第6話 敵の国家戦力を撃退しました
離陸してから数分くらい経過したあと、機内にピピピとレーダーが何か捉えた音がした。
「この丸い地図のような物は何ですか?」
ナチェは不思議そうに、正面にあるさっき改造したときに取り付けたディスプレイを眺めている。
「それはな、うーん、そうだなー……。簡単に言えば超高速で移動する斥候が何かを捉えて報告してきたと思えばいい」
この世界の住人であるナチェにレーダーが生物源を捕捉したなんて言っても分からんだろう。
俺の回答にエリはまたもや目をキラキラさせて「トゥーディメンションマスターは本当に凄いです!」と俺の方を見ながら言ってきた。
(お願いだからもう忘れてくれないかな……)
俺は正面のタッチ式ディスプレイを操作して捉えた方角と現在地からの距離と進行方向を調べる。
「なんだこれは……」
さっきのF35に乗っていた時にレーダーに映った人数とは比べられないほどの数の生物源が表示されていた。
それだけではなく、その大集団は俺達が今向かっているヴァルキリーに向け、約5km/h(時速5km )で移動していた。
俺がそれを見て不審に思っていると「どうしたのですか?」とナチェが俺の顔を心配そうに覗きこむ。
「いやな。俺達が今向かっているヴァルキリーに約5万以上の人と思われる物が移動しているんだが、これは普通な事なのか?」
もしかしたらこの世界では一斉に移動するみたいな風習でもあるのかもしれない。
「そんなの普通じゃありませんよ!」
そう言った後、ナチェは「もしかして!」と何か思い当たったような顔をする。
(そうすると答えは1つしかないよな)
「なあナチェ! これからその団体様を見に行こうと思うんだがいいか!」
「はい、お願いします! もしこれが"敵の侵攻"なら早く戻って迎撃の準備を調えますので!」
ヘリを右に30度旋回してその大集団の方へ最大全速で向かう。
Ο
それから10分くらい航行するとその集団を目視できた。
俺は光学カメラでその集団をディスプレイに映し出す。見ると赤い鎧を着た兵士に大きなトカゲ(?)のような生き物、そしていかにも魔法使いというような服を着た人が列を組んでいた。
「なんだあの巨大トカゲは……」
なんというかイモリに固そうな鱗を着けたらあんな感じだろうな。
「違います! あれは……」
ナチェは俺の言葉を否定したあと「そんな……ありえない……」と驚いていた。
「あれは何な――」
俺がナチェに何なのか聞こうとした時、機体内にビービービービーと警報が鳴り響く。
「なんだ!?…………赤外線探知機が……反応してるだと!?」
俺は即座にディスプレイを見てロックオン方向を確認すると…………下からだった。
光学カメラをその方向な向けて確認すると杖を持った魔法使いがこちらを見ながら何か唱えているようだった。
そして次の瞬間、杖から光が――って、まずい!
気づいたと同時に操縦桿を左に傾け回避行動をとる。
右を見るとさっき俺がいた場所には、まるでビームのような黄色に輝く物体が通っていた。
「なんじゃありゃ! メガ粒○砲なんて聞いてねーぞ!」
「違いますご主人! あれはホーリーレイと言う光属性の上位魔法です!」
赤外線探知機(改造)が機体内に鳴り響く中、次々にバシュュュと撃たれていくビームを何とかギリギリで回避していく。
(くっ……こんなの当たったらやっぱり即死だよな)
俺はこの一方的な攻撃しのぎ反抗にでるため、改造した時に付けたスモークをその場にブワァァァと散布をしていく。これで運さえ悪くなければ当たらないだろう。
タブレットを取り出して起動させ、操作してアパッチの胴体両測面のスタブウイングと呼ばれる所に付いているヘルファイア(対戦車ミサイル)を外し、mk84という最重量爆弾を片方に2つ、合計で4つ付ける。普通ならこんな2000ポンド爆弾(約900kg)を4つも付けるなんて不可能だが、魔改造により可能になった。
俺が設定しているとナチェが「光輝様」と呼び掛けてきた。
「なんだ?」
タブレットから目を移して見るとナチェは迷ったような顔をしていた。
「あんな大軍……。それも上位魔術師と"ヒュドラ"が混じっているなんて勝てるはずがありません」
「ヒュドラ?」
ヒュドラって確かギリシャ神話に出てくるドラゴンだったよな。ってまさかあの巨大トカゲがヒュドラ!?
「ヒュドラは陸上型のドラゴンです。ヒュドラは一体いるだけで数百人の兵士を相手にすることができます。その強さ故なのか使役することが難しく、1つの国に一体いればいい方なのです。ですが……」
あのトカゲってそんな強い生き物だったのか。さっきディスプレイで見た時、確かざっと30は越えていたからな。そりゃ勝ち目がないと思い込むだろう。
「ですから光輝様はヴァルキリーに私を運んでいただいた後、逃げて下さい。この魔術なら逃げる事は容易なはずです。そのあと私は残りの兵を集め最後まで戦います」
ナチェは俺に微笑みながらそんな事を言う。
(ったく、こんなの見捨てられる訳ないだろうがよ)
俺は前の座席に座るナチェの頭を少し強めにワシワシと撫でる。すると「光輝様!?」と驚いていたが嫌がってはいなかった。
「大丈夫だ。あれくらい俺一人でぶっ潰せる。だから任せろ!」
「そんな! さっきホーリーレイという魔法でジリ貧だったではないですか! なのにどうやって……」
「それだよ。逆に言えばそいつらさえ倒せば俺達の勝ちなんだよ」
Iフィールドさえあればビームなんて無力化できるんだけどなぁ。
俺はディスプレイを操作してさっき魔法使いがいた地点にマーカーを付ける。(もうキャノビー(窓ガラス)自体がHUDになっている)
俺はその魔法使いがいた地点に向けて、アパッチのコックピットの下に付いているM230(30mmチェーンガン)の銃口をギュイーンと向ける。
そして操縦桿に付いている赤いボタンを押し「ダダダダダダッ!」と掃射を始める。
すると「ぐわぁ"ぁ"」「痛い"ぃ"」「腕がぁ"ぁ"」など聞くに耐えないが聞こえてくる。
撃っている弾は30mm。人に当たれば木っ端微塵だ。ここで俺は初めて人を殺したのだろうが、どうしてか罪悪感というものが湧かない。
悲鳴がなくなったあと掃射をやめてスモークの外に出る。
そして思う。
(だからなんでこんな時ばかり時間がスローモーションになるんだ……)
正面には殺したと思っていた魔法使い全員が詠唱が終わりビームを放つ瞬間だった。悲鳴はタダのブラフだったようで俺が掃射した位置には誰も人がいなかった。
多分次の瞬間ヘリは撃ち抜かれるだろう。
(あーあ、あんな事をナチェに言っておきながらこれは……。俺カッコわるっ)
そして杖の光がピカーンと強く輝き、それが正面キャノビーに直撃する……が、
――ポスッ――
ショボい音を立ててシュゥゥと煙がでるだけだった。
あるぇれれぇぇ?
「あれビームじゃないの?」
「あれは聖なる光を光速で射出する魔法です。生物には
「……おいエリ。何故それを先に言わなかった……」
「だって、面白そうでしたから」
――絶句――
なんだよ……、結局、俺強ぇぇだったのかよ……。はいはいワロスワロス。
俺はマイクを取りだし外部スピーカーをつける。
「(ほーらテメェら! 死にたくない奴は今すぐお家に帰れ! 3分間待ってやる!)」
と警告を出すが誰も逃げようとしない。むしろ怒って憤慨してる?
そして「ふざけやがって!」とか「そんな単騎でどっやってやるんだよ」と逆にやる気を出したように見えた。
「(そうか、テメェら……"死にたいようだな")」
その時「待ってください!」とナチェが攻撃を開始しようとした俺を止める。
「どうした?」
「その、私に問いかける魔法を貸してはいただけませんか?」
「問い掛ける魔法?」
「多分スピーカーのことだと思いますよご主人」
「あぁなるほど」
こっちの世界の人だとスピーカーはそういう風に見えるのか。つーかそんな現代知識を持つエリは現世か異世界、どちら側の住民なのだろうか。
今持っているマイクをナチェに渡す。するとナチェは決心したような顔になり話し始める。
「(わたくしはヴァルキリー、9代目女王、ナチェリーバルフェルトと申します)」
その自己紹介だけでざわめきが生まれる。
一部を外部マイクで拾うと「もしかしてこの魔術はヴァルキリーの物だったのか!?」とか「そんなっ!今まで弱いと思っていた兵力は一部でしかなかったのか!?」と驚いていた。
こいつらは今までフリーの魔法使い一人の魔術だなんて思っていたのだろうが、ナチェが名乗ったことによりそれを”一国家の魔術”、ようするにヴァルキリーの魔術師全員が使う魔法と認識して驚いているのだろう。
「(そしてもし、自分の大切な人、守りたいものがあるのなら今すぐ侵攻をやめなさい! もしやめない場合はあなた方を残滅したのち"あなた方の国"、二次元LOVEに私達はこの力を持って侵攻いたします!)」
兵士達に叫び襲うと警告をする。
(ということは俺がやるの?本土決戦を?)
すると兵士達にどよめきが走る。「あんなのに攻められたら我が国は……」「そしたら家族が……」「俺の財産がぁぁぁぁ」なんて言っていた。
そんな周りの兵士が戦意を失いつつある時、先導に立つ指揮官と思われる兜を被った奴が「怯むなぁ!あんな脅しに惑わされるな!俺に続けぇ!!」と兵士達に叫ぶ。
兵士達は「そ、そうだよな。はったりだよな」なんて自分に言い聞かせその指揮官についていく。
それを見たナチェは下をうつむき「光輝様……お願いします……」と悲しそうに言ってきた。
「いいんだな?」
「兵士は指揮官の言うことは逆らえません……」
あれ?そう言えば……
「ってことはあの指揮官が二次元LOVEの王様なのか?」
さっきエリは指揮官が前線で指揮を取るなんて言っていたよな。でも"王にしては"なんか普通だ。筋肉隆々のいかついオッサンで、二次元オタクには見えない。
「いえいえ、前線で指揮をとる国はヴァルキリーくらいですよ」
エリが補足をいれる。
(まあそりゃそうだよな。王様が死んだら次の王が決まるまで混乱状態が続くだろうし。それに死にたくないと思うのは人間の性質だし)
俺を無視して侵攻を始める兵士の大軍にmk84を落とす準備をする。
その時、「全軍止まれぇぇ!!!」とさっきの指揮官とは別の声が響く。
光学カメラでその声の主を見ると、なんとさっき逃がした土下座野郎だった。
先頭の筋肉指揮官が「レオ中将!?よくぞご無事で!」と武器を地面に刺し敬意を示していた。てかあいつ中将だったのか!?
「あぁ、俺はナチェリーバルフェルトに情けを受け、生き長らえた。そして俺は思い知った。あの魔術には今の俺達では勝てないと」
「そんな、中将の突撃部隊でもですか!?」
「あぁ、俺の部隊は全滅したよ。それもあの魔術は兵を殺さずに無力化してな」
土下座したからお前は助かったようなものだからな。
「そんな……まさか!?」
筋肉指揮官は「ありえない」と驚きを隠せずにいる。そんなにその突撃部隊が強かったのか?
「本当だ。だからあれには勝てない」
土下座して助かったもんな。
そして土下座野郎は兵士の大軍に体を向け「総員っ!!撤退しろ!!!」と叫ぶ。
すると筋肉指揮官が「そんな事したら中将が陛下にどんな罰を受けるか分かりません!」とまるで心配して説得するように言う。
「大丈夫だ、それは覚悟のうちだ。俺はどんなにプライドや誇りを捨てても民だけは何があっても捨てんからな」
うわぁー土下座中将かっこいいー。
「って!!さっきから土下座、土下座言うのやめてもらえませんか!!」
土下座中将は俺の方を見ながら叫ぶ。どうやら俺はマイクをON にしなが独り言を言っていたようだ。
「(あーすまんすまん。"土下座"が印象的だったからつい、な)」
俺はさっきの仕返しの続きをサラッと開始する。
「っ……!? ほんと謝りますんで勘弁してください!!」
そいつは心底申し訳なさそうにしてきた。つーかこいつ営業マンみたいだな。
「(ったく、わかったよ。だから早く帰れ!)」
そして土下座中将は「はい!!」と叫び、撤退していく兵士達に追い付くように走っていく。
Д
「まさかあの私を追撃してきたあの男の方が中将だったなんて……」
ナチェは「はぁぁぁ」とため息をついていた。
「あんな奴はな、土下座を使って階級をあげていくんだ」
土下座はプライドさえ捨てれば最強の武器になる。それは俺が一番知っている。
「申し訳ありません!」
「えっ!? なんで謝るんだ?」
「だって私は光輝様に力を行使させようとしたのですよ! 自分の手は汚さず光輝様だけにさせて!」
なんか……本当にいい子だなぁ。非道になれない優しい性格で、悪いことはしっかり謝ってきて。こんな子が世界の中心にいたなら戦争なんて起こらないだろうに。
俺は謝るナチェの頭を今度は優しくなでる。すると「光輝様……」と撫でる俺の手を両手で触れる。
「いいんだ。俺が決めた事なんだから気にするな。光輝兄貴にまかせとけ!」
俺は笑顔で後に後悔しそうな恥ずかし言葉をサラッと言ってしまった。
するとナチェは「ふふっ」と口を押さえて笑う。
「私はお兄様と言うよりお父様という感じがしますよ」
「えっ? 兄じゃなくて?」
「はい。頼りになるその姿がまるで亡き父のように見えて」
あっ、やべっ! これ地雷ふんだか?
顔を見ると俺の予想とは外れ、「ふふふ」と笑顔で笑っていた。
「それでは光輝"お兄様"! 早くヴァルキリーへ向かいましょう!」
ーードキッ
やべぇよ、なんだこの感覚は……!? いま凄く守ってやりたいという今までに感じたことがない感覚がした。
そんな驚く俺にナチェは「お兄様?」と可愛い声で不思議そうに俺の顔を覗き込んできた。…………これ、俺いつか暴走しそうな気がする……。
「大丈夫ですよ! ご主人がそんな暴挙に走ったら"切断"しますので!」
自分の中で天使と悪魔が葛藤している時、エリは俺の心を読んで回答したかのような発言をする。
「おい、何を切断するつもりだ?」
「そんなのご主人が"一番分かっていると思いますよ"」
よしっ……自重するか!
俺はヘリを上昇させヴァルキリーへ向かうのであった。
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