ダネル NTW-20という名前の対物ライフルを選ぶ。

 そのあと適当に改造をピッピッピッピッとやっていき、弾薬をいつも御用達のゴム弾にして【製作】をタッチする。


 すると青く輝く3Dグラフィックの骨組みのような物が目の前に現れ、パァァァと上から形を帯びていく。


「…………!」


 俺はやっぱり感動して声が出なかった。

 

 この対物ライフルは南アフリカ共和国のアエロテクCSIRと言う会社が製作したボルトアクション式の対物ライフルだ。

 このライフルは人が携行できる中では大きい方の弾薬、20mmx82を使う。まあ今はゴムだけど。

 そして三発分しか弾が入らない弾装に、手動で回転させ、ロック、解除を行うことができる右側面のボルトハンドルが……ってない!?

 そもそも銃自体が一回り大きい気がするのは気のせいか!?


 確認のためタブレットに目を向け改造内容を見ると…………おかしぃなぁ……


 ーーーー改造内容ーーーー


 内部構造の改良とバレルの強化、鋼材の見直しにより射程が1500mから5000mに上昇。それに比例して威力も上昇+軽量化。

 ボルトアクションからオートマチック(自動装填)へ変更。

 20mm口径を30mm口径に変更。

 ショックアブソーバー(振動を減衰する装置)を改良することにより反動を極軽減。

 マガジン(弾装)を5発式に変更。

 サイトを電子スコープに変更。(ナイトビジョン、サーマル、光学など)



「やべぇよやべぇよ……、この対物ライフル……」


 こんなキチガイスナイパーライフルが現実世界にあったらどんな所でも無双できますね。だってこれ、腕さえあれば航空機だって落とせるし、軽戦車だって潰せるし。

 


 俺はその場に伏せてNTW-20のバイポットを甲板に立て、標準を空を飛び回ってエリを馬鹿にし続けるグリフォンへ向ける。


「あの光輝様? 何をしようと?」


 ナチェは対物ライフルの横でしゃがみ不思議そうに質問してきた。


「あぁ。これからあの馬鹿鳥を撃ち落とそうとな」


「うちおとす……撃ち落とす!? そんなことしてドーントレスちゃんは大丈夫なのですか!?」


「大丈夫、死にはしない。"死には、な"」


 もの凄い痛いだけだから。


「あとこれから凄い音がすると思いうから、しっかり耳を塞いでおけよ」


「音……ですか? はい、わかりました」


 ナチェは俺の指示をすぐに聞き入れ耳を塞ぐ。本当にいい子。



 兵器ガイドインストールのお陰で、今まで俺が兵として戦ってきたように銃の使い方が分かり、手や体に馴染む。

 これならどんな特殊な武器でも使いこなせそうだ。ただし重機関銃とかミニガンのような重い武装は俺の筋力的にキツイかもしれない。

 

 風は無風、時々緩やか。弾道の変化は特に無し。

 

「それじゃ、あの馬鹿鳥を……狙い撃つぜ!!」



 ドォォォォォォン!!!!



 引き金を引くと対物ライフルの大きな発射音が辺りに鳴り響き、空気は太鼓を近くで聞いた時のように震える。


「ぐぎゃっっ!!!?」


 そしてグリフォンの悲鳴も響く。


 30mmの直撃を食らったグリフォンは空中で動きが止まり、そのままヒュゥーと垂直落下してきて地面に大きな音を立てて激突する。


「ごしゅじーーん!! ナイスショット!!」


 エリは親指を立てて俺を称賛した後、グリフォンの前に降り立つ。

 

 俺は対物ライフルを「クローズ」と呟き消した後、ナチェと赤城から降りてとグリフォンの落下地点へ向かう。



「さて、この鳥は……?」


 着くとエリは剣をグリフォンに向け、低い声で囁いていた。

 マジで怖すぎませんかねエリさん。これ……地球温暖化も防げそうなレベルなんですが……。

 

 俺に気づいたグリフォンは恨みを込めた目で睨む。


「くっ……! 卑怯だぞ人間っ! 天使を盾に使うなんてっ!!」


「はぁ……? 何を、言っているんですか? ?」


 エリはグリフォンの喉元に剣を突き付けゴミを見るような目で冷ややかに見下す。


(あのーエリさん! 目のハイライトが無くなってヤンデレみたいになっているんですが!)


「そもそもですね。ご主人がもし本気で殺しにきたら貴方なんて形すら残りませんよ……?」


 確かに。水爆でも、核ミサイルでもぶつければ塵一つ残らないよな。

 

「そんなっ!! たかが人間ごときに何ができるんだっ!」


 グリフォンは俺の方を向いて咆哮のように叫ぶ。

 なんというかライオンみたいだな。


「あっ、言ってませんでしたね。ご主人は"天使ですよ"」

 

『えっ……?』


 そんなエリの言葉にグリフォンとエリは驚き、顔を俺に向ける。


「そんな……。光輝様が……ガブリエル様と同じ……?」


「そんな……ありえねぇ! 天使が嘘ついてんじゃねーぞ!」


 エリは騒ぐグリフォンの首に刃をくっつけ、ゆっくりと押す力をいれていく。


「脳ミソ無しは……騒がないでもらえます?」


「ひっっ!? わ、分かったから……やめてくれっ!」


 グリフォンの怯え方がもうモルモットみたいになっているんですが……。


「なあエリ、もうそれくらいでやめようぜ。それ以上やっちゃうと動物愛護法に引っかかっちまう」


「こんなゴミ、動物ですらありませんよ。まあ、ご主人が言うのであればやめますが」


 エリは俺の言葉に従い「クローズ」と呟き、持っていた長剣を消す。

 そんな俺を見てグリフォンは「お前、いい奴だな!」と感激していた。こいつ、本当に脳ミソ詰まってんのか?


「あの……光輝様」


 そんな時、ナチェが怯えたような表情で俺の名前を呼ぶ。その顔は化け物でも見るような表情にも見える。


「何故、天使である貴方が私を助けたのですか? エリさん……ガブリエル様ならまだ分かります。ですが……」


「えっ……? ただ助けたかっただけなんだが。それっておかしな事なのか?」


 そんなこといったら現実で俺はとても異質に見えていただろう。


「普通はおかしなことなんですよ」


 エリが補足をいれる。


「見返りもなく他人を助けるのはハッキリ言って馬鹿なんですよ。神でも天使でも悪魔でも見返りがあるから助けるんです。何も返せないと知ったら助けませんよそんなの」


 うわぁー、現金な奴ら……。


「ですからご主人はおかしいのです。…………まあそんなご主人だから惹かれたのですが…………」


「ん? おかしいの後が聞き取れなかったんだが」


「えっ!? あっ! いや、気にしないでください!」


 エリは「なんでもありません」と胸の前で手をぶんぶんと振り、笑顔で話を流そうとする。


「ぷぷぷっ! この天使デレてやん――」


「ホーリーレイ」


 エリが呟いた瞬間、光り輝くビームがグリフォンの目の前で着弾しシュゥーと煙をあげる。


「ひっっ!?」


「この魔法なら貴方ごとき魔物……貫通できますよ♪」


 エリさん! その目が笑ってないニッコリとした笑顔マジで怖ぇよ! また背筋が凍ったじゃねーか!

 下手な幽霊とか魔物よりエリの方が恐いんじゃないか?


「あの一つ聞いてもよろしいでしょうか?」


 ナチェおそるおそる俺に話をかけてきた。


「ん? あぁ、なんだ?」


「光輝様はガブリエル様とはどのような関係で?」


 はい? 関係? どうしていきなりそんな事を。


「私達は夫婦です♪」


「ちょ!? エリ!?」


 エリは勝手に解答して俺に肩をくっつけ甘えるように頭を擦り寄せてくる。その行動がまるで甘える子猫のように見える。


(くっ……! これは…………可愛い……!)


 エリの解答に「なるほど、だからですか」とナチェはポンと納得したようにして手を叩く。


(嫌ではないけど……それはちょっと早すぎやしませんかね?)


「まあ、後は宴会の席で詳しくお願いします!」



 そのあとエリは嫌がりながらもグリフォンに回復魔法を施し、不自由なく動けるようにした。

 グリフォンはさっきの事をあたかも忘れたかのように「おぉ! 助かったよ。ありがとう天使!」と爽快にお礼をしていた。鳥頭ワロタ。


 俺達はグリフォンのドーントレスに乗り、ナチェが準備してくれた宴会へ向かう。

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