1章 別人_3
御簾の向こうに遠ざかる東宮の背中を
「ほぉ……。なんて
「はぁ……。あの方こそ次代を
「あぁ……。あんな
「えぇ? そう……?」
思わず漏れた長姫の呟きに、東宮妃候補三人は非難の目を向けた。
「なんと
「ご自分だけが特別だとお思いにならないことね。東宮さまの公平なお優しさは、私たち
摂津は
「えぇと、同じく呼ばせていただこう……。夏花君、東宮さまのお優しさに甘えるのは、どうかと思う」
言葉少なに、城介も
常識的に考えれば、東宮が若君でないと初対面の三人にはわからない。だからと言って、今日会った人物を東宮と認めるには、不明なことが多すぎた。何より、気持ちがついていかない。
長姫こと夏花は、御簾の向こうに控える侍女からも非難の視線を感じ、居住まいを正す。
思いのまま口を開いた結果が、東宮の評価を高め、
夏花は己の侍女から注がれる不安の視線も感じつつ、この場を収める言い訳を考えた。
「……お優しい東宮さまなら、あの程度の
場を取り
「つまり、あのようなお言葉を
不快そうな藤大納言だが、それ以上の
「まぁ、
言いながら、摂津の目は油断ならないと言わんばかりに細められる。
「え、夏花君は東宮さまと
城介は、藤大納言の発言に耳を疑っていた。
これ以上の言い訳も思い浮かばず、夏花は
どうやら東宮妃候補からしても、東宮の直言の許可は
「何が良くて……」
あんな得体の知れない人物を、東宮と
思わず漏らしそうになった夏花は、寸前で止める。
言ってわかるのは東宮本人だけだ。どうして若君がいないのか。それを問い
「……東宮さまは親交を深めよとの
東宮は別人だけれど、それを知らない東宮妃候補たちに罪はない。三人の
言い出したからにはと口を開こうとした夏花より早く、藤大納言が声を発した。
「摂津の国からいらしたとお聞きしております。京ではあまり聞かないお国。なんぞ
言外に
「
摂津が口にしたのは、己の
どうせ話してもわからないだろうと、摂津は負けずに藤大納言へと言い返した。
「ほほ、候補が四人もいらせられるなど、とんだ
「何を
強気に応じる侍女に
「東宮妃となられるお方は一人だけ。そして今上陛下がお示しになった東宮妃の要件は、前東宮妃さまの生まれ変わりであると証明することだけでしょう」
お家の権力に
「子の日の宴こそ、今上陛下が前東宮妃さまをお探しになる機会と考えるべきではございませんか?
今上が生まれ変わりであると認めれば、四人の内
夏花が侍女同士の
どうやら藤大納言が京貴族らしく、和歌を
どちらがより教養深く
春の花の盛りを天皇家の治世の長さに譬えた藤大納言に、摂津は口を開こうとするが言葉が出ない。
返歌に困った経験は夏花にもある。今ならどう答えるだろう。そんな考えが、思わず口から
「……
重い
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