第24話 バンダナ~中国拳法かぶれの思い出~
もう時効なので書きますが、
アレはAジムにいた時の事でしたね、私が若い頃でした。
今日ジムに新しい人が来るから~って会長(焼肉屋経営・エラ張ってる)から連絡がきまして、
ああ、新しい仲間が増えるなぁ、嬉しいなぁってみんなで待ってたですよ。
したら、「押忍!失礼します!」って新しい人が来まして、
ピラピラのヒモみたいなタンクトップに黒帯を締めた空手ズボン、
頭にはいけてないバンダナを巻いた30過ぎの小太りのおっさんが入ってきました。
あまりの衝撃的なファッションにジムの一同は圧倒されました。
我々(記憶では3-4人はいたと思う)絶句している間に、
彼は聞いてもないのに自己紹介を始めましたね。
「自分(空手屋がよく使う一人称)はぁー!各流派を渡り歩いてー!
空手家としてプロのリングでどこまで通用するか試してみたくてぇー!」
とか言ってて、
(ああ痛い人が来たなぁ…)とか思ってました。
ちょっとやばいと思ったので、しばらく様子を伺っていましたよ我々は。
私みたいに若干引いている者、気まずい顔をしているもの、明らかにイラついてる奴、まぁそんな雰囲気でした。
したら、その空手家はいきなりドヤ顔でブルース・リーみたいな変な構えを取りはじめ、おもむろにサンドバックを叩き始めました。
Z君なんか、明らかにキレていて、このまま放っておいたら大事になると思ったので
「あ、あ、あ、鈴木さんキックボクシングのかまえっていうのは~…」
「生意気言うようですがこれは中国拳法のナントカ言うパンチの打ち方で打っているようで打っていない打ってないようで打つためのかまえなのです」
とか言葉を遮られて逆に説教されました。
さらに
「謙虚でないと強くはなれないと思いますので、押忍!」
と言われたですが、
え?なにこの人?どこが謙虚なの中国拳法をやりたいなら中国拳法のジムにでも行けや…
と思いましたが、ぼくはそんな好戦的な方じゃないんでまぁ黙っていました。
謙虚って何なのでしょう。
僕の心の中でゲシュタルト崩壊的なものが起こり、
僕の信じていた世界と意味がとりとめのない変容を始めました。
で、レクリエーションがてら少し雑談をしたのですが、
ミドル級(72.1kg)でプロテストを受けたいとか言い始めるですよ。
身長160cmの30過ぎの小太りのおっさんがですよ。
いやいやいやそれ無理だからヤメとけって、
悪いこと言わないからダイエットしてウェルター級(66.6kg)、できればライト級(61.23kg)で受けれって勧めました。
ぼくの、この空手家への思いやりを欠けた言葉が彼の逆鱗に触れまして、
キレられました。
「ぼっ僕は空手の試合で80㌔も90㌔もある奴らと試合してきたんだ!だからミドル級くらい大丈夫だァ───ッ!!!!!!」
とか突然デカイ声出すんですよ。
(※分からない人に解説しますが、ミドル級とは日本における事実上の最重量級です。選手はみな、身長180cm以上の大男ばかりです。ブヨブヨの72kgじゃないですよ、鍛え抜かれた筋肉で72kgです。僕はバンタム級(53.52kg)身長174cmの痩せっぽちでした)
このへんでぼくも(ああこいつナメてんな…)とか若干、いやかなりの苛立ちを覚えましたが、
「…ぼくって痩せてますよね?」と言うんで、
「え?う、うん、ああそうだね」と思わず返答してしまいました。
狼狽したぼくがチラとZくんを見やると、だいぶご立腹の御様子でバンテージとか巻いてます。明らかにキレ気味です。
ぼく達も大人なんで、とりあえず危ノーマルな奴は無視しとこうかと思いました。
各々シャドーなりサンドバッグ打ちなり練習を再開したところ…
しかしバンダナはここで予想外の行動に出たのです。
バンダナはろくにアップもせず、指をコキコキしながら
「それではスパーリングをお願いします押忍!」
と自信まんまんで言ってきたのです。
キレました。
ぼくは実はとても短気なので、最初に彼の相手をつとめる事になりました。
記憶が正しければ、当時の僕はキック歴一年くらいでまだ弱く、
今みたいに防御型のキックボクサーではなく首相撲もできず、
ただ気性の粗さに任せて相手をどつき回すしか能のない、昭和キックボクシング・スタイルの弱虫でした。
彼は14オンスのデカイグローブを手の甲を相手に向けて顔の前で合わせ、
横からチラチラ相手の様子を伺う前衛的なかまえを取りました。
な、なんだコイツは?と思い数発のパンチとローキックを繰り出しましたが、
全てブロックされてしまいました。
バンダナは空手野郎らしく右ロー1発で私を転倒させると
ドヤ顔で「せいやっ」と残心のポーズするですよ。
もっとキレました。
オレがワンツーから左ミドルを繰り出すと、
バンダナはパンチこそでかいグローブに頼ったブロックをしましたが、
左ミドルをモロに食らってオフゥッとか気色の悪い声を出してます。
ここからただのドつき合いなんですけど、1分くらいはやりましたかね、
当時のぼくでは倒しきれませんでした。
ぼくは当時55kg足らずで技術もなく、相手は70㌔台の腐った黒帯です。
テメェ絶対ブチ殺してやる、はぁはぁはぁ…とかやっていると
まだ1Rも終わってないのにZくん乱入です。
「墓林くんオレにやらせて」と言って、
バンダナに了解を取らずぼくを押しのけて、いきなりバンダナをシバき始めました。
バンダナは3Rくらいはボコボコにされてました。
Zくんはプロ選手でした。
バンダナのスネカットの上からローキックをガシガシかましてバンダナの膝を破壊しています。
こんな冷静さを欠いたZくんを見たのは初めてでした。
もう何と言うんですかね、中国拳法の教えは何処へやら
バンダナは完全に戦意喪失して、ロープにヨサリ掛かって助けを求める目付きで
ぼくの方をチラチラ見てます。
「Zくん相手が嫌がって横向いたら右ストレートだよー(^O^)」とか言ってます、僕。
バンダナの処刑はなおも続き、Zくんに絶大なダメージを負わされたあと、
みんなで交代ばんこでボコボコ…じゃなくてバンダナ先輩に稽古つけてもらいました。押忍!
やがてジムにタクシーがバンダナを迎えに現れたところで僕たちは正気に戻り(昔のド田舎村なのでバンダナは県外からくる)
これでもう二度と来ねぇだろ、と思うぐらいバンダナ先輩に稽古を付けて頂かせて頂いたのですが…
ですがね、バンダナは次の週にまた来たのです!
ぼく達の負けです。
ぼく達は空手道の厳しさに、バンダナの押忍の精神に負けました。押忍ッ
まぁー、あのですね、その、何ですか、ですね、一つのアレといいますか、
会長とかトレーナーが常駐してないと、ジムは簡単にイジメ・シバキの温床になります。「ミリオンダラーベイビー」で黒人の若い奴がデンジャー・バーチをいぢめてモーガン・フリーマンにブチのめされてたでそ。あれは本当です。
この件についてはPIXIV上にて、私の作品「ゴーゴー少女!うどん谷ナナ子さん 第2話 その日、悪魔は俺に生きろ!と言った!」
に描いてます。
この作中において、私はバンダナの底知れぬ恐ろしさの百分の一も表現できませんでしたが、興味ある人はテキトーに検索して見といて下さい。
この頁 気が向いたら続編を書くかもしれません。
期待しないで待っててください。
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