第5話 この選択肢の広さは。

そういえば1時間目もHRだった。

柳ノ木高校に入学してはや3週間。

もう遅刻を3回もしているのは一旦置いておいて、だいぶ学校に慣れてきた。まだ使ったことの無い施設は多いが、校舎案内の電光掲示板を少し頼れば全ての部屋がわかる。

「皆さんが入学して、一ヶ月が過ぎようとしています。そこでこの授業でやって欲しいことが二つ。」

こういうのって大体、片方はだるい。

「一つ目は、アンケートです。左の欄にこのクラスの全員の名前があります。そして右に、1から10までの数字があるので、その人との親密度を5が仲が良くも悪くもないとして、当てはまる数字に丸を付けてください。」

全員と聞いた時は僕を含め、全員引いていたが、数字と聞いて一部の人は落ち着いたようだ。女子には少しきついかもしれないが。

すると、めんどくさがり屋で有名な輝樹テルキが、

「せんせー、これって全員分やんなきゃ駄目すか?」

と問う。そんなのあったりまえだよと突っ込みたくなったが、

「松田くーん、別にってわけじゃないけどね。アンケートをやるっていうことは意図があるってわけで。」

と、秋田先生から予想外の言葉が。必ずじゃない?意図があるのに?訳が分からない。

そんならやんねぇとテルキは机に突っ伏した。するとその様子を見てか、

「やってくれたらちょっと良いことがあるかも?」

と付け足すがもう遅い。高校生はかっこつけたいお年頃なのだ。一度決めたことをすぐ変えるなんてダサいと思ってしまう。

「まあ、書ける人はちゃんと書いてねー。じゃあ次。二つ目は来週の中間テストの後の話なんだけど、テストの点と感想をいまから配る用紙に書いて、全部のテストが返された三日後までに提出して欲しいの。紙は1回しか配らないから無くさないでねー。」

予想外にも、二つ目も余裕そうだ。紙を見てみると、テストの感想欄が無駄に大きい。二行程度のものかと思っていたが、多分、一教科400字のますがある。この高校はこんなにも熱心なのかと疑問を抱きつつ、プリントをファイルにしまうのだった。

プリントには特に文字数制限はなかった。枠が無くなってしまった場合には裏面へと書かれているだけだ。

アンケートといい、自由度が高い。

先生がテルキとの話で説明を忘れているのだと思うが、アンケートには全員分の数字が書いてあるところの下に、「クラスで起こっている出来事をできるだけ鮮明に、詳しく書いて下さい」とある。そこからは数学のテストに付いてくる計算用紙のように、白紙の部分が広がっているだけ。真っ白で出すのが怖かったので、一応いじめに発展しそうな出来事などを思い出せる限り書いた。一度は躊躇したが、「情報の提供元は絶対に公表しない」、「情報はもしもの時のためであって他のことには使わない」と書いてあったので、クラスメイトにできるだけ不利なことにならないようにと注意しながら筆を進めた。

「じゃあ、書き終わった人からここの箱に出して終わりねー。ありがとうございました!」

今日も元気いっぱいな秋田先生の声。

見てる限り分からないけれど、教師としてやっている以上、どのくらい裏があるのだろうか。

そんなに疑うことは無いと思うが、入学してからまだ一度もテストを受けたことのない学校のことなんて到底分かりきっているとは言えない。

朝から少し、頭を捻らされた。

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