第10話 空母赤城を設置しました
「……じーん。……しゅじーん、おきてー。ご主じーん」
女の子がしゅじーんと呼ぶ声で俺は意識が少しずつ覚醒していく。
「……あれ? 俺、エロゲしてるときに寝落ちしたんだっけ?」
秋葉原で大量に仕入れてきたからな。その消化をしていたのだろうか。
俺はゆっくりと目蓋をあけていくと…………目の前にシスター服を着た銀髪ロングに赤瞳の白い翼の生えた美少女がいた。
「うぉぉ!? 何!? 俺死んだの!?」
少女はそんな驚く俺を見て「全く、寝ぼけてないでちゃんと起きて下さい」と俺の頬を両手で触れる。
「あれっ? 夢じゃなかったのか?」
「そうですか。ご主人には夢に見えるんですね?」
すると少女は顔を近づけいきなり「チュ」とキスをしてきた。
「うわっ!? エリ!?」
「え……へへ。これで現実だと気づきましたか? ご主人♪」
エリは人差し指で俺の唇に触れて恥ずかしそうに笑う。
「あぁ、確かに。そして俺のファーストキスが奪われたわ」
「いえいえ、これは"二度目"ですよ。だからセカンドキスです♪」
エリは胸の前で手を合わせて「えへへ」と微笑む。
シスター服や天使の白い羽がまとまってエリが聖母に見える。
「つーか、エリ。なんだが機嫌が良くないか?」
昨日の怒っている表情から一転して凄く嬉しそうだ。
エリは「んー秘密です♪」と、とても嬉しそうに笑う。
そんなまぶしい彼女の笑顔を俺はやっぱり知っている。
俺達が身支度を整えて一階のカウンターに行くと、まるで学ランのような黒い服を着た若い男が壁に寄り掛かっていた。
その男は俺達に気がつくとピンと立ち「ナチェリー様のご命令で参ったアウロ、サナリーと申します!」といきなり自己紹介をしてきた。
「お、おう……そうか」
見た目は20代前半で顔は好青年といった印象を受ける。
「それで命令ってなんだ?」
「それは昨日、光輝様が頼んだ敷地までの案内です」
あーそうだった。確か俺、"ある大型兵器"を設置するために敷地をナチェリーにくれって頼んだんだっけ。まさかすぐに手配してくれるなんて思わなかった。
「それでは、準備でき次第出発しましょう」
俺は部屋の鍵をカウンターのおじちゃんに返して宿屋を出る。
多分今は朝7時くらいだろうがもうガヤガヤと店の回りが凄い賑わっている。日本の商店街顔負けですな。
俺があたりを見渡しているとアウロと名乗った青年が「それでは行きますのでついてきてください」と言ってきたので素直について行くことにした。
それから宿屋を出て城の外周を通り過ぎ、町を過ぎ、畑を過ぎ、グリフィン農場(?)を通り過ぎていく。
数十分歩くと回りに建物や石を詰め合わせてできた道路がなくなり、代わりに芝生のような短い草が一面に生えた平地につく。
アウロはその場に止まり俺達の方を振り向く。
「ここの草が生えた所が光輝様の敷地になります」
「えっ、こんなに?」
「はい。ナチェリー様の命令ではそうなっております」
太っ腹過ぎるぞナチェリー様よ。
こんな東京ドーム6個分はありそうな広大な土地をくれるなんて。これなら今から設置する兵器以外にもいくらか置けそうだ。
(よし、ここを俺の"軍事拠点"にするしかねーな)
アウロは疑問そうな顔で「一つよろしいでしょうか」と聞いてきた。
「あぁ、いいぞ」
「光輝様はこんな広い土地を使い、何をするおつもりなのですか?」
まあ気になるのは当然だよな。
「そうだなー。なら、お前も見ていくか? これから俺の"拠点製作"を行うから」
アウロは、なるほどって感じの表情になり「はい。たまに見に来ますね」と笑顔で言ってきた。
あぁ、そうか。そりゃ拠点作りなんて言ったら数ヵ月はかかると思うよな。
「いやいや。今、一瞬で作るんだよ」
そう言うとアウロは「はい? 何言ってんだコイツ」みたいな顔で俺を見てきた。そして社交辞令のような笑いをする。
「ははは、全く。そんな幼い子供みたいな冗談はやめてくださいよー。知性が疑われますよ?」
(うわーなんだこいつ。好青年かと思ったら、ただの猫かぶりだった! 今のめっちゃイラッときたわ)
その時エリが近づいてきて小さな声で耳打ちをしてくる。
「ご主人、この方を驚かせてやりませんか? 私、今イラッときました」
どうやらエリも同じ事を考えていたようだ。
俺も小さな声で「あぁ、俺も同じ事を考えていた」とエリに言うと嬉しそうに「ふふっ、やってやりましょう」と返答する。
俺は製作するためタブレットを出し、アウロの方を見る。
「なあ、アウロ。もし俺が一瞬で拠点を作れたらお前はどうする?」
アウロは「ふっ」と俺を小馬鹿にしたようにニタリと笑う。まるで現実世界にいる虐める奴の顔だ。
「もし出来たら、僕は逆立ちで城の外周を百周でもしますよ」
そしてテンプレのような馬鹿であった。
「そうか。なら、"約束は守れよ……?"」
俺が低い声で言うとアウロはビクッとして一歩後ずさる。
「い、いいでしょう。なら、できなかったら光輝様はナチェリー様から離れてください」
あっ……このパターンは。
「何? お前。ナチェが好きなのか?」
アウロはまたビクッとする。
「そ、そんな、ははず、ないでですよ!」
いやいや。そんな現実では絶対やらないような動揺されたら鈍感な俺でも分かってしまうよ。
それを見たエリは嬉しそうに「ご主人、アウロさんにナチェリー様を取られてしまいますね!」と耳元で言ってきた。
だから俺は仕返しのように言い返す。
「大丈夫だ。取られるもなにも俺はナチェを恋愛的な目で見ていない。それに俺だったらエリを選ぶぞ」
だって数百年も愛してくれた子(大天使)の気持ちに答えてやりたいじゃん。
そんな俺の言葉にエリは「っ~~」と恥ずかしそうに呻き声をあげて顔を隠しその場にしゃがみこんでしまう。
アウロはそんな俺を見て「やっぱりナチェリー様が危ないっ!」と敵意を剥き出しで見てきた。
俺はタブレットを操作して【艦艇】をタッチする。
するとDDH(ヘリコプター搭載護衛艦)やDDA(対空多目的護衛艦)やDDG(ミサイル護衛艦)や、原子力空母ならエンタープライズやシャルルドゴールなどが表示される。だが欲しいのはこれらではない。
俺はlv1の兵器製作表をlv0に切り替える。
すると現代兵器から第二次世界大戦、それ以前の兵器がズラリと並ぶ。
この中で有名といったら戦艦大和や長門、空母赤城や加賀だろう。それ以外にも沢山ある。
「うぉぉぉ! やっぱりすげぇぇぇ!!」
俺は感動せずにはいられなかった。
現代戦闘機とかイージス艦は死ぬほど頑張ればいつか乗ることができるかもしれないが、もう失われた第二次世界大戦の兵器達は二度と乗ることができない。
なのに俺は今、搭乗することができるのだ!
俺が感動して見ていると「やっぱりご主人は幼い子供みたいですね!」としゃがんでいるエリは下から俺の顔を覗きこみ「ふふっ」と笑う。
「くっ……。しょうがないだろ! こんなの一生叶わないと思ってたんだから!」
俺は"赤城"の画像をタッチする。
すると座標の設定が出てきてXY軸は0でZ軸が3579になっていた。ってことは今いる位地が高度が3579mあるということだ。
「えっと、まずy軸を300にして、縦30mくらいだからZを"3559"にして、と」
そう設定した理由は二つある。
1つは普通に設置したら赤城が横転してしまうからだ。艦の半分以上を地中に埋めればしっかりと固定することができる。
そしてもう1つは何も使わずに乗り込めるようにだ。この高さにすれば飛行甲板の下にある開けた中部格納庫から中に入ることができる。
前に出す準備中を整えた俺は【製作】をタッチする。
すると目の前にF35やアパッチを出す時に出た物とは比べ物にならない程の大きな3Dグラフィックの骨組みのような青く輝く物が現れる。
アウロは「なんだこれは……!」と、まるで化け物を見るような表情で青ざめていた顔で見ていた。
そして上からパァァァと生成されていき目の前に地面に半分埋もれた赤城が出現した。
「…………!!」
俺は感動して声が出なかった。
木製でできた長い飛行甲板に赤城特有ともいえる三段式の格納庫と機体エレベーター、意味があるのかわからない射角が取れない20mm機銃と本当に史実通りだった。
「あぁ……。俺もう死んでもいいや」
「もし死んでも"また"魂を捕まえて転生させてやります! 私は"もう"ご主人を絶対に逃がしません!」
「……えっ?」
なんだろう。エリの愛が凄く重い……。
エリが正直になったのはいい。いいけど。ヤンデレって怖いですハイ。
「それで、アウロ。その場から、逃げようとするのはやめような」
俺は気づかれないようにゆっくり、そして足音をたてずに逃げようとするアウロを止める。
気づかれたアウロは「約束なんて守りませんよバーカ」と捨て台詞を吐き、その場から逃げ出す。
(なんて悪役臭がプンプンする奴だろう)
エリは「それじゃ、捕まえてきますね」と天使の姿に戻り空を飛んでアウロを追いかける。
そしてすぐに追いつき親猫が子猫の首をくわえるようにエリはアウロの服の襟を掴む。
捕まれたアウロは「うわっ!? 魔物!? 光輝様助けて!!」と俺の方を見て叫んできた。
自業自得って知ってるか?
「ほう……? 私を魔物扱いするとかいい度胸ですね、"この子羊は……"」
うおっ!? 怖っ!! 顔が笑っているのに目が笑っていないですがエリさん!
あと子羊という表現は確か"生け贄"という意味だったはず。
(少し離れた所から見ていた俺でもエリの笑顔に寒気が走るくらい怖かったって事はアウロとかもう失神レベルでは?)
エリは予想通り失神して動かなくなってプラーンと伸びているアウロを俺の方まで飛んで運び、3mくらいの高さから落とした後、地面に降り立つ。
エリの顔を見ると昨日のようにプンプンと怒っていることが窺がえる。
「私は大天使の中では温厚な方ですが、あれは流石に怒りますよ! 天使っていったら魔物の正反対の位置に存在しているに!」
「お……おう」
「私だからまだ良かったものの、ミカエルさんとかラファエルさんにそんな事言ったら殺されますよ!」
エリは腕を組み「まったく!」と愚痴をこぼしている。
どうやら天使は魔物と同じく思われる事が嫌いらしい。
まあ天使と悪魔なんて言うくらいだし、プライドというか誇りがあるのだろう。
俺は天使には、間違っても口を滑らさないようにしようと思う。これからの第二の人生の為にも。
そして今設置した艦載機を何も搭載していない赤城の開けた中部格納庫から俺達は乗り込む。
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