第2話 たけちゃんとパセリじじい

 武道くんの家に行くと、家の前の菜園さいえんで武道くんと武道くんのおじいちゃんが座っていました。まだ武道くんは制服せいふくのままでした。


「かっちゃん、もう来たん? はや」


 武道くん――たけちゃんはかっちゃんを見るとおどろいて言いました。

 たけちゃんは関西かんさいから引っこしてきた子です。


「着がえてくるから、まっててや」


 たけちゃんは家の中に入って行きました。

 おじいちゃんは庭の菜園の野菜についている青虫を取っているところでした。


「今日も遊びに来てくれたんかいのう」


 おじいちゃんがかっちゃんを見て、かかか、と笑いました。おじいちゃんの顔はまっ黒で、生えているヒゲはまっ白でした。


「いいもんあげよ」


 そう言ったおじいちゃんに、またか、とかっちゃんはげんなりしました。


「ほい、口あけえ」


 ふり向いたおじいちゃんの手にはわっていたパセリをちぎったかたまりがありました。そして緑のかたまりをかっちゃんの口もとに近づけました。


「パセリはようさん栄養えいようがあるんやで。身体からだにええんや。毎日食べたらええねん」


 パセリじじい、とかっちゃんはおじいちゃんのことをこっそりと呼んでいました。いつも同じことを言って、かっちゃんにパセリをたべさせるのです。

 よくこんなまずいもの食べられるなあ、とかっちゃんは思いながら、おとなしく口をあけてパセリを食べるふりをしました。

 おじいちゃんが背中を向けた瞬間しゅんかん、かっちゃんはぺっ、とはき出して、落ちた地面に足でパセリをうめました。


「かっちゃん、お待たせ」


 家の中から着がえた、たけちゃんが出てきました。


「じゃあおじいちゃん、遊んでくるわ」


 たけちゃんは言うと、かっちゃんの手をつないで引っぱりました。


「まだあると思うねん。でっかいへびのかわや」

「缶の中に入れようと思って、もう持ってきたんだ 」


 かっちゃんはわきにかかえた黄色い缶をたけちゃんに見せました。


「へびのかわは財布さいふに入れたらええらしいで。金もちになれるんやて。じいちゃんの財布に入っとるで」

「おじいちゃん、お金もちなの?」

「宝くじはいつもうてるけど……っあっ!」


 たけちゃんがかっちゃんの後ろの方向を見て声をあげました。


「マミちゃんちゃうん? あれ」


 かっちゃんがふり向くと、どたどた、とした足どりでピンク色の服を着た小さな女の子がこっちに走ってくるのが見えました。


「こっちに来るな! 帰れ!」


 かっちゃんは叫ぶと、たけちゃんの手を取って走り出しました。


「早く行こう。ついてくる」

「ええの?」


 後ろでぎゃー、とマミが泣くのが聞こえました。

 かっちゃんは振り返らずに走りました。

 マミがついてくると足手まといで、ちっとも面白くありません。

 自分の姿が見えなくなったら勝手かってに家に帰るだろ、とかっちゃんは思いました。

 たけちゃんとかっちゃんは、田んぼの土手に向かって走りました。



 

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