第7話 対空魔法で死を覚悟しました
あれからヴァルキリーに向けてヘリを数分間飛ばすと木が生い茂げ、一面緑の山岳に入る。どうやらヴァルキリーは山に囲まれた所にあるようだ。
「それにしてもここら辺の山、高くないか?」
正面ディスプレイの高度メーターは今、約3800mと表示されていた。多分、今飛んでいる高度と下との離れかたを見てこの山々は3700mくらいはあるだろう。
(これってあと数十メートルくらい高ければ富士山と同じ高さだぞ)
「このヘラ山脈は初代国王が建国時に女神と契約して出来たと言われております」
なんで異世界なのに現実世界の神話ネタがちょこちょこあるんだろうか。
「そしてこの山脈は攻めるのは難しく、守るのは容易いという性質を持っております。そのお陰で負け続きで疲弊していたヴァルキリーも少ない兵力で国を守る事が出来ました。ですが……」
ナチェはそこで言いかけたまま俺の顔を見る。まあ理由はわかる気がする。
「ですから、今日の侵攻は本当に危ない事でした。光輝様に助けていただけなければ私は殺され、ヴァルキリーは今頃侵略されていた事でしょう。光輝様には感謝してもしきれません!」
生まれてからここまで感謝された事なんて俺は一度もなかっただろう。中学ではむしろ疎まれて、「死ね」なんて言われていたのに。
(感謝されるっていいことだなぁ)
「いや、当然の事をしたまでだ!」
「そうですね! 美少女だから助けたんですもんね! 変態♪」
「ちょ!? そんなことないぞ! 俺は困っている人がいたら手を差し出すぞ!」
「かっこ、"女に限る"、とじ、ですもんね!」
……どうしてエリは俺にこんなに当たりがキツイのだろうか。俺……そんな嫌われることなんてしたか?
§
それから少しして山脈がいきなりひらけ…………俺はその光景を見て驚いて言葉を失った。
俺が固まっているとナチェが振り向いて「ふふっ」と笑う。
「凄い所ですよね! 我が国、ヴァルキリーは!」
「あぁ、これは凄いな……」
これは現代でいうマチュピチュを東京ドーム60個分くらいの面積にして町を防壁で囲むように作り、町並みを中世にしたらこんな感じになるだろう。確かにこれなら攻めるのはキツくて守るのは容易そうだ。
「でもこれ、この国に来るの大変じゃないか?」
だって富士山くらいの山を三つも越えてやっとここにたどり着くのだから。
するのナチェは「あれを見てください」と指を指す。
その指した方向を見ると遠くで何か飛んでいた。
確認するために光学カメラで拡大して正面ディスプレイに映すと……なんだこれ?
俺が見た何かは、まるで牛と鷲が混ざったような姿の全長15mはある巨大な生物だった。そしてその上には人が沢山乗っていた。
「あれはグリフォンと言う魔物です。他の魔物と比べ温厚で、知識が高く人の言葉を理解し話します。グリフォンは我が国の必要不可欠な交通手段です」
「成る程な、まあこんな所にある国を徒歩で行こうなんてさすがに思わんもんな」
富士山往復三つ越えツアーなんて誰がやるかよ。少なくとも俺は絶対行かないぞ。
そこで俺は1つ疑問を思いつく。
「なあナチェ。どうして敵群は空を飛ばずに地上から攻めたんだ? 空から行った方が楽だと思うんだが」
「それはですね! 我が国に強力な対空魔法が……あっ……」
そこでナチェは言葉を止めてサァーと顔が青ざめていく。
(……このパターンはあれだよな……)
すると本日二度目の赤外線探知機がビービービービーと警報をならす。
「やっぱりご主人はこうなるんですね! わかります!」
「いやいや、俺が悪いの?」
光学カメラでその位置を正面ディスプレイに映す。場所はヴァルキリー外壁の上に立っている魔法使いからだった。
そいつらは杖を上にかざし何かを唱えていた。本当に異世界って感じだよなぁ。
(まあ? またあのしょぼレーザーだったら堂堂と押し通りますとも)
そして次の瞬間杖が光り、赤く細長い物体が俺のヘリに飛んで来る。
「はいはい、どうせ俺TUEEなんでしょ、知ってますよ」
「あっ、ご主人、それ避けないと確実に"死にますよ"」
「えっ……はっ!?」
俺はすぐさま操縦桿を右に倒し、目の前に迫った魔法をギリギリで回避する。
(さすが俺! FPSで反射神経を鍛えていただけある!)
そして俺はエリ人形をむぎゅーと掴み顔を俺の方に向ける。
「おいエリっ! そういうことは気づいた時にすぐ言ってくれよ!」
「あ痛たたっ! だって、その方が面白そうでしたからっ! 痛いですご主人! 初めては優しくっ!」
「…………」
俺はエリ人形を前にいるナチェの方へ投げる。
面白い面白くないで死ぬとか俺嫌なんだけど……。この子、生に執着をもっていないのか?
するとまたビービービービーと警報がまた鳴る。次は後ろから……って! さっき回避した魔法が戻って来ただと!?
俺はそれを寸で回避する。
「うわぁ!! なんじゃごりゃ!! この魔法、誘導して戻ってきたぞっ!」
「この魔法は我が国が誇る、何かにぶつかるか射程で消えるまで誘導する爆発魔法です!」
「って!! いやそれもうミサイルだからっ!」
俺は必死に普通ではありえない動きをして魔法ミサイルを寸で回避していく。
(これ、ヘリを改造してなかったら回避できないんじゃね?)
すると新たな魔法ミサイル5発が正面から飛んで来た。
(ちょっとこれは、さすがに……。いくら元ゲーマーでも、詰みゲーとか絶対無理だから!)
俺は少しでも回避能力をあげるためmk84(900kg爆弾)を5秒タイマーで起爆するようにセットする。
5秒に設定した理由は地上の世界遺産に認定されそうな綺麗な森にこの最大クラスの爆弾を落として焼け野原にしたくなかったからだ。こうセットすることで空中で爆発するはず。
(正確には後で罪を問われるみたいな事が起こらないようにするための一応の保健だが)
カチャンという外れた金属音と共に爆弾が下へヒュゥゥと落ちていく。するとヘリに真っ直ぐに向かって飛んできていた魔法ミサイルは今投下したmk84の方に吸い込まれるように全て誘導、命中してドゴォォォォンと爆発する
(あれ? もしかしてこれって)
俺が考えていると、またビービービービーと警報がなる。次は魔法使いが増員され10発同時に放ったようだ。
俺はその場に静止して"ある準備"をする。
そんな俺にナチェは「早く回避行動をとらなければっ!」と叫ぶ。
普通だったらこれもうオワタなんじゃね?なんて思うかも知れないが、俺はこれの対応策が多分、分かったのでそれに賭ける。
「大丈夫だ、俺を信じろ!」
俺は機器の中の赤いスイッチを押しその場で"フレア"をバッバッバッと散布した。
すると沢山の魔法ミサイルはギリギリでヘリとはあらぬ方向へ全部飛んでいき、ドゴォォンと爆発する。
「えっ……。光輝様? 今の炎を撒き散らすような魔法は何ですか!? 我が国の最強の対空魔法が変な方向へ全部飛んでいってしまいましたが!」
ナチェは驚きを隠せないといった感じだった。
「いや、俺は魔法を使っていない。ただあの魔法の性質を見て対処しただけだ」
「性質?」
「そう、性質だ」
あの魔法ミサイルはどうやら熱源誘導だったようだ。あれは少しの熱源で誘導するらしく、起爆5秒前の爆弾に誘導していったことからそういう対策に思い至ったわけだが、正直すげー怖かった。
するとナチェは「光輝様は本当に凄いです!」とお世辞ではなく本気でそう言ってきた。
(やっぱり、この子以外に褒められたことなんて一度もなかったよなー)
「わーご主人すごいです(棒)」
「エリ……てめーは論外だ!」
そのあと俺はフレアを散布しながら、ヴァルキリーに近づき、攻撃をやめてもらうためナチェにマイクを渡す。
ナチェは俺からマイクを受け取り「すぅーはぁー」と深呼吸しマイクに口を近づける。
「(私はヴァルキリー9代目女王、ナチェリーバルフェルトです! 今すぐ攻撃をやめて下さい!)」
魔法使い共にスピーカーを通してそう叫ぶ。
外部マイクで声を拾うと「まさかナチェリー様!?」「生きておられた!?」などざわざわしはじめる。
その時、騎士の姿をした50代くらいに見えるオッサンが「ナチェリー様が帰還なされたぞ! 総員攻撃やめ!!」と叫び、詠唱途中だった魔法使い全員を止める。どうやらそのオッサンが指揮官のようだ。
ナチェは「(ローウィン! ありがとうございます!)」とオッサン騎士の方を向いてお礼を言う。
オッサン騎士はその場で片膝立ちになり「はい、ナチェリー様! よくぞご無事で!」と心底安堵していた。
そして俺は上空からヴァルキリーへ入国する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます