第1話

「――解放せよ!」


 詠唱を唱え終わった瞬間、大量の"漆黒"が放出され辺り一面を覆う。


「ゲホッゲホッ。なんだこりゃ!」


 確かに"漆黒"は解放されたが、こうじゃない。なんと言うかオーラみたいに纏って欲しかった......

 少しして闇霧やみきりが晴れると一面黒くなっていた。木も草も......ユキも.......なんか殺気を感じる。


「......」


 無言で魔法を唱えようしてきた。


「ご、ごめんよー!」


 この後、平謝りした後なんとか許してもらった――




「身体が動かないよ~ユキぃおんぶして~」


「出来るわけないでしょ。引こずって行くよ。うっ、重い」


 夕方まで、モンスターと闘っていたお兄ちゃんを引きずりならがキャンプ地に戻る。そこで重大な事に私は気づいた。


「......晩ご飯ない」


 因みに、昼間のグラズイエの肉はお兄ちゃんの魔法で真っ黒になって、食べれなくなった。今すぐ何か狩らないと!


「お兄ちゃん!晩ご飯ないから、今すぐ狩りに行くよ!......て、寝てる!?」


 疲労が溜まっていたのだろう。お兄ちゃんはぐっすり寝入ってしまっていた。もしかして、引きずられながら寝てた!?まぁ、今起こしても動けないだろうから、仕方ない私一人で行こう――


 ......見つからない


 ある程度探したが、なかなかモンスターが見つからず仕方なく魚を釣る事にした。が、


......釣れない


 途方に暮れていた。そして、あれこれ考えた結果、魔法を使うことにした。


「"川の中で生ける魚達よ 10匹その生命 私に下さい"」


 すると、川は急に波打ち中から10匹の魚が飛び出し、陸に打ち上げられた。


「やった!これで食べられる!」


 満足気な顔で、魚を持ってキャンプ地に戻ろうとするが、もうすっかり夜になってしまい先が10m程しか見えない。私の、魔法による灯り以外の灯りはなく、ただ静かだった。


「んー......こっちであってるのかな?」


 おそらくこっちから来たであろう方向に向かって歩く。

 あぁ、最初から魔法で捕まえとけばこんな夜までかかる事なかったのに――


「――ぃ。―キぃ。ユキー」


 徘徊しているとお兄ちゃんの声が聞こえてきた。心配して、探しに来てくれたのかな?助かった。


「お兄ちゃーん!ここだよー!」


「あーいたいた。やっと見つけ――ユキ!後ろだ!」


「えっ?」


 お兄ちゃんの咄嗟の注意に後ろを向く。そこには、四足歩行の獣が居た。よく見ると、お腹を空かせたグラズエルだった。それも昼間のよりもデカい!

 すぐさまグラズエルは突進をしてきた。


「うっ!」


「ユキッ!」


 掠れたけど何とか回避した。うぅ、右手に力が入らない。


「ユキ下がってろ!」


「でも今、動けないんじゃないの......?」


「まぁ任しとけって」


 私はお兄ちゃんのうしろに隠れた。まだ疲労が、取れてないはずなのに大丈夫なのかな?それに、魔法は全然使えないのに。


「"黒竜の鱗よ我をまとえ"――ん?」


 鱗は手の甲にしか現れなかった。私は察した。

 ――終わった


「嘘だろ!?昔は全身纏えたはずだ!?」


 駄目だ、このお兄ちゃん......昔みたいに使えない事を忘れてる。仕方ない、少し強化してあげよう。


「"速足はやあし" "怪力"」


「おぉ、力が出てくる!足も軽い!」


「私に出来るのはこのくらい」


「ありがと、助かる!」


 ――さぁて、討伐とするか!


 ......とは思ったものの俺、どうやって戦えばいいんだ?魔法はほぼ使えないし。


 ......直接殴る?


「ぅおおお!」


 ペチン


 全く効いてない効果音が出る。グラズエルは、キョトンとした顔でカウンターに前足を振りかぶる。


「がはっ!」


普通に喰らった。


「......もぅ、無理なんですけど」


「ちょっと諦め早い!」


「こうなったら......」


俺はユキの方に向かって走る。


「えっ?ちょっ!なに!?」


「逃げるぞー!」


ユキを抱えて思いっきし逃げた。


「えー!?」


逃げるが勝ちと言うやつだ。グラズエルも勿論追いかけてきたが、何とか振り切ってキャンプ地に戻ってきた。


「もう!無茶苦茶しすぎ!」

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黒と白の魔術師の半永久人生 天津風 あまつ @AmaT4u

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