記憶屋ランタンへようこそ!

@kohare3961

第1話

それは、ただの偶然だった。


  その日、勤めている家電製品店で後輩がたまたまミスをした。


たまたまその後輩の教育係だった俺が責任を取らなければならなくなった。


酒を飲み、家路につく途中。曲がり角を覗くと道の奥に不思議な、それでいて何故かとても安心する、優しい黄色い光を放つ、住宅街の中にあるにはとてもじゃないがあっているとは言えない不思議なドアが立っていた。


比喩表現ではない。本当に、奥には何もなく、かの有名なひみつ道具のような風貌で、優しい黄色い光を放つ小窓の付いた茶色のドアがあったのだ。


「なんだ...これ...」


 俺は自分の好奇心を抑えることができず、ドアに触れてしまった。


  ただ、この時点で俺が確信できていたことは、(このドアは悪いものではない)という事と、(このドアはこの世のものではない)という事だった。


  ドアに触れた瞬間頭に、言葉が、声が、心が、流れ込んできた。何か懐かしくて優しい。おとぎ話を効かせるような声音で。


「人の心を記録しなさい」


 その一言だった。


「まってくれ!どういう事だ!人の心ってなんだ!」


 俺の叫びに返事はなく。虹色の絵の具を出したパレットをひっくり返したような美しく、そして少し暗い穴の中を俺の意識はゆっくりと落ちていった。

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