第28話 形勢逆転
股間を押さえて蹲るヤドゥンの姿に。
『待たせたな! 息子たちが来やがったぜ!』
『娘たちも来たわ! やっちまいナァァァァァァ!』
イチローとマドモアゼルがほぼ同時に叫んだわ。
いやああああ!
天井から大量の蜘蛛が下りてきて、ヤドゥンに集まりだした。
それに加えて、靄のような蚊の大群が現れてヤドゥンに向かう。
「うわああああああああああああ!!」
その先はホラー映画よ。
うう、観てるこっちが卒倒しそう。
蒼白になってなりゆきを見守る私に、棚の向こう側からスーゴちゃんとアルバトロスがかけてきた。
「ミラルディ殿!」
「大丈夫じゃかあ!?」
スーゴちゃんとアルバトロスはすぐに私のもとへ来たものの、獣の手足では私のベルトを外せるわけもなく周りでウロウロした。
「ヨシュア様、早く!」
スーゴちゃんが言い終わるよりも先に。
背の高いジャージ姿の男の子が整理棚の後ろから駆けてきて。
私の両手を捉えたベルトを外しにかかった。
やっと両手が自由になった私は床に座ったまま。
自分の身体を抱きしめた。
まだ、震えていたわ。
「……お嬢」
ためらいがちにヨシュアが声をかけたけど、私はなんだか顔があげられなかった。
すごく怖かったから、ヨシュアに抱きつきたいような気持ちと。
あんな場面をヨシュアに見られた羞恥心と。
ヨシュアも男だから、あんなことがあった今、近づきたくない気持ちっていうのかしら。
いろんな気持ちがごっちゃになって、私は混乱していた。
「ミラルディしゃん」
くーん、とそんな私をアルバトロスが覗き込む。
私はアルバトロスの首にしがみついた。
「怖かったわ……」
アルバトロスがペロペロと私の頬を舐めてくれる。
その湿った温かさと毛並みの温かさに。私は少しずつ心が落ち着くのを感じた。
「お嬢。もう、大丈夫だよ」
ヨシュアも気を遣ってるのが分かった。
ヨシュアは私の前に膝をついて、床に座って。
アルバトロスの首に回してる私の手に、上から触れてそっと置いた。
「大丈夫だから」
ひやりと冷たい乾いたヨシュアの手。
私はヨシュアの顔を見れなかったけど。
もう片方の手でヨシュアの手を探って握った。
「怖かったわ」
「うん……大丈夫だから」
ヨシュアが私の手を強く握り返す。
私は安堵のあまり泣きそうになった。
「もう……怖く……ないから」
ぶっ。
……ダメ、脳裏にアンドレ様がチラついちゃった。
ヨシュアの言葉に。
不覚にも私の頭にベルばらのアンドレ様が浮かんで、私は思わず吹いた。
「あははははははははは……!」
だめ、こんなときなのに。
いえ、こんなときだからこそ? かしら。
ツボに入っちゃったわ。
いきなりケラケラ笑い出した私を見て、ヨシュアはあっけにとられたみたい。
ああ、ごめんなさい。アンドレ様。
だって、面白かったんだもの。
涙目になりながら、私はそんなヨシュアから手を離し微笑み返した。ヨシュアがほ、としたような顔をする。
私はアルバトロスからも離れ、ため息をついて声を出した。
「追いかけてくれたのね。ありがとう」
「いや、それがさ。本当は警察か何かに頼った方が良いと思ったんだけど」
ヨシュアが言いにくそうに語り出したのは、私が予想もし得ない真実だった。
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