第4話 敵の大群を一掃しました

 魔改造が終わったあと、ちょうど慣性航法装置が安定したので、左側面についているスロットルレバーを前へ押していき出力を上げ、ついに離陸を始める。

 メインエンジンが真下を向き、胴体についたリフトファン(ブーストのような物)が噴射を始める。すると機体がガタッと揺れ、ゆっくりと浮き上がっていく。


「うぉっっ!! ヤバいヤバい! なんかヤバい!」


 異常はまったくないのだが、凄い事や感動する事があるとヤバいとはしゃいでしまうのは人間の性質――って俺だけか……?

 

 ある程度上昇させたあとVTOL(ホバリング)から通常飛行に切り替える。普通ならその後、前から身体にグッとくる重さがあるはずだが対G対策がとても優秀なせいかまったくない。


 

 ある程度安定したあと、俺は自動操縦に切り替え窓越しに外を眺める。


「うわぁぁ! なんとも旅客機とは違う眺め!」


 旅客機だと窓から見える範囲は狭く区切られているのに対して、戦闘機だと視界がクリアで色々なところを見渡すことができる。


「ふふっ、ご主人。幼い子供みたいですね」

「っ……! しょうがないだろ! こんな事今までの人生で体験したことが一度もなかったんだから!」


 死んで良かった! なんて馬鹿な事を思ってしまったほどに。こんな体験、現実世界では一生のうち俺にはなかったかもしれない。


 そんな感激している時、ピピピとレーダーが何かを捉えた音がする。

 

 この改造F35には2つのレーダーがついている。

 1つはAN/APG-81と呼ばれるこの戦闘機に元からついていたレーダーだ。これは自機を中心して前方を扇形に索敵しスコープ(画面)に表示されるというものだ。だが反応したレーダーはこれではない。

 

 もう1つは改造した時につけた複合型全方位レーダーという、サーマル、赤外線、光学、超広域、高精度と現代ではあり得ないキチガイセンサーだ。全方位のシステムはイージス艦のレーダー、AN/SPY-1(360度死角無しレーダー)という物を採用した。そして今このセンサーが何かを捉えたようだ。


 

 俺はタッチパネル式にした正面のディスプレイを操作し二次元レーダー(平面の表示)を確認すると、先頭の1の後ろから沢山の反応が追いかけるように表示されていた。


「なんだこれ、異世界版ジャンヌダルク?」


 その1を追いかける沢山の生物の反応は明らかに異質で、左右から囲もうとしているようにも見える。


「それなら慣らす事も含めて実際に行って確認するのはいかがですか?」

「まあ、そうだな。そんじゃ行ってみっか」


 俺はエリの提案に乗りオートパイロットを切ってマニュアルに変え、レーダーに映った地点に進路を向ける。どうやらここから約10キロメートル先にその反応があるようだ。

 


           §



 針路を変えてから30秒足らずでその地点付近上空に到着。その場で一度静止するためホバリングモードにする。やっぱ戦闘機は早い。車だったら10kmなんて公道で移動したら10分以上は軽くかかるだろうに。


「えっと、レーダーに表示された位置的に見てと」

 

 レーダーと自分の目を使い探していると小さな赤い物体が下で沢山動いていた。これは多分さっき見つけた生物源かもしれない。

 確認のため光学カメラでズームして正面ディスプレイに映す。


「なんだこれ……?」

 

 俺はディスプレイに映し出された映像を見て言葉を失う。

 見た目からしてまだ14歳にいくかどうかの金髪の少女が、赤い兜、鎧を着た殺気を漂わせる大軍に追いかけられていたからだ。


「あの紋章……、もしかしてあの子は……」

「ん? エリ?」

「ご主人、兵器を使うチャンスですよ! 敵は赤い鎧を着た軍団です!」


 いきなり頭部と割合がおかしい小さな手でディスプレイに映った赤い兵達を指し、焦ったようにチャンスだと提案してくるエリ。でも”助ける為に殺す”と考えると気遅れしてしまう。


「あー、もし殺したくないなら”ゴム弾”で制圧すればいいのでは?」

「えっ? 戦闘機の武装でゴム弾?」


 人は20mm機関砲を直で食らったら肉片になるらしいしゴム弾なんて意味がない気がするんだが。もしかして異世界人の体は鋼鉄のように固いのだろうか。

 

 俺が悩んでいるその時、少女が草に足を取られ転ろびその場で足首を押さえてうずくまってしまう。そんな少女に先頭に立つ指揮官のような男は無表情に剣を携え歩いて近づいていく。


「後で説明するのでとりあえず、近づいて意識をこちらに向けさせてください! ……全く優しいところは変わらないです……」

「ん? 今なんて――」

「早くしてください! あのままじゃ殺されてしまいます!」

「わ、分かった!」


 まずスロットルレバーを引き出力を下げ、上空から降下していきジェット機すべてに共通しているキュイィィィィン!!! と、けたましいエンジンの噴射音でヘイトを集める。

 いきなり真上から降りてきた戦闘機を見上げた赤鎧の兵達は足を止め全員が驚愕したような表情で眺めている。初めて戦闘機を見た人達はどんな事を思うのだろうか。


 今ここにいる全員に視線を受けたまま機体正面を大群の方を向け庇うように間に入り、ライディングギアを出して地上にゆっくりと着陸する。着陸時の振動も無いって相当凄い事なんだよな。

 

 その場は恐怖から来るのだろう緊迫したような雰囲気に包まれ、戦闘機のジェット音だけがここら一帯に響き渡る。

 そして俺は後一押しにと思い、さっき取り付けた外部スピーカーのスイッチをONにし、

 

「お、お前らっ! 金髪美少女の多大なる需要とその供給の少なさが分からない、糞男ならそのまま帰って寝んねしやがれっ!」

「ご主人……」

「えっ?」


 ――それが、過ちだと気付いたのはそれからすぐの事だった。


 あんなに畏怖していたような表情から憐みに一変し、エンジン音しか響いていなかったはずの緊迫した空気が崩壊しざわざわとコミケ会場のように大きくざわざわし始める。


 おい……やめてくれよそんな憐れむような顔で俺を見るのは……。


 すると先頭の指揮官らしき人物が後ろを向き、


「こんな女を知らない"男の子"など恐れるに足らず!! 総員! この男の子(笑)を先に殺せ!!」

 

 俺をディスりながら大声で叫ぶ。

 回りの兵達はそんな指揮官の声に「おぉぉww!!」と馬鹿にしたような声で返答し、俺の戦闘機に向かってきた……。



 ――パリィィィン――



 俺の中の何かが割れて弾けたような気がした。

 もう完全にぶちギレたわ。慈悲を与えてやってたのにこれではな。


「てめぇーら。無事に帰れると……"思うなよ……?"」


 タブレットを操作してF35の画像の隣にある【編集】をタッチする。

 そしてその中にある【使用武装の変更】を押し、ゴム弾を前提として殺さずかつ苦しめられるような武装を探す。表示された武装の数々は戦闘機に積むような武装以外に歩兵が携帯する銃まであった。これらがハードポイントに設置できるというのはかなり自由度が高いと思う。


「この戦闘機やっぱり固いな」


 外で継続的に兵達が俺のF35を剣で叩いたり弓を放って何度も当てたりしていたがキャノピー(窓ガラス)には割れる所か傷一つ付かない。


「戦闘機に積むような機関砲じゃ肉片になっちまうから歩兵が持つ、高火力な武装をと――」


 外を無視し表示された兵器の中で俺はブローニングM2重機関銃と呼ばれる12,7mm銃機銃をタッチする。すると使用弾薬の選択画面が表示されたのでゴム弾を洗濯し、それを機体の主翼上部のハードポイントに左右2つずつ、計4門を搭載する。      

 それとシステムを弄り、人が認識出来るレーダーとこの機銃を合わせて、CIWS(自動迎撃システム)のようにした。簡単に説明すると人をオートで撃ってくれるセントリーガンである。


 今まで金髪少女を無視し俺のF35だけを剣や弓で攻撃していた兵達は、その武装が生成された瞬間「おい! この鳥に食われてる童貞がなんか始めたぞw」とこちらを指差して笑い始める。


「…………」


 俺はディスプレイを操作して攻撃目標をにして無言で攻撃許可を出す。すると各4つの機銃が機体を攻撃し続ける兵達をロックし、「ダダダダダダダッ!!」と掃射を始める。   

 それを食らった兵達は「ぐあっ!?」「ぐはっ!?」「痛い痛い痛いッ!」など、悲鳴をあげながら次々に倒れていく。


「ははははは! ざまあないぜ!」


 俺は圧倒的な力で、俺を笑っていた奴らをねじ伏せる事に今までにない快感を覚えていた。このゲームでは感じたことがない”俺は最強”見たいな感じが凄いハマる。


「うわぁー。ご主人、まるっきり悪役ですね……」


    §


 それから数分間掃射を続けると数百人位はいたハズの大軍は、さっき先頭で俺をディスった指揮官と腰が抜けたのか女の子座りになっている兵数名だけになっていた。

 そこで俺は攻撃を終了させ、手動で銃口だけを指揮官に向けてスピーカーを使い話しかける。

 

「そこの指揮官! 一方的に攻撃される痛さと怖さを教えてやろうか!」


 その指揮官は俺が言い終わるのと同時に身体がスウッと動き出す。

 こいつまだやろうって――


「すみませんでしたもうその姫は諦めるので命だけはお助け下さいなんでもしますからお願いします!」


「なん……だと……!?」


 そいつは目の前で流れるように自然に土下座をしたのだ。極めた者になら分かる謝罪の念を感じさせる負のオーラ。頭を地面にズリズリと擦り付ける普通の人じゃ気づく事が出来ない動作。そこから微動だにしない体。ここまでの極地に到達するには汗と涙と涙と涙が必要なのだ。

  

「はぁぁぁ! ったく! さっさと去ね!」


 そいつに何か既視感を覚えてしまい、哀れみから許してしまった。

 その指揮官は「ありがとうございます!」とお礼を言いその場でUターンして残りの兵を引き連れ走り去って行った。

 

          § 


 俺はキャノピー(窓ガラス)を開けてコックピットから降り立ち、辺りを見渡す。


「なんというか……地獄絵図だな」


 辺りにはゴム弾を食らって悶絶して「うぅー」と唸っている人や「痛い痛い」と呪いのように言い続ける人。気絶している人が重なるように倒れていた。


「やっぱりご主人はサイコパスですね!」


 人の姿に戻ったエリはニヤッと笑って俺の顔を覗き込む。

 

「お前に言われたくねぇ!」


 今まで俺に殺人未遂を重ねてきて、やっとの思いで殺したお前が何を言う!


「まあ、そんな事は置いといて」

 

 後ろで怯えながらこちらに視線を向けてくる金髪少女へ話をするため近づいていく。

 

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