第5話第二部1


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 無政府主義者。

 そういう考え方を持つ人々がいることを、携帯端末が調べ上げる。いわゆる、極左と呼ばれる人たちで、大昔にも同じ考え方を持った人、団体はいたらしいけど、それは少数意見であり、国の歴史上に無政府という考えが適用された事はない。

 それもその筈、国は政府があるからこそ規則(ルール)や金融関係を決めて成り立っている訳で、政府がない国は無法地帯(ラウレスエリア)だ。

 それはアフリカや南米にいまだ存在するといわれている部族や、はたまたイタリアや日本にいるとされている秘密の組織みたいなものだと思った。ジャングルに潜むアマゾネス。街の縄張りを決めて商売をするギャング。

 しかし、はたしてシンはそんな世界に変えたいのかとも考える。

 人類は機械や知識などの便利な物を捨てて、原始の時代に戻って狩りをしながら生き残っていく野生の世界。自分たちの街や誇りの為に敵も味方も銃を持って、血統や種を大切にして他者とは分かり合おうとしない孤独な世界。

 そのどれもがなんだか違う気がした。

 それではシンの言う無政府とはなんなのか。

 その答えをこの時のわたしはまだ知らない。


 わたしは当初、シンを含め銃規制団体と名を連ねる様々な反対組織がいることをネット上で知り、様々な彼らとコンタクトを取っていた。その怪しい理想と勧誘文に疑問を沸かせ、どうしてこんなに積極的なのだろうと関心を抱いていた。

 わたしは、ひょっとして彼らこそがテロリストの一端なのではないかと考え始めた。その推理は今でこそいまだ調査中だが、シンの言動を聞く限り、悪い組織とは思えなかった。なにせ、シンのような子供さえ世界の仕組みのことを精緻によく理解しているのだから。年上のはずであるわたしよりもずっと。

 わたしや戦争に興味のある人たちは、戦争のためだけに使われていく子供たちの存在を少なからず知っている。麻薬とか家族のために戦争を義務付けられた子供は死を恐れずに突撃銃を撃ってくる。みんながみんな辛いんだから、と葉っぱを噛んで体を騙し騙しにこき使い、汚いお金を稼ぐために必死な子供たち。

 それが紛争地帯のジャーナリストが撮る写真にはいっぱい映っていたし、とても可哀そうだった。

 だから子供たちは気づいたのかもしれない。自分たちが大人の為に利用されないために、自分たちが大人たちよりも賢人として、常識人として在るべきと。

 それがシンなのかもしれない。

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