第3話 へびの皮

 稲刈いねかりが終わった田んぼは、はげ坊主ぼうずで土とわらだけです。あぜ道と土手は持ち主の人が何日か前に草刈くさかりをしたのですっきりとしていました。

 たけちゃんとかっちゃんは上の田んぼのあぜ道から下の田んぼのあぜ道へジャンプしました。

 これでマミから二人のすがたは見えません。

 かっちゃんは安心して言いました。


「どこにあるの?」

「もっと先」


 たけちゃんがかっちゃんの先を歩きました。


「あった、ここや」


 たけちゃんが土手の真ん中をゆび差しました。

 しぶとく植わっている綿毛わたげあたまのタンポポの根元に、汚れた白いビニールのようなものが見えました。

 蛇の抜けがらです。おなかの線がはっきりしています。


「すごい、大きい」


 かっちゃんは興奮こうふんしました。

 まるで太めの長いホースのようです。

 今までで一番大きいかもしれません。


大蛇だいじゃやな」


 たけちゃんが笑いました。

 早速さっそくかっちゃんは蛇のかわを掴みました。

 カサカサと今にもやぶれてしまいそうです。

 ちぎれないようにからまっている草を外して、尻尾しっぽの方からそっとかっちゃんはもち上げました。


「あっ」


 かっちゃんは声をあげました。

 おなかから先のあたまの部分は土手の小さな穴に入ったままです。穴に手をつっ込まなければなりません。


「蛇はもうらんやろ」

「だよね」


 たけちゃんの言葉にかっちゃんもそう思いました。

 蛇の抜けがらはあたまの部分が一番美しいのです。

 そのままのきれいな形で取り出したいとかっちゃんは思い、そろそろと穴に手をつっ込みました。


「にいちゃん!」


 あたまの上からふってきた声に、かっちゃんはびっくりしました。


「マミ!」


 すぐ上のあぜ道をマミがおぼつかない足取りで歩いています。見つかってしまいました。

 こっちにおりてこようとしています。


「あかん、マミちゃん、あぶないで!」


 たけちゃんがそうさけんだ時です。

 まるまると太ったマミは、ころりとその場から土手をころげ落ちました。

 あぶない!

 かっちゃんはマミを受け止めようとしました。しかし、手が穴から抜けませんでした。

 そればかりではありません。反対に手が引っぱられたのです。

 あっ、とさけぶヒマもありませんでした。

 穴はたちまち黒く大きく口をあけ、かっちゃんをのみ込んでしまいました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る