第2話 風のように颯爽と

 ピーンポーン ガチャ

あ、やっぱ速いなぁ。


「時間ぴったりですね」


「まぁ、なんとかね…」


ひょこっと扉から出て来て鞄を肩に掛けた女の子が俺の隣に並ぶ。


「では、行きましょうか」


相変わらずの敬語だった。まぁ、あまり話しかけられることなんてなかったから今時の普通が分からんけども。


「そういえば……」


「ん?なんですか?」


俺は会ってすぐに思っていたことを聞いてみることにした。


「あのさ、名前なんて言うの?」


「あ、申し遅れました。私、新凪 瑠璃亜(しんなぎ るりあ)と言います。よろしくです。」


ほう、瑠璃亜ちゃんか。珍しい名前だなぁ。


「じゃあ瑠璃亜ちゃんで良い?」


「え?は、はい。別に構いませんが……」


すると瑠璃亜ちゃんは下を向いて


「私……名前で呼ばれたことが無いんです」


「えっ?」


ど、どゆこと?


「私には両親が2人とも生まれた時に家出してしまって、引き取ったおばあちゃんもとても厳しい人だったので名前で呼んで貰えず……。友達もいないんで。」


瑠璃亜ちゃんは苦しそうに声を絞り出していた。重い沈黙が続く中


「あっ!すいません。こんなこと言われても迷惑ですよね。本当にごめんなさい……」


「迷惑なんて……思うわけ無いじゃん。僕は君と友達になりたい。だから、迷惑なんて思わないでよ。」


昔、下にいる白河 萠に言われた言葉だ。そのとき友達がいなかった僕は死ぬほど嬉しかったのを覚えている。


「ふふっ、優しいですね。……とても嬉しいです。では!気を取りなをして行きましょうか!」


元気を取り戻した瑠璃亜ちゃんと一緒に階段を下りる。……そこで気づいた。己の間違いに。


「あっ!凛音!おは……よ!?」


白河 萠の存在を忘れていたことを。



「ねね。凛音!どういうことなの!?」


白河 萠。白髪ツインテール眼鏡ガールの元生徒副会長。成績優秀。運動は苦手である。しかし、努力家で大抵のことは解決出来るのであまり困らない。そして、僕の唯一だった友達。その萠が今キスが出来るんじゃないかってくらい顔を近づけ問い詰めてきていた。なるべく落ち着いて話したいが……


「あ、あの子は昨日僕の家の隣に引っ越してきた新凪 瑠璃亜ちゃんだよ。学校の行き方が分からないって行ってたから……」


すると萠は落ち着いたようで手を離して


「そうなの?なら最初から言えば良かったのに……」


「言わせたくれなかったじゃん。」


「あ、あの~。蘭さん?その人誰ですか?」


瑠璃亜ちゃんが首をかしげて聞いてきた。


「この人は白河 萠。僕の家の下に住んでいる人だよ。」


萠はよろしくっ!というかんじに頭を下げた。


「えと、わ、私っ、新凪 瑠璃亜と言います。よろしくお願いします。」


少し慌てた感じにこちらも頭を下げていた。やっぱり人苦手なのかなぁ。


 まぁ、そんなこんなで今マンションを出て、僕を真ん中にして、一緒に登校していた。高校は歩いて20分位のところにあり、現在は8時10分。8時40分に高校はに着けば良いので大分余裕がある。まだ緊張気味の瑠璃亜ちゃんと明るい調子の萠。コツッ、コツッとローファーの心地良い音がする。これが高校生かぁ。


「蘭さん……帰りも一緒にお願いできますか?」


「も、もちろん!こちらこそお願いします」


「あ、私今日はパスかな?中学の友達からの打ち上げに呼ばれているから」


へぇ。友達付き合いって大変なんだなぁ。


「友達……私にも出来るでしょうか…?」


不安そうに下を向く瑠璃亜ちゃん。昔から友達いないだよな。


「大丈夫だよ。きっと友達出来るって」


僕は瑠璃亜ちゃんに向かって言った。少し不安そうだった瑠璃亜ちゃんも少しは笑顔になっていた。

 


20分ほど歩き見えたのは白く新しそうな校舎だった。


「こ、ここが白鷺(しらさき)高校……。大きいです」


私立白鷺高校。今年で創立3周年でとても清潔感漂う高校は見る者の憧れでもある。しかし、入れる人はとても限られており偏差値70以上で両親がいない子を募集し、奨学金で入ることが出来る。僕は昔から勉強だけは好きだったのでとてもありがたい。ちなみに萠も両親が昔からいないらしく、生きていたときに教えて貰っていた家事と市役所からの援助金で過ごしていたらしい。

 と言うよりもここにいる人はエリートになれなかったエリートが通う高校なのである。


「入学式緊張します……」


あからさまに緊張を見せる瑠璃亜ちゃん。


「ここで頂点めざすぞ~!」


元気に意気込みを語る萠。

 この2人と高校生活かぁ。楽しそうだな。これからの生活に胸が高鳴るのを感じていた僕もいたようだ。






 

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