第5話 金髪少女姫を移送することにしました
俺は戦闘機の後ろに足を押さえたまま視線を向けてくる、まだ幼さが残る顔立ちに腰まである金色の長い髪、そして高貴そうな雰囲気を醸し出す少女に近づいていく。
少女はそんな近づく俺をまるで化け物でも見るような目で怯えながら見ている。
(そりゃあんな、事を目の前であったら誰だって怖がるよな)
俺は怯えて声が出ないのか無言な金髪少女の前にしゃがみ「ケガしてないか?」と聞きながら手を差し出すが、バッっと弾かれる。
「殺すなら、もう早く殺してくださいっ! もう私は……沢山なんですっ!」
少女は涙目でキッと俺を睨み、自己放棄気味に叫んできた。やっぱり俺を敵だと認識しているようだ。
「いやいや、俺は――」
「辱めを受けるくらいなら私はこの場で潔く自害します!」
あっ……この美少女、もう聞く耳持たんわ……。これ何言っても駄目な奴やな。
――仕方がない。とっておきを見せてやるか。
俺はこの状況を打開するために今まで極めてきた俺の"最終奥義"を使用する。
その場で流れるようにスウッと膝を地面につけ正座し、両手を内側45度に傾け膝の前に手をつけ、頭を思いっきり地面に叩きつける。
その奥義の名は――
――It transcends all ”DO”GE”ZA”(すべてを超越する土下座)と言う――
「俺が敵ではない信じさせる事ができなくてすみません俺が全て悪いんですごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
頭を何度も地面にドンドンと叩きつけながら、呪いの様に「すみませんすみません」と謝り続ける。ぶつけ続ける地面は沈んでいき俺の意識は遠ざかっていく。
「えっ……えっ!? ……あ、あの! おやめください」
その慌てて止めにかかる声を聞き入れ上半身だけを起こし正座した状態で少女を見る。やっぱり効果は抜群だったようで、困惑したような表情を浮かべていた。
(流石今まで極めた奥義だ)
この奥義の神髄は相手を困らせることにある。これは人がいればいるほど効果が絶大になっていき、それに比例して自分の精神的ダメージが大きくなっていく。ようするに諸刃のライトセイバーである。
「あ、あのっ!」
少女は今だ困惑したままおそるおそる俺に声をかけてきた。その姿が小動物、例えるならウサギのようで何とも可愛いらしい。
そして意を決したようにして、
「貴方は”二次元LOVE国”の兵士ではないんですか?」
「……はい?」
俺には一瞬、何を言われたのか理解することが出来なかった。
何? この世界にはそんな素晴らしいネーミングセンスの国が存在しているの? 明らかにその国の建国者はこの世界の人間じゃねーよな。
「どうなんですか!?」
少女はさっきのような化け物を見ていたような怯えは消えつつあるものの、警戒だけは解かず睨みながらそう叫ぶ。もしこの世界で住み着くならその国がいいわ俺。
「いや、俺はそもそも兵士じゃないぞ」
「えっ……、そんなっ、ありえません! あんな強力な魔術を持った人が徴兵されないなんて!」
徴兵って響き、なんか第二次世界大戦みたいだな。やっぱり真っ赤な召集令状が家に届くのだろうか。そして無視したら国家反逆罪で禁錮数年の刑とか。
「俺の住む国はどことも戦争していないんだ。まあ日本っていう国なんだが知ってるか?」
「日本……? 聞いたことありませんね。そこはどこにあるのですか?」
俺が本当の事を話すと少女は首をかしげて「うん?」と悩み始める。まあ知ってたら逆におかしいんだが。
「日本はな、極東の島国なんだ」
そう補足すると少女が「えっ!?」と驚いた声を上げ、架空を眺めていた視線を俺に戻す。そこまで驚くような変な事なんて今言っただろうか。
「極東って事は"あの"世界の端に住んでいるんですか!?」
「あ? あ、あぁ、そうだが」
別に嘘ではないので肯定する。すると少女は目をキラキラさせながら「うわぁぁ!」と感嘆を漏らす。なんかこの反応おかしくね?
「そんなに凄いことか?」
「それはそれは凄いことですよ! だって世界の端は奈落に続く崖があるんですよ! その近くに行っただけでも凄いのに住んでるなんてもっと凄いですよ!」
「そう……なのか」
興奮したように手をぶんぶんと振りながら詰め寄ってくる少女に俺は少し気おくれしてしまった。つーかこの少女は世界が地続きだって知らないのだろうか。それとも本当にこの世界の端には崖でもあるのか?
少女はさっきのような化け物を見るような怯えも警戒した構えも解いたので、次はこちらから質問をしてみることにした
「へぇー。それじゃあ、君の住む国は?」
「私はヴァルキリー第17国王ナチェリー・バルフェルトと申します。どうぞナチェとでもお呼び下さい」
あれ? おかしいな。今、国王って言った気がするんだが気のせいだよな。
だって姿的に明らかにまだ成人もしてない少女だぜ? 俺的にはまだロリと認定できる範囲だぜ? そんなロリ好きが歓喜しそうな”童顔”金髪”美少女”と言う最強の三つのタグが揃った子が一国の王様?
「なあ、俺最近耳が遠くて良く聞こえんかったわ。すまんがもう一度自己紹介してもらっていいか?」
「はい、分かりました。私はヴァルキリー第17国王、ナチェリー・バルフェルトと申します」
どうやら聞き間違いではなかったようだ。いやー世界は広い。こんな美少女の下で暮らせる国民なんて幸せの極みだろうに。
「それで私の国ヴァルキリーは景気が他の国より良く、外商人がよく我が国に訪れ、町は民の笑い声や音楽が響き、とても賑かな所でした……」
懐かしむように語るナチェからは何処か辛そうな感じがする。
疑問に思ったその正体を俺はすぐに知る事になった。
「ですが数ヶ月前にある国が我が国に侵攻してきまして。それがさっき言った"二次元LOVE国"です」
「なるほど。そこに沢山倒れてる赤い鎧を着た奴らは二次元LOVE国の兵士だったのか」
こんな美少女が統治する国を襲うとかホント糞みたいな国だな。俺だったらそんな国、絶対移住なんてしないわ。
「はい。それで最近、私の父がその国の侵攻を止めるべく応戦しましたが負け、殺されました……」
うわぁー、もし俺の親父とかお袋がそんなふざけた国に殺されたら、どんな方法を使っても王様を殺しに行くわ。
「それで母も先に他界していたので私がヴァルキリーの国王になりました。そして先の防衛戦で負け、私が追いかけられて貴方様に助けて頂いて今に至った訳です」
「……ほう」
何この子、境遇が可愛そ過ぎるだろ。両親を失っただけではなく、指揮官なんて重い責任を背負われ、その挙げ句負けて自分の命が狙われるとか。
「それで、あの……、もし良ければお名前を聞かせて頂けないでしょうか?」
あぁ、そういや名前言ってなかったっけか。相手に自己紹介をさえて自分はしないなんてそれは失礼だよな。
「あぁ、俺は阿達光輝って言うんだ。年は24で、独身彼女無し友達少なくオタク。職業は…………トゥーディメンションマスター(二次元マスター)だな」
そんな適当なユーモアに溢れた自己紹介をするとナチェは目をキラキラさせ何故か感激したような表情を浮かべている。えっ? なんで?
「私、トゥーディメンションマスターなんて仕事始めて聞きました!」
あっ、今考えたら童貞感丸出しの恥ずかしい事を言ってたじゃん。ネットサーフィンしてた時に見つけたあるサイトで”二次元に依存する人は大体童貞”って書いてあったし。
§
「わぁー! ”あきはばら”は凄いですね!」
「あぁ、あそこは
あの後、ナチェリーから「もっと詳しく光輝様が住んでいた国を教えてください!」と頼まれて自分が知る色々な事を話した。
例えば東京と呼ばれる町には勝手に動く乗り
秋葉原では色々な
「そんな凄い国、私もいつか行ってみたいです!」
「でもな、そこに行くにはある条件を全てクリアしなければいけないんだ」
「条件?」
実際はパスポートとお金さえあればいけるんだがここは現世じゃなくて異世界だから東京なんて存在しない。もしここで「私をその国へ連れて行ってもらえませんか?」なんてお願いされたらどうしようもないのである。だから捏造条件製作。
「あぁ、それはな。
一つ、その国と友好な関係を築いている国でなければならない。
二つ、自分を証明する証を製作(パスポート)しなけらばならない。
三つ、その国の近海には巨力な魔物(大嘘)が住み着いているので空から高速で通過しなければならない。
四つ、その国の言語を熟読(大嘘)しなければならない。
五つ、これが最も大事! それは自分の属性(趣味)を決めなければならない。
以上を踏まえれば行くことが行くことができる」
「はぁ~、今の私には一つも条件をクリアしていません」
俺の捏造だらけの説明にナチェはそんなに残念だったのかがっくりと肩を落とし大きなため息をつく。
「それだけあの国は希少なんだぞ」
「賢者達の国。凄いところです~」
§
その説明をして少し話し合った後、ナチェは改まって「お願いがあります」と俺と同じように正座して言ってきた。
「なんだ? お願いって」
「今の私は、このように足を痛めてしまって動けません」
ナチェは痛む部分をさすりながら言う。
「それでお願いと言うのは、その魔法? で私をヴァルキリーまで送っていただきた――」
「喜んで!!」
即答である。美少女、それも姫様に頼まれて断る男なんていないね。むしろ大歓迎。
そんな俺の回答にナチェ驚きながらも「ありがとうございます!」と年相応の可愛い笑顔でお礼を言ってくる。くっ……萌える。
エリは「……もう"ぶった切ろう"かな……」と何か恐い事を言っていた。
Ο
ナチェが統治する国はこの地点から約数十キロ先にあるらしい。戦闘機で行けるのならすぐなのだがF35は一人乗りだし、それ以外の戦闘機は滑走路がないと離着陸ができない。ということでAH-64アパッチと言う二人乗りの戦闘ヘリを出してみることにした。
タブレットを操作して機体を選択し、y軸を10に設定してから"製作"という所をタッチする。すると青く光る3Dグラフィックの骨組みのようなものが出現し上からパァァァと生成され機体が完成する。
ナチェを見ると目を凄いキラキラさせながら「うわぁぁ!」と感嘆をもらしていた。
「光輝様! これはなんというか魔術なのですか?」
「えっ? あぁ、えっとこれは……」
そういやこの能力に名前なんてついてなかったよな。チート? 兵器製作? cheatweapon?
俺が「うむ……」と悩んでいると、
「ナチェリー様、これがトゥーディメンションマスター(笑)と言う魔術です(笑)」
こいつ! 俺の今突っ込んで欲しくなかった事に二度も「ふっ」と鼻で笑いながら説明しやがった! おいエリてめぇ!
「ああ! これがトゥーディメンションマスターという物ですか!」
ナチェはエリの説明に納得したようにする。やめてくれよもうそれ黒歴史レベルの超恥ずかしい単語ですから。なんで俺はあんなことを……。
「あっ、どうしよう」
俺はここで一つ困ってしまったことがある。それは今乗ってきたF35の事だ。まあ誰も使えないだろうが”万が一のために”何とかしなければならない。
「それでしたら、機体を触れて”クローズ”と言うと消すことができます。逆に出したいときは”オープン”と言ってもらえれば大丈夫です」
F35を見て悩む俺の隣に歩いてきたエリは聞いてもないのに的確に俺の疑問を答える。
「なあエリ。お前もしかして、心でも読めるのか?」
「はい、読めますよ。ご主人がムフフな事を考えていても丸見えです」
なん……だとっ……? そんなチートスキルありかよ。このままじゃ性的欲求を解消なんて出来ねぇじゃねーか!
そんな頭を抱えている横でエリはさっきのぬいぐるみにボンッと変身する。
「まあ冗談は置いといて早くいきませんか?」
「えっ? 冗談なの?」
「えっ!? まさかご主人、私が心でも読めるとでも!」
エリは「プーwクスクスw」と口を手で押させて笑っている。なんか最初にあった時よりも性格が酷くなってないか?
俺はF35に触れて「クローズ」と言うと機体が、シューっと影のように消えていった。そして試しに「オープン」と言うと目の前に機体が現れる。
「なんだこのショートカットキーみたいなコマンドは! めっちゃ便利やん!」
「お役に立てたようで何よりです!」
エリは意地悪さが抜け綺麗な笑顔で「えへへ」と嬉しそうに笑う。
どうしてlこの子はそんなギャップというか、萌と毒が綺麗に分かれてるんだろう。今のは俺の心を打ちぬいたぜ。
「それじゃヘリに乗せるために一度抱っこするぞ」
「はい、お願いします」
俺は足を怪我して歩けなくなったナチェをお姫様抱っこしてヘリまで運ぶ。
(うわぁー軽い。そしてめっちゃいい匂いがする。これが女の子なのか……?)
「全く、ご主人! 姫様に手を出しちゃだめですよ!」
「ちょ!? 俺はそんな節操無しじゃないぞ!」
「ああ、そうですね! ヘタレですもんね!」
くっ……本当の事だとはいえ、エリの毒舌が意外にぶっ刺さる……。
やり取りを見ていたナチェは「大丈夫です!私は光輝様を信じてますから!」と純粋なまなざしで微笑みかけてきた。
(これは……可愛すぎるだろおい。少し幼いけどそれでもおkだと思ってしまったよもう!)
そんな光景を見ていたエリはどこか不貞腐れていたように見えた。
俺はアパッチの前席にナチェを乗せ、後ろの座席にエリ(ぬいぐるみ)と乗る。
どうやらさっきやった、”兵器ガイドインストール”はすべての兵器だったらしくこのヘリの操縦法がさっきのF35の時のように分かる。
あとこのヘリもF35と同じように魔改造を施しました。
俺はヘリを電気をつけた後エンジンを起動させる。そして自立回転速度に達したあとゆっくりとヘリを上昇させていく。
ナチェはやっぱり「凄い……!」と感嘆をもらいしていた。実際のところ俺もだが。
そして俺はヴァルキリーへナチェを送るため移動を開始する。
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