第8話 俺、天使とのハーフでした

 俺はそのあとヴァルキリー中に入り町の開けた道路にヘリをゆっくりと着陸させる。

 ヘリの回りには長槍をもった兵が包囲するようにように立っていた。


「なあナチェ。これ、大丈夫? 出た瞬間殺されるとか嫌だよ俺」


「大丈夫です。光輝様は私が必ず守りますので」


「お、おう……」


 女の子な守られる男とか、かっこ悪。


 俺はキャノピーをあけて先に降りた後、人の姿に戻ったエリが降りる。

 それと同時に兵達が俺に向け長槍を構え、少しでも動いたら殺すという雰囲気を出している。


 ナチェがそんな兵達を止めようとすると、さっきの騎士オッサンが走って駆けつけ「構え止め!」と叫ぶ。

 俺の目の前に着くと膝に手を置き「はぁはぁ、この年にはキツイぞこれは……」と息を荒げていた。


 オッサン騎士は息を整えた後、俺の方を向き両手を掴み「ありがとう! ナチェリー様を助けて頂いて!!」とぶんぶん振った。


(……まあ、これでよかったんだが、予想と違うな)


 よくある異世界物だったら「よくも姫をっ!」みたいになって牢獄に入れられるか処刑台に行くかみたいなパターンだろうに。                 

 つーか今、この騎士のオッサンが来なかったら長槍兵に串刺しにされて殺されていたかもしれないが。


 するとそのオッサン騎士にナチェはコックピットから身を乗り出して「ローウィン!」と嬉しそうに呼ぶ。

 オッサン騎士はその場で片膝立ちになり「はい、ナチェリー様! お帰りなさいませ!」と敬意を示す。

 オッサン騎士はまるで娘が無事帰って安堵している父親のようだった。


 俺はナチェをゆっくり降ろしておんぶする。そして片手でヘリに触れて「クローズ」と言いその場から消す。

 回りの兵士やその後ろから見ていた民衆は「今何が起こったんだ!?」「まさか賢者!?」「うわぁぁ、あのおじさん凄い!」なんてざわざわと話し声が聞こえてくる。

 あと俺はまだ24だからおじさんじゃねぇ!


      §


 俺達は騎士オッサンの案内のもと、町の中央にある城へ向かう。


 さっきナチェが国はもう賑やかではないみたいな話し方をしていたが、凄い賑やかだ。

 子供達がボール蹴りで遊んでいたり、おばちゃん達が数人で集まり「ふふふ」と世間話をしていたり、40代くらいのオッサンが昼間から飲み潰れていたりと日常的な賑やかさだ。

 俺はおぶっているナチェに前はどのくらい賑やかだったのか聞いてみることにした。


「なあナチェ。この町は今の状態でも充分賑やかだと思うんだが、前はこれ以上だったのか?」


「はい! それはもう!」


 ナチェは前の事を思い出しているのか「ふふふ」と笑っている。


「前は様々な商人や旅芸人に博識の賢者など沢山の人が訪れ、町は毎日お祭り騒ぎでした。しかし今は戦争中ということもあって訪れる人が激減しました」


 なるほど。ようするにここは秋葉原みたいな所だったのか。



 そこから十分くらい歩いていくとカンカンと鉄の打つ音が鳴り響く区画に入る。武器や防具があることから、どうやらここで装備品を製作しているようだ。

 俺はただそれを眺めているだけで凄いワクワクする。


 ドラ○エで俺は新しい町に行くとまず向かうのが武器屋だった。武器を見て「うぉ、これ強いな!」なんていう瞬間がとても好きだからだ。


 俺がそんな装備品の数々をニヤけながら眺めていると後ろから「はっはッは」と笑い声が聞こえてきた。


「お前さんもやっぱりワクワクするか!」


 騎士オッサンは俺の肩をポンポンと叩き爽快に笑っている。


「はい! それはもう! "も"ってことは貴方もですか!」


「あぁ! 俺もだ! いやぁー、お前さんとは趣味があう!」


 なんだろう。俺はこの人と話すのが楽しいと思ってしまった。こんな感覚は友達の学まなぶ以来だろう。


「そういや、お前さんにまだ名乗ってなかったな。俺はローウィン、ハインというんだ。そしてナチェリー様の側近だな。それでお前さんは?」


「自分は阿達光輝(あだちこうき)と言います」


「こうき? 珍しい名前だな」


 ローウィンさんは手を顎に当てて「こうき?」と不思議そうに繰り返し言っていた。



 俺は、鍜治屋の中の1つに目が止まる。理由は、モン○ンに出てきそうな大きな大剣が立て掛けてあったからだ。縦は3m、横は50cm、厚みは30cmはあるだろう。

(こんなの人が使える物なのか?)


 その大剣をジィィィと見ているとナチェが「どうしたのですか?」と聞いてきた。


「いやな、こんな大きくて、そして凄く重そうなこの大剣を使う人なんているんだろうかと思ってな」


「何いってんだ光輝。使えない武器なんて作らねぇよ」


 するとローウィンさんはその大剣を片手で軽々しく持ち上げ目の前でブンッ! と振る。


「えはっ!?」


あんな大きな物を片手で、それも包丁でも持つようにヒョイと持ち上げただと!?

 そして鍛冶職人に「おい旦那! これ少し軽いんじゃねーか?」と言う始末。

(異世界の人、マジパネェ……)



 鍜治屋を後にして数十分は歩いた後、やっと城の正面へ着いた。

(これ、車ないとキツくないか?)


 俺はローウィンさんに案内され城門をくぐり中庭に入る。 

 中では兵士達がせっせと食料や大砲の玉、武器や防具をグリフィンに運び積んでいた。これは前線の補給物資だろう。

 俺達はそこを通り過ぎようとした時、ナチェに気づいた兵達はその場に荷物を置き『ナチェリー様! お帰りなさいませ!』とその場で片膝立ちになり敬意を示していた。

 ナチェは「皆さん! ご苦労様です!」と笑顔で労う。



 兵士達がいる広場を通りすぎた後、まるで日本の城のような構造の道へ入る。


 日本の城は守りにとても強い。

 例えば城門をくぐる時に上から待ち構えていた兵に槍で串刺しにされたり、狭い道を通るとそこを狙って上から弓で打たれたり、通った道がいつのまにか閉鎖されて袋小路にされたりと攻める側からしたら恐怖でいっぱいなのである。

(どの世界でも考える事は同じなんだなー)



 そして迷路のような通路を抜けてやっと城の入口にたどり着く。もし俺一人であそこを通れなんて言われたら30分以上はかかりそうだ。(冗談抜きで)


 ローウィンさんが両手で城の扉をキュィィと開ける。

 中ではいかにも執事といった感じの白髪で眼鏡をかけた爺さんがメイド服を着た女性達を集めて指示をしていた。

 こちらに気づいた使用人達は両手を腹に組みゆっくり頭を下げ「お帰りなさいませ、ナチェリー様」と敬意を示す。

 ローウィンさんはすぐさま「ナチェリー様は怪我をされている。早く手当てを」と指示を出し、ナチェを俺からメイドに引き継がせ運んでいく。

 残された俺とエリとローウィンさんは執事の爺さんに客室に案内される。



 客室は大理石のような素材で作られているようなテーブルに程よい柔らかさなイス。金が使われていそうな壁紙に現実世界だったら高く売れそうな絵。


 執事さんは「それではイスに御掛けしてゆっくりとお待ちください」と俺達を座らせその部屋を出ていく。

(やべぇよ、なんか落ち着かないんだが……)


 俺が回りを見てソワソワしているとローウィンさんに「おい光輝」と呼び掛けられる。


「なんですか?」


「光輝に聞きたい事があるんだが」


 ローウィンさんはイスにもたれ掛かり楽な体勢をとる。


「聞きたい事とは?」


「それはな光輝、エリ……。お前らは"何者なんだ?"」


「えっ?」


 ローウィンさんはさっきのフランクな表情から一転してまるで獲物を狙う狩人のような鋭い目線を向ける。


「何者って……?」


「お前らからは異常な量の魔力が溢れるように出ている。まあ人間も少量の魔力生成をしてはいるんだがお前さん達の千分の一にも満たない」


「えっ……それは、どういう……?」


「はっきりと言うぞ。お前らは"人間ではない"のだろう?」


「はあっ!?」


 エリはまだ分かるとして俺が人間じゃないってどういう事だよ……

 ローウィンさんの言葉に動揺していると「それは私が説明しますご主人」と今まで黙っていたエリが口を開く。


「私はご主人を現実世界で殺した後、こちらへ転生させる為に、自分の特権を使いあることをしたのです」


「あることって?」


「それは種族変更です」


 はい? 種族変更? お前はなに言っているんだ……。


「やっぱり信じてませんね」


 エリは椅子を引いて立ち上がりテーブルから少し離れる。 


「それでは私の本当の姿を見せます」


 何か呪文のような物を唱えるとエリの足元に結界のような紋章ができ、そこから眩い光が溢れだす。俺は耐えられなくなって目を瞑る。


 少しして光が止むと俺は少しずつ目蓋を開けていく。

 俺はそれを見て言葉を失う。

 もしかしたらこの世界に来てから一番驚いたかもしれない。


 俺の正面にはシスターの服を着て、目を瞑り両手を胸の前に祈るようにして、儚げな表情を浮かべ、背中に大きな白い翼を生やした人がいた。


(なんだろうこの感覚……、やっぱり何処かで会ったことがあるような気がする)


 そしてその天使はゆっくりと目を開けて腕を上に「んー」と伸ばす。そして腰に手を当てて「と、まあこんな感じですご主人」と言ってきた。


「お前、天使だったのか?」


「はい、そうですよ」


 ローウィンさんは神でも見るような畏怖したような表情でエリを見ていた。


「まあ、私だけじゃなくてご主人もですが」


「はぁ!? 俺も天使なの!?」


「はい、人間と天使の混血になっているので魔力以外、人間と変わりませんが」


 マジか、俺も天使にジョブチェンジしてたなんて。よし、子供と犬を回収しに行くしかねえーな。



 固まってたローウィンは「まさか貴方は……!」と片膝立ちになり頭を垂れる。まるで神様でも信仰するように。

 いやそんなまさかな……


「そう、我は七大天使の一人、ガブリエルである」


 ってやっぱりめっちゃ偉そうな人……いや天使だった! マジか……。あんなネタ要員っぽいエリがそんな……


「と、こんな大層な役を早く引退したい、しがない天使です♪」


エリはキャピーンとピースを目にかざし中腰になる。なんか昔のJKみたいだな。



 エリは敬意を示し続けるローウィンさんに「別に敬わなくていいですよー」とフレンドリーに言うが、解こうとするどころかさっきより強張った。


「そんなっ! 建国時に神との契約の"架け橋"となった貴方様に無礼など!」


 ローウィンさんは恐れるようにしてエリの顔を見ようとしない。

(架け橋? どゆこと?)


「そんな大昔の事なんてもういいですよー。確かにあの頑固な駄女神を説得するのは骨が折れましたが」


「神? 契約? 分かりやすく説明よろしく」


「はい。ようするにですねー、数百年前に、信仰するから守ってくださーい、という契約を人間が神にしようとしたんです」


「ほう、それで?」


「ですがねー、契約しようとした神は、あーダルいわーやってられないわー、といった感じの駄女神な方でしてね」


 うわぁー、現代のニートのような神様だな。でもなんかそういうのって人間くさくてある意味安心できるよな。


「最初は、面倒くさいからパス、なんて言って契約しようとしなかったんですよ」


 よくそんな神に契約しようとしたな人間……


「そこで私は女神ヘラの日常のスキャンダルになりそうな事をコツコツと集めました。そして契約しなかったら他の神にこの事をバラして一生未婚で終わらせるぞ、と脅しました」


 神に歯向かう天使とか命知らずなのな。つーか神様にも婚活事情とかあるんだな。


「すると、契約するから止めてくださいお願いします! と土下座してきましてね」


 神を土下座させる天使とか聞いたことねぇよ!


「それでやっと契約を取り付けたと言うわけなんですよー」


「…………なるほどなー……。ん?」


 そういやなんでエリはそこまで人の為に動いたんだ? 天使っていったら大体は神側に付くだろうに。


「なあ、なんでエリはそこまで人間の味方をしたんだ?」


そう聞くとエリはビクッと肩を震わす。なんだこの反応、ちょっとおかしくないか?


「そ、それはですねー、えっと、その……、秘密です!」


 エリは顔を赤くして背中を向ける。

 なんだろうやっぱり変だな。エリがこんなに動揺するなんて会ってから初めてだろう。

 それにエリを見ているとモヤモヤした心残りのような物が現れる。



――俺はエリを"知っている”?――



 一応の確認の為に聞いてみることにした。


「なあエリ、お前に何処かで会ったか?」


「いやいやー、もう会ってるじゃないですかー」


「いや違う。俺がこちらの世界に来る前だ」


「っ……!!」


 俺がそう聞くとエリは言葉が詰まり驚いた顔をする。もしかして本当に会った事があるのか?

 するとエリは俺に目線を合わせず「……えっと、その…………私っ! 外の空気を吸ってきますっ!!」とその場から逃げ出すように客室をでていく。

 すれ違った時に見た横顔は何処か悲しげだった。



 俺はエリが走り去った跡に落ちていた天使の羽を拾い、それを眺める。

 確信はないんだがやっぱり何処かでエリに会っている気がする。それも随分親しいような……。親しいのに忘れるっていうのもおかしな話しだが。


 俺はその天使の羽を両手で抱え、窓ガラスから空を眺めた、

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