第10話

俺は、木造建築で横開きの扉を開ける。少々ガタついてはいるが、よく手入れされているのか力を入れると軽く空いた。


「っ..........!」


中の光景を目にし俺は息を飲む。驚かされるのは本日何度目だろうか。


中は酔っ払った客や忙しなく動き回る店員。店のは外から見たよりもずっと広く。リザードマンやオークなど色々な種族がごった返していた。


光が入りにくいのか、少し暗めの店内はルナの家で見たようなフラスコのような形をした暖かい黄色を発するランタンが照らしている。


「キュール3本追加!新人!もっとキビキビ働きな!」


すぐ真横からダミがかった声がする。俺は少し驚き目をやると、エプロンをつけてお盆に酒のようなものを乗せて運んでいるおばちゃんがいた。


「はいぃ〜」


さっきのダミ声に答える可愛らしい声。見たところバイト始めたての学生って感じだろうか。こっちはメイド服のような可愛らしい格好をしている。


「女将さん!あのねーちゃん昨日入ったばっかなんだろ?もうちょい手加減してやれよー」


「バッカあんた今から甘やかしてちゃ将来ロクな人間になりゃしないよ!だからあんたのとこのドラ息子はグレちまったんだよ!」


「ガッハッハ!違いねぇ!それを言われちゃ返す言葉もねぇ!こりゃ一本とられちまったな!」


女将さんと呼ばれたおばちゃんと、酔っ払ったリザードマンが楽しそうに喋っているのを俺が遠目に見ているとおばちゃんが急にこっちを見た。


「で?アンタさっきからそこに突っ立ってなんだい?悪いけど今日はもう部屋は空いてないよ!」


「いや、俺は異世界転移者でギルドカードを...」


おばちゃんは納得がいったという顔で頷くと俺の方を掴んで来た。


「なるほどな!そりゃ心細かったろ!ギルドカードの発行なんてすぐできるからここの椅子に座って待ってな!」


そう言って、おばちゃんは店の奥に入っていった。


5分もしないうちにおばちゃんが、見覚えのある機械を持って戻ってきた。血圧計だ。


「じゃあこれに腕を入れな!大丈夫、痛くないから!」


「え、これ血圧計じゃ...」


「血圧計?なんだい?それ。これは魔力測定器っていって全身に魔力を流してその人間の能力を測るもんだよ?」


どう見ても病院とかに置いてる血圧計だけど、血圧計を改造した魔道具なのだろうか...


俺は恐る恐る腕を血圧計の中に入れると、おばちゃんがスタートボタンを押した。


一瞬体が痺れるような感覚がしたがすぐになくなり、血圧計からカードが出てきた。おばちゃんがカードを取る。周りに座ってたやつらが興味ありげに群がって来る。


「身体能力平均以下、運平均、頭脳はちょっと高いくらいだね。」


俺のステータスを聞いて群がってたやつらが途端に興味をなくす。その時。


「お!あんた固有魔法が結構いいね!これ、Aランクだよ!」


その声を聞き店内がザワザワと騒がしくなる。


「え!本当か?で、おばちゃん!どんな能力なんだ?」


これは、噂に聞く異世界チートというやつだろうか!


「そう慌てるんじゃないよ!えーと、なになにあんたの固有魔法は...自分が詳しい場所の物を転移させる能力だよ!」


「なんだそれ?凄いのか?」


いまいちパッとしない。


「凄いも何も、転移魔法なんて固有魔法の中じゃレア中のレアだよ!あんた!ちょっとここで使ってみなよ!」


「そうなのか...!でも俺魔法使った事ないんだけど!どうやって使うんだ?」


「簡単さ!固有魔法を発動すると念じながらギルドカードに載っている呪文を唱えるだけさね!」


そんなに簡単なのか...えーと俺の呪文はエレクトリックか...パレードみたいだな...


「よし!固有魔法!エレクトリック!」


頼む発動してくれ!固有魔法!俺は目を瞑る。


目を開くと目の前には白い煙が立ち上っていた。数秒して煙が霧散する。そこにあったものは...


「電子レンジだ...」

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