黒と白の魔術師の半永久人生

天津風 あまつ

第0話 プロローグ

 人類はし繁栄していた。


「お〜い、ユキにターゲット向かせるぞぉ〜」


「ちょっ!まだ、魔法陣出来てないよ!キャァ!」


 ――魔法時代

 それは、まだ恐竜が絶滅する前の世界。いや恐竜が生まれるもっと前の世界。ドラゴンが存在し、空を灼き地を崩す。人々は"魔法"を編み出し狩猟を行っていた。

 そんな果てしなく過去の時代。


「あはは。悪いなユキ」


「もう!どうなる事かと思ったわよ!フンっ!」


「まぁまぁ、ほれ水」


 結局、魔法陣で倒す計画は失敗してうろ覚え魔法でごり押しして倒した。今日の昼ごはんは、今倒した"グラズイエ"の腕の丸焼きだ。さっそく火をおこす。が...


「.......あれ?火の詠唱てなんて言うんだっけ?」


「"火よ燃えろ"よ」


「"黒竜より放たれし煉獄の炎よ 今こそ我の声を聞きこの枝を燃やせ"」


「.......」


 なにか言いたそうに、ユキが睨んでいるがまあいいか。枝に火がつき、じゅわじゅわと肉が焼ける。


「「いただきます」」


 んーうまい!ただでさえ、うまいのに外で草の生い茂った所で食べると余計にうまい。俺は貪りついたが、ユキはまだ視線を外さない。


「ん、どうした?まだ怒っているのか?」


「いや。お兄ちゃんの"無駄"の厨二病は何年経っても変わらないのね」


「無駄って言うな。けど確かに、なんでだ?」


「知らないわよ」


 ――魔法は術者の"思い"そのもの。自身の思いで進化する。


「それで、魔法の感覚戻ってきた?」


「少し」


 俺独特の詠唱は覚えているものの、魔法は思い通りに操れない。きっと"思い"が弱いからだと思うがどうも上手くいかない。仕方ない、別の方法を試してみるか。


「ユキ、ちょっと離れてて」


 離れたのを確認すると、俺は詠唱を始めた。


 ――光を求めれば魔法は光を与える


「"我の中に眠っている漆黒の力よ 今こそ我の呼びかけに応えその力を開放せよ ――"」


 ――闇を求めれば魔法は闇を与える



 ―――――――――――――――――――



「――ゃん!――いちゃん!起きて!お兄ちゃん!」


「――ぅん〜もう少し〜」


「ダメッ!もう行く時間だよ!」


「しょうがないなぁ.......ふぁ~ぁ」


 まだ眠たいが布団を取り上げられたらしかたない。我が妹の愛らしい声に起こされ身支度を済ます。今日はこれから王都に行く予定だ。


「馬車来てるよ早く!」


「はいはい」


 服の袖を引っ張られながら馬車に乗せられた。あぁ馬車なんて懐かしい。ここ何年も乗ってないな。あまりの久々の窓から見える街の風景に浸っていた時、肩をトントンとユキがつついてきた。


「ん、どうした?」


「えーとね、今回王様に呼ばれた理由が聞きたくて。それで何やらかしたの?」


「なんか俺が問題児みたいな発言やめくれよ。実は俺も知らないんだ。特にやらかした事も記憶にないし。全く、こんな"老いぼれ"になんの用だろ」


 王都に着くとやたら警備兵が巡回している。何かあったのか?馬車は王宮へ続く坂の前で止まり、ここからは足で王宮に向かう。


「...お兄ちゃん...なんか変じゃない?」


「あぁ、どこもかしこも警備だらけだ.......それにしても、この坂の長さは"何百年"経っても相変わらず長いなぁ。どうにかならんのかね」


「文句言わないの」


 なんやかんやで王宮にたどり着き、門の前の警備兵に王からの手紙を見せるとすんなり通してくれた。が、王宮の中に入るとピリピリとした空気が漂っていた。こう怯えているというか、焦っているというか。


「...ぅ~ん」


 不思議に思いながら王の部屋へと向かった。


「お連れしました。"黒の魔術師"様と"白の魔術師"様にてございます。私はこれで失礼します。」


「(よく噛まずに言えたなぁ)」


「あぁご苦労」


 兵士が部屋を出たのを確認すると、王は溜め息をついてから懐かしそうに話かけてきた。


「何十年ぶりかのぉ二人とも、元気じゃったか?」


「あぁ、このとおり」


「私も、このとおり」


 俺達は元気の印にお互いの魔法をだした。王は顔をほころばせた。王とは王が16歳の時からの付き合いだ。


「何年経っても変わらぬな黒と白は。お主達の"不老不死"が羨ましい」


「不死ではないけどな」


 そう、俺達は不老不死。とはちょっと違う、確かに不老ではあるが怪我をすると痛いし、心臓をやられると普通に死ぬっぽい。それに寿命もあるらしい。


 ただそれが、気の遠くなるような長さなだけ。なぜこのような力を持っているのかはまた"今度"話そう。


「では、早速本題に移ろうか。今、この国は怯えている。この頃、モンスター達が凶暴化して暴れているのじゃ」


「...で、俺たちにその『凶暴化したモンスターを倒せ』と?」


「いや、その先じゃ。凶暴化の根源を叩いてほしい。そして、実はその凶暴化の根源は、お主のその横腹の傷をつけた奴だという情報じゃ」


 横腹の傷と聞こえた瞬間、誰だかすぐに分かった。この傷をつけたのは他の誰でもない。


 その名は――魔道王ゼロ


「『ゼロが生きている』とでも言いたいのか?」


「確実ではない。じゃが、可能性は十分にありえる。」


「俺はもうすっかり過去の英雄だ。もう一度戦うとなるともう勝てないぞ。ここ数百年、ロクに魔法を使っていない、さっきの挨拶程度しかできない。それに奴が、どんなに強いか先祖代々から教えてもらっているはずだよな?」


「可能性の話じゃ。じゃが、根源がゼロならばお主ならもう一度強くなって必ず、倒してくれる!どうか、頼む!」


 何を根拠に言っているのか分からないが、王も国民の不安を取り除こうと必死なのだろう。立場を捨てるような土下座までして頼んできた。それに可能性の話だろ?だけど、俺一人では決めれないからユキの方を見て、『どうする?』のアイコンタクトを送った。


「いいんじゃない?引き受けてみれば?もしもでしょ?」


 以外に即答だった。


「おい。少しは考えろよ」


「いいじゃん、どうせまた強くなるでしょ?」


「お前まで何を根拠に...」


「私の自慢のお兄ちゃんだから!」


「ッ~~!!」


 えへへへ『"自慢"のお兄ちゃん』だって!これはもう受けるしかないな!


「.......分かったよ。その仕事、引き受けた」


「おぉ!引き受けてくれるのか!?ありがとう!本当にありがとう!」


 王は嬉しさのあまり、泣きながら抱きついてきた。その抱きつきは、王の緊迫した心が緩和されていくようにも感じた。



 ――帰りの馬車の中


 ユキは、話が終わった後の買い物で、疲れたみたいで膝の上で寝てしまっている。俺はユキの白髪をそっと撫でた。実をいうとこの子は義妹。昔、ゼロとの死闘以降にある出来事で出会ってそれから一緒にいる。

 そして、この子が俺が生きる唯一の理由だ。


「もしも、この子の身になにかあったら(ボソッ)」


「――ん。お兄ちゃん?」


「あ、悪い。起こしたか?」


「んーんぅ」


「もうちょっと寝ててもいいんだぞ?」


「んーんぅ。もう覚めた」


「そ、そうか」


 王都から離れた自宅に着くと、早速旅の準備を進める。


 ガラララララッ

「ありゃぁ!?あの道具どこいったぁぁ!?」


「お兄ちゃん、あれどこぉ?」



 ――翌朝


 徹夜で用意した物資を持って、まだ早朝で静まり返った王都を出ようとする。門に足をついた時、背後から老人の声がした。


「必ず生きて帰れよ」


「.......なんだ、王か。わざわざ見送りに来てくれたのか?」


「伝説の魔術師の旅立ちじゃ、ワシには見送る義務がある」


「そうか、ありがとな。じゃぁな...」


「いってきます」


 短い会話を交わし、俺達は門を出る。何百年ぶりに見る外の世界だ。心なしかワクワクしている自分がいる。


「さぁ、行こうか」


「うん」


 こうして、俺達の長い旅が始まった。

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