滑稽

校舎の上で泣いた日の夜。

俺は机に向かい、ペンを動かす。

俺は勉強をしている。

今勉強しているのは高二の数学だった。

一問、しばらく置いてまた一問とペンの走りはあまりはかどっていなかった。

俺は高二の勉強を一切受けていない。

それもデスゲームが始まったのは俺が高一の秋頃だった。

それでデスゲームが終わった途端に施設での保護。

十六歳から二十歳になるまで俺は勉強をしていない。

しかも、デスゲーム自体に頭を使う事はあまりなかったため、はっきりいって中学の内容ですら少し怪しかった。

しかし、施設から出て早くに勉強をしたため九月現在で高一までの勉強は出来る。

それには母親にも感謝している。

やる気があると聞いた母親が書店を走り回り、いろんな会社の教材を買い集めてきてくれた。

母親は息子がやる気になったらひたすら応援してくれていた優しい母親だった。

それは置いとくとして問題はこれだ。

完全に手が止まっている。

こういう時に高校生活を過ごしたいと思う。

先生に恵まれ、教えてもらい、理解する。

あたりまえと言うのは失ってから気づく。

本当にそうだなと思い、ペンを置き、ある人を呼ぶ。

「おーい、園葉ぁー。ちょっと教えてくれー」

そう呼ぶと、一階から「はーい」と聞こえて来る。

空我園葉。現役高校三年生。

彼女は俺より学力がよく俺が通った雨宮高校より高いレベルの高校へ進学し、いまではたまに勉強を教えてくれている仲であった。

ガチャと、ドアが開き妹が来る。

「兄さん、どこ分かんないの」

「いや、この軌跡と領域ってやつのここなんだけどさ」

「ああ、そこね。 それままずここを___」

妹は俺から問題を聞いてすぐに手を動かし、教えてくれる。

さすがだなと感心しながら、言われる通りに問題に取り組む。

妹に教えてもらった通りに進めるとそこからは手が止まらなかった。

すいすいと動かす手に妹は驚いていた。


「よーし、終わったー。 あとは、何問合ってるかだな」

「す、すごいね、兄さん。 そこ教えただけで全部分かるなんて」

園葉は兄に自分の驚きを隠さずに告げた。

「やっぱり、兄さんは頭いいよね。 勉強…する時間なかっただけで…」

妹は俺が心配なのだろうか、園葉は顔が少し赤くなっていた。

「いやいや、お前の教え方が上手な訳で俺はそんなことないよ。 だいたい、お前の方がいい高校通って…」

「そうじゃない!!」

園葉は兄の言葉を遮るように

「ちょ、おい、」と驚く俺に続けて園葉は続けて叫ぶ。

「兄さんは頭いいよ!多分、色んな会社から認められるぐらい!!それなのに高校中退ってレッテルを勝手に張られただけで!!それだけなのに!!それだけなのに!!」

祐介は今、初めて妹の気持ちを理解した。

こんなにも思ってくれたのか、と感じる。

そこに妹が思いもよらないような発言する。

「私が兄さんを養うよ!これから先、ずっと私が働くから!!兄さんはもう何もしなくていい!!もういっぱい頑張ったもん!!兄さんのしたいこと、何でもする!例えそれがどんなにむずかしかったりしても頑張るから!!もういいんだよ!もうがんばんなくて!!」

それは兄、祐介に対する妹、園葉の気持ち。

もう頑張ったんだ、もういいんだ。

確かに、その言葉には信じていいだろう。

それに頼れば生涯、働かなくていいだろう。

しかし、それは自分の目指したいこととは違った。

「園葉。 俺はその話には乗れないよ。 俺はデスゲームで死んだ皆の分までこの世界で頑張んなきゃいけないんだ。 就職だってその一つだ。 死んだ皆の中には俺よりいい会社に行った人だっていただろう。 そんな頑張っていた人の努力を無かったことにしたくないんだ」

俺はありのままを言った。 せめてみんなの分は生きていきたかった。

「兄さん…カッコいい…カッコつけすぎだよ… そんなカッコつけさせたくないよ…」

園葉も本音だった。 兄に頑張って欲しくない。

ただ、私たち家族のために生きてほしい。

「園葉…」

不思議と声が漏れた。

園葉の気持ちにも応えたい。 だけど皆の為にも頼りたくない。

皆のためにも、皆の為にも……



あれ?

何でみんなが俺に期待してるんだ?

あいつらもう死んだじゃん。

そう思うと、負はどんどんと追いつめてくる。


ここで頼れば楽じゃないか?

                    皆がなんだって言うんだ。

   俺は頑張ったんだ。

            諦めていいだろ。

 なぜ俺は皆の事を思ったんだ?

               そもそも皆ってなんだ?

                      ただの独り芝居じゃないか。

  もう全て諦めていいだろ。もう、いいだろ。もう…


もう思考は諦めたい、辞めたいと嘆くものだけだった。

なんで就職したいんだ?

なにも考えない方が楽じゃないか。

もう努力したくない。

もう、二度と辛い事は考えたくない。





違う。

そうじゃねぇわ。

俺はここまでなんで学校通って努力してきたんだ?

なんでこの努力を無駄にするんだ?

努力を無駄にするなんてなんでだよ。 俺の努力、見せたいんだよ。

ここまで生きた意味を出したいんだよ。

デスゲームで生きたいと思った理由なんだよ。

たかが一人のために死んだ人間の理由にもなりたいんだよ。


今までの思考は全て祐介の思考だ。

ただ、自問自答し、自己解決しただけの。

でも、それは祐介自身には生きる理由になっていく。

これから先、生きて行く上で大事にしていく言葉になっていく。


俺は顔をパン!と叩く。

「兄さん!?」と妹の驚きの声が漏れている。

そして兄、祐介は声に出して誓う。

「よし!俺は就職して見せる!そして家族を苦労しないように養う!それが俺の生きる目標だ!だからそれが叶ったとき園葉、俺とHしてくれ。」

「えっ!?」とまたもや驚きを漏らす妹にからかう声で「だってなんでもしてくれんだろ?」と返し「いったけど!」と恥ずかしながら返す。

その日の夜はただ楽しく妹と勉強したり遊んだりした。

そう、俺は園葉や父さん、母さんを養いたいんだ。

こうやってじゃれあうのもいいじゃないか。

これから頑張っていくんだ。 その練習だ。 言い訳だろうがいいだろ。

俺の目標に走って行って行くんだから。


一年後。

落ち葉が秋だということを教えてくれる。

ここは大学。 試験会場だ。

就職には学歴が必要だと頑張った日々に成果を出すときがきた。

「よし、行くか!」

俺は颯爽と試験会場に脚を踏み入れた。



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