第2話

「人の心を記録しなさい」


「人の心を記憶しなさい」


「人の心を保管しなさい」


ドアに触れた時に聞こえた声が頭の中で反響する。


「記憶?記録?意味がわからない...人の心を記録って...?」


「人の心を記録しなさい」


「人の心を記憶しなさい」


「人の心を保管しなさい」


「やめろ!俺の頭から出て行け!」


目の前が真っ暗になる。どうやら眠ってしまっていたようだ。酷く汗をかいているらしく気持ち悪い。そこで、やっと俺は冷静に周りを見ることができた。


「ここは...どこだ?」


俺はベッドに寝ていた。ここは住宅街で見かけたドアの前ではないらしい。


「いっ!」


起き上がろうとすると首筋に鋭い痛みを感じた。


指でさすってみると、少し膨らんでいるようだ。


「これは...あざ?」


気にはなったが、今はとりあえず自分がどこにいるのか、あれからどれくらい経ったのかを知ることが重要だ。


「誰か!誰かいないのかー!」


周りは真っ暗で何も見えないのでとりあえず助けを呼んでみることにした。


すると、真っ暗だった部屋が青白い炎が入ったフラスコや黄緑色に発光している液体によってほんのりと明るくなる。


「なんだ...これ」


一番近くにあった青白い炎が入ったフラスコに手を伸ばしてみる。


「あなた、せっかく私が助けてあげたのにもう死ぬ気なの?」


手がフラスコに触れるギリギリで頭上から女の声が聞こえた。


上を見上げると、本棚でできた階段を紫と茶色のワンピースとローブをくっつけたような服を着た、今まで見たことのないような美人が降りてきた。


「ここは...どこなんだ?あんたは誰なんだ?」


人に出会えた事と出会った相手が美人だったこともあり、食い気味に質問してしまう。


「その前に、あなたが答えるのが先じゃないかしら、いきなり私の店に入ってきてぶっ倒れたのはあなたの方なのよ?」


いかにも心外だという顔をして女が答える。


「俺が、自分で店に入ってぶっ倒れた⁇」


思っていた答えと全然違う。まぁ、別に何も予想できてはいなかったけど...


「そうよ?あなた、いきなり店のドアを開けて入ってきて死にそうな顔してたんだから」


「店に入ってきた?俺はただ住宅街にあったドアを触っただけなんだけど。」


「あぁ、なるほど、たまにいるらしいのよね」


女は突然興味を失ったように机に置いていた小瓶をいじりだした。


「たまにいるって何が?」


「私はね、半年に一回、別の世界に行って店の道具や材料なんかを調達しに行くのよ。材料を探しに行っている時は転移のドアには結界を張っているのだけど、たまに偶然その結界を破ってドアに入っちゃう人間がいるらしいのよね。」


女は遂に本を読みながら答える。


「え、じゃあ今俺がいるここは異世界...?」


「そういうことになるわね」


「今までに俺以外に来たことのある人間は...?」


「記録にはあるけど、実際に私が経験したのはこれが初めてね」


俺はずっとおとぎ話だと思っていた異世界というものにきてしまったらしい。

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