第一章 運命 〈第二部〉

 日直が号令をかけ、挨拶をする。


「起立…気をつけ…礼…おはようございます」

「はい、おはよう。それでは、出席をとります。」

「1番 相沢君 、2番 飯田君 … 20番 高築さ…」


先生がその名前を呼ぼうとした刹那、扉が勢いよく開いた。


「はぁー。はぁー。 セーフですよね?」

一人の少女が息を切らし、汗だくになりながら入ってきた。

その少女が発した第一声は遅刻か否かの言葉だった。

「当然、アウトです。と言いたいところですが、まだ名前を呼んでいないので、今回は見逃してあげます。ただし、今度同じことがあったら次は遅行ですよ!わかりましたか?」

「はい!わかりました。」

遅刻ギリギリに着た少女は、先生に何か言われたようだが、遅刻にはならなかったみたいだ。

少女は、自分の席へ向かう際に、胸の前でこぶしを握って軽く喜んでいた。


その少女こそ、私が絶対に話しかけに行かない中の一人、高築綾沙(たかつきあやさ)だ。

彼女は毎朝、時間ぎりぎりに着たり、授業中に居眠りをしていたりする。 

しかしながら、コミュニケーション能力がとても高く、クラスのいろいろな人とよく喋ったり、高い身体能力を生かして男子に交じってスポーツをしていたりする。

いわば、クラスの人気者だ。


そんな彼女が入ってきたおかげで、中断していたホームルームが無事に再開された。

出席確認、伝達事項など一通り終えると、最後にこれも習慣である神テトラへの祈りの儀式を行う。

神テトラと3人の英雄を祈り奉げるためのもので、この儀式では古典的な日本風の礼拝のやり方ではなく、西洋風な礼拝のやり方となる。内容を少し要約するとこんな感じだ。

「神テトラと3人の英雄よ。私はそなた達がお守りになられた、この場所で、この露命を達成が為に生かされております。」

花楓はこの時間中にいつも心で思う。(神アポスがいつ何時襲ってくるかはわからない。そしてその時に選ばれる救世主≪教会などではメシアと呼称されている≫は誰か?というのは蓋を開けてみなければわからない。  

その為、日ごろから神テトラへの祈りと、体育の時間などに行われる実技訓練を疎かにしてはならないと…。)


そんなこんなで神テトラへの祈りも終わり、朝のホームルームは終わるはずだった…。


号令をかけられ頭を下げる花楓。その後、頭を上げると前の生徒はまだ下げたままだ。「間違えた!」と思い、慌てて再度頭を下すが、いくら何でも、長すぎる。少し心配になり、恐る恐る周りを見渡してみると、自分と星沢由菜、高築綾沙の3人だけが頭を上げていた。

「ど…どうしちゃったんだ?」少し戸惑った様子で彩紗が言う。

「一体何が起きてるの?」花楓は、自分の思い当たる節を、脳内をフル回転させて考える。

「ま、まさか…」一つの答えを導くと同時に、その答えは3人の目の前に突如として現れた。


まるで、どこか別の世界に繋がっているかのような扉。それが3人の目の前に現れたのだ。

 「うわぁー。本物ってこんなにでかい扉なんだー」綾沙は目を輝かせながら扉を見つめる。

「まさか…私たちが選ばれたなんてね…頑張ろうね、はっすー!」少し緊張しているのか、はたまた選ばれたことに対する喜びなのか。由菜の表情はいつもと変わらないものの、どことなく私が苦手な由菜の雰囲気とは違った。

「えぇ。頑張りましょう…。」


濱清花楓、星沢由菜、高築綾沙の3人は神テトラに選ばれた救世主となった。


「神テトラの為、先人の英雄の為、ここに生きるみんなの為に絶対に神アポスを倒す。」3人の心の中にその気持ちが強く芽生えた。

3人は扉の前に横一列で並ぶ。左腕につけている腕時計のボタンを軽く押し、光が放たれている、開かれた扉の中に入っていくのであった…。


扉の中に入るとそこは不思議な世界だった。

「ここが終焉の地カナーン…。」神妙そうな顔で周りを見渡す3人。

「あれって、もしかして神テトラの祠?」綾沙が指をさす方向に自然と視線を向ける。

「ええ。そうみたいですね。あそこに、もし神アポスが到達したら世界が終わってしまう…。」花楓は少しうつむき加減でつぶやく。

「まぁーそんなことにはならないよ!だってそうするのが僕たちの使命なんだから。」綾沙は前方を向きながら花楓の言葉に反応する。


「ヘイ、ヘ~イ。はっすー!元気に明るく行こうー!」由菜は少し場の空気とは、ずれているが、それでも花楓を元気づける。

「…そうですね。綾沙さん、由菜さんありがとうございます。ですが、由菜さん。私のニックネームのはっすーってもうちょっといいのないんですか?」

「う~ん。…。じゃあ、かっすーは?」

「嫌です。」

「そうか~…。じゃあハエちゃんは?」

「もっと嫌です。」

「そうだな~…。えーと、かえっちは?」

「まぁー、今までの中でなら一番いいので、それでお願いします。」

「了解!よろしくね、かえっち!」

「こちらこそよろしくお願いします。星沢さん、それに高築さん。」

「なんか堅苦しいから、綾沙でいいよ!」

「私もきーさんみたいに、由菜とか、ほっしーとかでいいよ!」

「では改めてよろしくお願いします。綾沙、ほっしー」


 3人がそんなことを話している間にも敵は近づいてきていた。

「敵がすぐそこまで来てますね。どういうフォーメーションで行きますか?」

「パーティー組むのも二回目だし、前回と同じで、きーさんが前衛で、サポートに私、後衛にかえっちでいいんじゃないかな?」

通常なら、フォーメーションなどはすでに決まっているため、話す必要などはないのだが、今回はパーティー組むのも二回目。ましてや、先ほどまで全くといってもいいほど喋ったことがなく、お互いのことを知らない状態で実戦に行くのは、大変危険。そのことを考慮して、フォーメーションを考えていたのだが…。


「よっしゃー!僕の力を思い知れー」そう言いながら、綾沙は敵の方へ全速力で行ってしまった。

「ちょっと待ってください…!まだフォーメーションが決まってませんよ!」

花楓が叫ぶが聞こえていないようだ。

「まったく~…。由菜さ…。ほっしー、綾沙の後を追いかけますよ!」

急いで2人も綾沙の後を追うようにして走っていく…。

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