第12話 器の行方

「その後、マスカダイン各地に散らばっております我が子たちを使って問い合わせたところ、他の神殿でも同様のことが起こっていたそうで。私としては、後者のセンが怪しいのではないかと思っておりますがね」


はあ? 同じことが起こっていた、ですって?

スーゴちゃんの答えに私はあきれた。

何してんのよ! 四つもある他の地域の神殿でも、人形が盗まれちゃってたの?

各地の眷属たちったら、平和ボケしてんじゃないのかしら?


「冬じゃったけえ、フラサオさんとことシャンケルさんとこと、イオヴェズさんとこも眷属はみんな冬眠中だったじゃねえ。おいらはチム=レサ様のお側にずっとおったんじゃけえのう。でも、スーゴ大先生の息子さんに聞かれるまで、全然、入れ替わったことに気がつかんかったじゃ」


あはは、と笑うアルバトロス。

もう、アルバトロスのおバカ!


「一大事じゃけえ、スーゴ大先生のもとへ我らは馳せ参じたんじゃ」

「我ら?」

「今はここにおらんけどねえ、オイラたち以外の眷属もロウレンティアに来とるけえ」

「我らと交代で器の行方を追っておるのです」


各地の眷属たちがこの近くにいるのね。


「残念ながら、わが眷属たちは神霊様のお声を聞くことは出来ますが、そこまで絆は深くないのです。我ら子孫を総動員して探し回るのが精一杯。昔、『ワノトギ』が存在しておりましたときならば、器様の居場所などすぐに知れたでしょうに。ワノトギは神霊様の欠片を持ち、神霊様の子供同様ですからな。やはり、ワノトギは何かのために居てもらったほうがよろしいですな。ヨシュア様が試練を受けてワノトギになっていただければありがたいのですが」

「俺、絶対嫌だね。めんどくさそうだし」


スーゴちゃんの上目遣いと猫なで声にヨシュアは首を振った。


「死霊はめったに現れませぬでしょうし、悪霊退治なんてことになるのはおそらく奇跡的な確率ですぞ。まあ、なにも起こらぬでしょう。そしてヨシュア様。『ワノトギ』になれば寿命が延びるのですぞ。なんと少なくとも五十年は」

「百歳以上まで俺、長生きしたくないよ。介護する人、大変じゃないか」


『試練』を受ければ、ヨシュアが『ワノトギ』、もしかして聖人アルバトロスみたいになる可能性があるかもしれないってことなのね。


「最後の『ワノトギ』の人、長寿でギネスに載ってる人より長生きしたんだろ。いいよ、そこまで俺は生きなくて」

「もう、そんなことよりも! 早く『試練』を受けなきゃいけないんじゃないの? 問題はそこでしょう?」


話がそれてイラっとした私の言葉に、スーゴちゃんとアルバトロスとヨシュアは素直に頷いた。


「器が盗まれた、って警察に言ったらどうなの? テレビのニュースにでも流したらいいんじゃないの? 熱心な信者さんなら一緒に探してくれるわよ、きっと」

「教会の面目丸つぶれでありますのでな。できるだけ内密に解決したいのです」

「はあ? 何を言ってるのよ」


怒った私に、なんとヨシュアが首を振った。


「実は……教会から口止め料、もらっちゃったんだ」


なにそれ。


「いくら、もらったのよ」

「……」


ヨシュアは答えない。

大金なのかしら。

もう、なにやってんのよ!


「あと、お嬢の身内にミゲロさん、ていう人がいるだろ。あの人のこと、考えたら気の毒でさ」

「ミゲロおじさま?」


ロウレンティア教会のエライさんになった、ギョヒョンおばさまのご主人様よ。


「あの人、最近、出世して役についたのに。事件が起こったのは着任する前だった、てのに。これがばれたら辞めなきゃいけなくなるらしいからさ。自分には全然責任がないのに」

「ミゲロおじさまの前任者は?」

「もうボケてたじいちゃんだったからさ。病院に入ってる。あ、ポリアンナ嬢のおじいちゃんなんだって」


それは気の毒ね。ミゲロおじさん。

先ほど、ギョヒョンおばさまが話の中でミゲロおじさんの後頭部に円形ハゲを見つけた、て嘆いていらっしゃったけど。このことがあって、ストレスを受けてるのかしら。


「このことを知っておりますのは。ミラルディ様の他には、ミゲロ殿、ヨシュア様、各神殿の眷属だけであります。どうか、内密に」


スーゴちゃんが丁寧に頭を下げた。

もうっ。


「死霊に憑かれたのを放っておいたら、いつか死んじゃうんでしょ? いつまでもつとか、あるの?」

「それが個人差があるようで。ヨシュア様を見る限り、まだ余裕があるように見受けられますが。死霊憑きなんて私は見たことがありませぬのでな。私もよくわかりませぬ」

「ミミズ腫れは痛いけどまだ我慢できるんだよ。眠いのだけが我慢できなくてさ。最近眠くて眠くて」


あくびをして涙目でヨシュアは答えた。

なにをそんな他人事みたいに、のんきなのよ。

おかしいんじゃないの? 自分の命がかかってるのよ。


「どうして死霊なんかに憑かれちゃったのよ? ぼやぼやしてるからじゃないの?」 

「ぼやぼやなんかしてないし。俺にだってわかんないよ。運が悪かっただけだと思う」

「死霊に憑かれるのはほとんど運であります」

「一体、どこで憑かれたのよ」

「それはわかってるんだ。たぶん、死霊の正体も」


ヨシュアの言葉に私は目を見開いた。


「え?……」

「憑かれたのは、三か月前。お葬式に行けなかった代わりに、クラスのみんなから出したお金で買った花を俺がお墓に届けにいったとき。ぞくっとしたからそのときだと思う」


それって。


「死霊の正体は、ユミュール先生の奥さん、だと思う」





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