13
俺たちは神奈先輩と合流し、街の人たちに見送られて出発した。門までついて来た僧侶たちが周囲の野次馬たちにことの顛末を説明していたため、「がんばって下さい!」「私たちを救ってください!」などの声が飛んでいた。
簒奪者である神奈先輩にはそれなりに悪評もあったようだが、街の危機とあって手のひらを返したようだ。先輩は盛大に見送られて、まんざらでもない様子である。
そして現在、魔王の城へと続く森の中である。
「最初の街から半日で魔王城」と聞くと、何それ近っ! と思うが、半日歩くというのはけっこう長い。俺たちはお弁当を用意して、ピクニック気分で歩いていたのだが。
「シャアアアアア!」
「ていっ!」
物陰から狼を一回り大きくしたようなのが飛び出してくる。俺が咄嗟に開いたままの
「これで何匹目だよ……」
「おお、兄、肉をドロップしたぞ」
「……そのまま置いておきなさい」
魔王城に近づくにつれ魔獣に襲われる頻度が増え、ずっと気を張りながら歩いている俺はくたくただった。
「むう、兄ぜんぜんドロップ品拾わせてくれぬい」
「生肉大量に担いでいってもしょうがないだろ……」
ずっと俺に守られているだけの塔子は呑気なものだ。
「だいたいその生肉担ぐの俺だろうが。ただでさえ歩きづめでしんどいんだから、荷物を増やさないでくれ」
「むう、兄なさけぬい。カンナを見習ったらいい」
「……」
俺は見習えと言われた、少し前方の神奈先輩を見遣る。
「あははははは!」
そこには喜々として魔獣に飛びかかる憧れの先輩の姿があった。……うん、先輩が楽しそうなのはいいことだと思います。
「ふふふ、数が増えてきたわね! 魔王に近づいてるって感じがするわ! さ、何やってるのよ、行くわよ二人とも!」
そしてこれ以上ないほどにテンションが上がっていらっしゃる。先輩きっとゲームの無双シリーズとか好きなんだろうなあ。でも正直、暴れまわるせいで本来戦わなくていい奴までおびき寄せちゃってるのでもうすこし控えめにしてくださると助かります。
「ほら兄、行こう」
「わかったよ……」
俺は周囲を警戒しつつ、先輩に置いていかれないように歩を早めるのだった。
「休憩しましょう!」
それから一時間ほど。
朝早くに出発したのがもう日は登りきり、遠目に魔王の塔が見えるぐらいの場所で、俺は断固として言った。
この辺りは森の切れ間で魔獣の奇襲の心配もないし、近くにちょうどよさそうな岩陰もある。ひと休みするにはちょうどいい。
「何よ、もうバテたの?」
神奈先輩がいい笑顔で振り向く。俺の倍は動いてるのにすごい体力だ。
「兄、なさけぬい」
「うるさいっ。ほらその先輩も、俺らせっかく弁当持ってきたじゃないですか! もう魔王の塔見えちゃってるし、これ以上近づいたら食べるタイミングありませんよ? まさか塔の真ん前で食べるわけにもいきませんし」
必死になって説得すると、先輩はちらと塔の方を見やりながら
「それもそうね」
と納得してくれた。よかった。
岩陰に座り、弁当を広げる。さすがにそばは持ってこれなかったが、俺お手製のパクトゥがたっぷり詰まっていた。
水筒にはよく冷やしたアツカンをたっぷり入れてきている。皆の分をそれぞれコップに入れて、ひと息に飲み干す。少しぬるくはなっていたが、それでも火照った体にはじゅうぶんに冷たく、生き返る気持ちがする。
「……ふう。こうしてひと息ついてみると、さすがに喉が乾いてたわね。もう一杯ちょうだい」
「どうぞ。……先輩って、けっこう集中すると周りが見えなくなるタイプですか?」
「というか、なんでも一気にやりきっちゃうタイプかしらね。夏休みの宿題なんかも、最初の数日で終わらせちゃうタイプ」
「それなら間に合うな、よかたー」
「……?」
あまりに言葉が足りない塔子のセリフを通訳する。
「先輩は当然夏休みの宿題をやってないっていうか、受け取ってもないじゃないですか。だけど数日でやれるなら、元の世界に戻ってからやり始めても間に合いますねって、意味です」
「ああ……。ま、戻ったらの話だけどね」
冷やしアツカンの入ったコップを両手で抱えながら、先輩が言った。
「お兄さんと仲がいいのね」
「ふんー」
と、二人で微笑み合っている。まあ塔子のは微笑むというよりもにんまりという擬音が似合う笑顔だが。
パクトゥをつまみながら、俺は木々の間にのぞく魔王の塔を見やった。
それほど高くはない、元の世界の感覚で言うなら4~5階建てのビルぐらいだろうか。円形で、魔王の髪色と同じ黒の塔。あの幼い少女、に見える魔王があそこに住んでいるというのは、不思議な気がした。
「魔王は、あそこに一人で住んでるんですよね」
「ええ」
「ふだん、何してうの?」
塔子が首を傾げた。確かに、一人塔に篭っての生活は我々人間の感覚では寂しくて、退屈だ。まあ、パソコンとインターネットとアマゾンがあれば別だが。
「ま、どちらかというと神様に近い存在みたいだから……。神が何してるかなんて、私たちが考えてもきっと無駄なことなんでしょう」
「勇者と話してたときは、思い切り人間臭かったですけどね……」
とはいえ、魔王が一人篭っているというくろぐろとした塔を実際に目の当たりにしてみると、あそこに住み続けられる精神性はやはり人間とは違うのだろうな、という顔になる。
今頃はあの塔のてっぺんで魔獣を従え、勇者を待ち構えているのだろうか。そんなことを考えながら、パクトゥをぽいぽいと口に入れていく。うまい。
「あ」
ふいに聞きなれない声がした気がして、塔に向いていた首を正面に向ける。
「あっ」
俺が思わず声をあげると、神奈先輩もそちらを向いて「あっ」と言った。うん、まあね。
そこにいたのは、黒髪の巨大ツインテールに、真っ赤な眼をした少女――紛れもなく、領主の館で見た魔王、その人だった。
塔にいるだろう魔王に思いを馳せてたら、その本人が目の前にいたのだ。「あっ」としか言いようがない。
俺たちと魔王はしばしの間、互いを見つめ合ったままフリーズしていたが、やがて
「「あーーーーーっ!」」
と、魔王と互いに指差し合いながら神奈先輩が立ち上がった。
「き、きさま、カンナ! なぜこんなところに!」
「こ、こっちのセリフよ! なんでこんなところにいるのよ、塔にいなさいよ!」
そう、魔獣にはたくさん出会ったが、まさか魔王とエンカウントするとは思わない。
「まさか、もう街を滅ぼしにいくつもりなの? ちょっと早すぎるでしょう! まだやっと割れた人たちが復活したところだし、魔王ならもっとどっしり構えて街の人に猶予というものをね……」
「えっ、いや」
神奈先輩にまくし立てられ、魔王はばつが悪そうに目をそらす。
「ただ天気が良かったから、散歩していたんだが……」
「……」
「……」
しばしの沈黙ののちに。
「魔王が気軽に散歩しないでよ!」
「なっ! 散歩ぐらい好きにするだろうが! ていうかあんな陰気な塔にずっと篭ってたら息がつまるわ!」
ああ、やっぱりそこはそうなんだ。
「にしても、街であんな脅し文句言った後でしょう?! ちゃんと待ち構えてなさいよ! 危うく私たちが意を決して乗り込んだら留守でしたってなるとこじゃないの!」
「いや、昨日の今日だぞ。こんなに早く来ると思わなかったし……って、お前らの都合は関係ないだろうが!」
気を取り直した魔王がきっと神奈先輩を睨む。
「手間が省けた、割るなどとは言わん、ここで消滅させてくれるわ!」
「ふん、望むところよ!」
「いや先輩、それは望んだらダメなやつですよ」
だいたいここには魔王と戦いに来たんじゃなくて説得しに来たのだ。急な出来事に先輩も混乱しているらしい。
一触即発の二人をどう止めようか。そう思っていると、ぴひょー、と間の抜けたたて笛の音が鳴り響いた。
全員の視線が集まる。と、塔子が頬をふくらませてぷひーとたて笛を鳴らしていた。
「……うるさいー!」
塔子は珍しく怒った様子でパクトゥを指差し「……食事ちう」と付け足し、ひとつ取って口に運ぶ。
魔王と神奈先輩は気勢をそがれ、きょとんとした顔で向かい合った。
「あー、塔子もこう言ってることですし、とりあえず話し合いませんか?」
俺は立ち上がり、パクトゥの詰まった弁当箱をひとつ取り上げる。
「……食べます?」
尋ねると、魔王は『私に言っているのか?』とでも言いたげに自分を指差した。
「……うまいな」
岩に腰を下ろし、パクトゥを口に含んだ魔王アナスタシアはそうつぶやいた。
時折指についた汁を舐め取りながらパクトゥにかぶりつく姿は、本当に幼い少女にしか見えない。実際に目にしていなければ、この子が恐ろしい力で兵士たちを一瞬にして割ったとはとても思えないだろう。
神奈先輩は先程言い合ったためか、気まずそうに横目でちらちらと見ているだけだったが、塔子は気にせずアナスタシアに話しかけ続けている。
「アナはあそこにずっと住んでるのー?」
「アナって……軽々しく呼ぶな」
「でも、勇者はアナってよんでたのよ」
「あれは、あいつが……。ふん、まあ見たところまだ子供のようだし、許してやろう。好きに呼べばいい」
アナスタシアも塔子と同じぐらいの年齢にしか見えないのだが。というか見た目年齢が同じなので、塔子も親近感を覚えているのかもしれない。
「そう、わたしはずっとあそこに住んでいるぞ。生まれた時からな」
「ひとりで?」
「ひとりでだ」
生まれた時からひとり。神やら女神やらがうんたらかんたらで生まれた存在だから、やはり普通の人のように父と母がいて、という出生ではないらしい。
「あの、失礼でなかったら……アナスタシアさんはいまおいくつなんですか?」
と、俺は気になったことを聞いてみる。
「む、レンタローといったか、お前は口の利き方を心得ているな。様付けならもっとよかったぞ」
アナスタシアはお褒めの言葉をくださり、質問に答えてくれる。
「そうだな……人間が言うところの年齢というのは数えていないが、ティールの街と同じだけ生きている」
「ティールの街と同じ……ってことは」
確か勇者カルガオーが、第十七代目の勇者だと名乗っていた。寿命の半分の二十五年で代替わりしたとしても……
「よ、四百歳以上?!」
「まあ、そんなところだろうな」
アナスタシアはパクトゥの詰まった口をもごもごと動かしながら、こともなげに言った。不老……いや、そもそも老化とか死とかいう概念がないのかもしれないな。
「よんひゃくねん……暇じゃぬい?」
「暇だよ。まあ、慣れているがな」
と、自分の住む塔を見やる。
「人間のようにあくせくと、絶えず何かをしていないと耐えられんような存在ではないのだ」
「おおー」
塔子はとても興味深そうに頷きながら聞いている。してみると魔王というものは一日の大半をぼけっと座って何もせずに過ごしているのだろうか、想像するとちょっとシュールな光景である。
「……ねえ、ちょっと聞いてもいい?」
アナスタシアは話しかけられた神奈先輩のことをきっと睨んだ。やはりまだ先輩のことは警戒しているらしい。
「……なんだ」
「……どうしてあなたは、勇者にそんなにこだわるの?」
魔王アナスタシアはふう、と首を振った。
「勇者が嫌いな魔王などおらんよ。……というか、魔王が勇者を嫌っていたら、その街はすでに無くなっているだろう」
「それにしても、その、あなたの執着は……恋人を取られて嫉妬する女のそれに似ているように思ったのだけれど」
神奈先輩の直接的な物言いにひやりとするが、アナスタシアは特に怒るでもなく、
「知らないのか? 闇の女神の眷属は嫉妬深い」
と笑った。
「まあ確かに、あいつ――カルガオーは歴代の勇者と比べて少し変わっているからな。勇者という職責を、魔王という存在をいまいち理解していないふしがある」
アナスタシアはそう言って「だからわたしのことを、アナなどと呼ぶのだ」と、どこか嬉しそうに付け足した。
魔王として畏れ敬うのでなく、アナスタシア個人として接する。カルガオーのそういうところが気に入ったのだろうか。
「しかし、理解していないといえば」
と、アナスタシアは俺たち三人を見回して言った。
「お前たちは、わたしや勇者といった存在をまったく理解しておらんようだな。その黒髪から、どこぞの闇の女神の眷属が街を奪いに来たかとも思ったが……」
そんな風に思われていたのか。そりゃ警戒されるわけだ。
「お前たち、一体何者だ?」
今なら落ち着いて話を聞いてもらえそうだ。俺たちは自分たちのことを、最初からアナスタシアに説明していくことにした。
「ふむ、異世界なあ……」
特に隠すこともないので、俺たちはこの世界に来てからのことを全て話した。神奈先輩がやってきて、魔獣狩りを楽しんでいたこと。勇者と出会って、闇の女神の眷属と勘違いされたこと。国主に据えられ、カルガオーに騎士として仕えられたこと……。
先輩の話には一部俺も初耳な部分があったが、おおむね互いに知っている内容だ。
「異世界というものの存在は聞いてはいたが……そんな簡単に来られるもんなのか?」
「ええ、わりと」
その辺はあまり突っ込まないで頂けると嬉しいです。
「まあ、こちらの世界に来てからのことは分かった。少しお前たちも流されすぎだという気はするが、おおむねカルガオーのやつの一人合点が原因のようだな。まったく、あいつは……」
アナスタシアは困ったものだとこめかみを押さえていたが、ふいに鋭い目で神奈先輩を睨んだ。
「……確認なのだが、本当にカルガオーとお前は男と女の関係ではないのだな?」
「ないわよっ! 悪いけど私の好みじゃないし!」
先輩がかぶせ気味に否定する。「じゃあ先輩はどんな人が好みなんですか?」とはさすがに聞ける空気じゃないので黙っておく。
「……カルガオーから愛を囁かれたことも?」
「ないっ。あくまで彼に向けられていたのは尊敬とか崇拝とかいう類のもので、そんな色っぽいものじゃないわ」
先輩がきっぱりと否定すると、アナスタシアは少し表情を和らげた。神奈先輩からするとそうでも、カルガオー側的にはちょっとは恋愛感情的なものもありそうな気がしたが、まあ余計なことは言わない。
「……良し、今はお前の言葉を信用してやろう。カルガオーの奴には後でみっちり説教してやらんといかんな」
どうやら神奈先輩に対する、というか、先輩とカルガオーの関係についての誤解は解けたようだ。
「しかし、お前たちがこちらの世界に来てからのことは分かったのだがな」
と、アナスタシアは首を傾げた。
「そもそも何故カンナ、お前はこの世界にやって来たのだ?」
その問いに先輩はふいっと目をそらす。
「……さあ?」
「さあってなんださあって。ちょっと散歩とかで来るとこじゃないだろ。何か理由があったんじゃないのか」
貴重な魔王の突っ込みを受けて、神奈先輩は俯いたまま言った。
「……しいて言えば、元の世界の自分に納得が行ってなくて」
「というと?」
促されて、先輩は顔を紅潮させながら答える。うん、こういうこと自分で説明するの恥ずかしいだろうな。
「……臆面もなく言うけれど、私は人気があったわ。憧れられ、慕われていた。でもそうやって周囲からの評価が固まっていけば固まっていけばいくほど、同時に周りからそう思われている自分とは別の自分があるんじゃないか、って思いが強くなっていったの」
自惚れではない。実際に先輩は羨望の的だった。俺もその取り巻きの一人だ。
でも人気者には人気者なりの抑圧があったのだ。先輩は何も考えずそのまま人気者として君臨するには繊細すぎたのかもしれない。
「……それで、異世界なら思う存分本来の自分を出せると思ったのよ」
「なるほどな。結果はどうだった」
先輩は首を振った。アナスタシアは「だろうな」と言った。
「慣れ親しんだ世界でうまくいかぬことが、異世界でうまく行くはずもない」
「……そうね」
先輩はそれだけを絞り出すように言った。それは他ならぬ先輩が、一番実感していたことだろう。アナスタシアもそれは分かっているのか、それ以上責めるようなことは言わなかった。
「あなたには……いえ、こちらの世界の人たちには、迷惑をかけたわね。悪かったわ」
少しの間のあと、先輩はそう言った。
「悪かったと言うわりには偉そうだが……まあいい。これからどうするつもりだ?」
「……あなたが矛を収めてくれるなら」
先輩はちらと俺に視線を向けて、また魔王に向き直る。
「元の世界に帰ることにするわ。……夏休みの宿題も、やらないとだしね」
「うむ、宿題だいじ」
なぜか宿題に食いつく塔子。
アナスタシアは『ナツヤスミノシュクダイ』が分からないのかきょとんとしていたが、帰ってやることがあるのだな、と納得し、相好を崩した。
「そういうことなら、わたしとしても事を荒立てる気はない……もとより、本当に街を滅ぼすつもりはなかったしな」
「やっぱり。アナスタシアさんにとっても大事な街ですもんね」
俺がほっとして言うと、アナスタシアは真顔で
「いや、半壊ぐらいにはしてやるつもりだったが」
と恐ろしいことを言った。このあたりは魔王らしいな。
「ともかく、今回の件はこれで手打ちだと戻って街の者に伝えるがよい。カルガオーは後でこってりと絞ってやるがな。ところで……」
と、アナスタシアは今気づいたという風に首を傾げた。
「カルガオーは、今何をしているのだ? よく考えれば、詫びを入れに来たならあやつも同行するのが筋ではないか?」
「……」
言えない。
この流れで「いやー勇者の手柄にしたくなかったんで簀巻きにしてニョロギ塗っちゃいました☆」とは言えない。オキニの勇者にそんなことをしたと知られたら、間違いなく戦争再開だろう。
「……い、いやー、魔王様は勇者に対してお怒りだったんで、かえってややこしくなるかと思って……」
「余計な気を回さずとも良いものを。……まああやつは直情的なきらいがあるから、あるいは懸命であったかも知れんな」
アナスタシアはなるほどと頷いてくれた。なんとかごまかせたようだ。
「戻ったらカルガオーにはすぐ来いと伝えておけ」
「わ、わかりました」
「良し、ではわたしは塔に戻ろう」
魔王は立ち上がり、ぱたぱたと裾を払った。
「もう行っちゃうのかー?」
「ああ。トーコ、そのパクトゥとかいう食い物はなかなか美味だったぞ。馳走になった」
「うむ、また持っていかせる。ゆっとく」
パクトゥ作ったの俺なんだけどな。
「ではな、お前たち。迷惑な旅人ではあったが、興味深い旅人でもあったぞ」
「ええ、私もいい経験だったわ、ありがとう」
そう言い合って、神奈先輩と魔王アナスタシアはがっちりと握手を交わし。
ここに俺たちの異世界騒動は終結した。
……のであれば良かったのだが。
「うおおおおおおおおおおおおおおおカンナ様ああああああああああ!」
いい雰囲気で別れようとする俺たちの耳に、聞き覚えのある叫び声が木々の合間から響いてきた。
「いま参りますぞおおおおおおおお!」
「クソッ! こいつ、止まれよ、止まれって言ってんだろ!」
「なんであんなに早いんですか?!」
「ロープが引っ張られるよおお~」
さらに馴染みの深い三人の声も聞こえてくる。
だいたいの事情を察して俺と神奈先輩は凍りつく。塔子だけはマイペースに「おお?」とか言ってるが。
「何だ、騒々しい……」
今にも立ち去らんとしていたアナスタシアは足を止め、怪訝そうに声の方を見る。その先には。
「カンナ様ああああああ!」
どうやってか下半身の縛めだけを脱し、上半身は簀巻きにされたまま。
顔面をペースト状のニョロギまみれにして。
その上来る途中にいろいろあったのか、頭から血をだらだら流しつつ枝やら葉っぱやらを大量にくっつけて。
ものすごい勢いでこちらに走ってくる、勇者カルガオーの姿があった。
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