第一章 運命 〈第三部〉

しばらく進むと綾沙が突然立ち止まった。

「あれ、見て!」指さす方向に他の2人も視線をやる。

前方から一体の、なにやらとても大きい何かが来るのが分かった。


「あれが今回の神アポスの使者みたいですね。」花楓は敵と距離をとるようにして少し後方に下がる。

こちらから確認できることは、空中浮遊をしていること。それと、蒸気が上がっており、まるで熱石に水をかけた時のようだ。


「ほっしー、綾沙、聞いてください。多分今回の使者は火の使者のようです。近距離攻撃の時は気を付けて攻撃してください!」

「ラジャー!」「了解!」2人から返答が戻ってくる。


「それでは、初の実戦。絶対に神テトラをこの土地を守りましょう!」


花楓はそう言うと、あいさつ代わりにまずは鋭い矢の一撃をかます。

相手にヒットしたもののダメージにはどうやらなっていないようだ。


「よーし、絶対、倒してやるからな!」

綾沙は敵との距離を一気に詰める。


「これでもくらえぇぇ!!」


両手に持っている短剣で、敵の腹部あたりを十字に切り裂く。


「やったか…?」


かなりの手ごたえはあった…。

だがしかし、ほんの少し傷がついた程度だった。


逆に今度は向こうの攻撃が襲う。

着地時にバランスを崩した綾沙。その一瞬のところを火炎玉で狙われた。


「うわぁぁぁー」


勢いよく後ろに吹っ飛ぶ。


「きーさぁぁーーん!」慌てて、フォーローに行く由菜。

しかし、さらにそこも狙われてしまう…。


(こちらに、気をこちらに向けねば…)と花楓。

「百華止水(ひゃっかしすい)!」五輪の花びらの真ん中から放たれるこの一撃は花楓が持つ技の中でもかなりの上級技だ。


弾丸のような速度で、矢は敵めがけて飛んでゆく。


火炎玉を放った後の反動なのか、動こうとせずに、そのまま攻撃を受ける。


鋭い爆破圧音が鳴り響き、爆風が吹いた。


今まで、与えた攻撃の中でも最も威力の強い技。当然、一番ダメージだって入っているはずだ…。


にもかかわらず、与えられたのは数か所の傷と一時的な麻痺だけだった。


しかし、今の彼女には十分だった。


「ほっしー、綾沙、今のうちに一旦下がって、体制を立て直しましょう!」

その合図を聞くと、2人は一度後退した。幸い、走れるようなので大事には至ってないようだ。

2人がある程度後退したのを確認すると、自身も後を追うようにして一度退いた。


敵は麻痺状態であり、尚且つかなり距離がある。すぐに攻撃されることはなさそうだ。


3人が合流するとすぐに、フォーメーションの話し合いを始める。


「さすがだよね。世界に存在する武器が効かないわけだ。あんなに硬いんじゃ納得しちゃうよね。」

「納得しちゃダメだよ~。」

戦いの最中っていうのに、まるで危機感を感じない会話だ。


それを小耳にはさみながら、花楓は1人で次の作戦を考えていた。


「一発の攻撃は強いが、スピードはあまり無く、攻撃は比較的しやすい。

けれども、防御がとても固く、私たちの攻撃ではダメージを与えることすらままならない…。一体どうすれば…」なかなか名案は思い浮かばない。


その時、思い悩んでいる花楓の背後に怪しい影が忍び寄る。


「そろ~り、そろ~り」足音を立てないように慎重に歩く。


背後に回ると、花楓のほっぺたを軽くつまんだ。


当然、作戦を考えることに夢中な花楓は、そんなことには気づいておらず、やられた瞬間「ひゃっあ!」とかわいらしい声を上げる。


「い、いきなりなんですか!?」驚きと照れた表情で後方を振り返る。


「いい作戦思いついたんだ~」由菜は嬉しそうに言う。

「本当ですか!?」花楓は飛びつくように反応する。

綾沙も「お、まじか!?」と言いながら、近くに寄ってきた。


「それで、作戦はね……OKかなぁ~?」

「うん。いいと思うよ!」

「結構一か八かですね…。まぁーそれ以外作戦もないですもんね。それでやりましょう!」


3人の作戦会議は終わった。


会議の間にも、敵は進行しており、先程かなりとっていた距離も、もう少しというところまで詰まってきていた。


3人は先程決めた持ち場に就く。


「2人ともいいですかー?」花楓が後ろから2人に声をかける。

花楓が今いる場所は、小高い丘のようなところ。敵の目線と同じ高さのところである絶好の場所。

対照的に、2人は敵に突っ込めるように、見晴らしの良い直線状のところに場所を構える。


「いいよー!」綾沙は大きな声で花楓にレスポンスをする。


「おそらく、敵との距離は800m程です。進行スピード的に、あと100秒程で私の射程圏内に入ります。私が弓を射ったのと同時に作戦開始です。2人は先程の作戦通りに突っ込んで行ってください!私は後方からバックアップをします!」


「了解!!」「ここで絶対に倒すよー!」3人の士気が高まる。


今の彼女らは、まるで闇の中にキラキラと輝く星のようだ。


「それではカウント60からいきます。60…59…58…」花楓は一度深く深呼吸をし、それからゆっくりと弓を構え始める。


(敵とはほぼ同じ目線。絶対に外さない!)


精神を集中し、一点の的だけを狙う。


「30…29…28…」


徐々に敵の音が聞こえ始める。


「20…19…18…」


矢を射る最終段階に入る。


「10…9…8…」


最大限の力で弓を引く。


「7…6…5…」


2人も今にも突っ込んで行きそうな感じだ。


「4…3…2…」


全ての力を込めて、今、弓が射られる…


「…1…」




「裂罅風水陣!!!!」

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