登録者数:4023 マオちゃんマジ天使
「魔王さん、Twitterですが、そろそろ活用してもよいと思います」
「つまり……自粛期間おしまいなのです?」
「時は満ちた、ということです」
「前から思ってたんですが」
「はい」
「にゃむろP、特撮好きですよねー」
そんなゆるい感じで。
魔王のTwitter活動は、解禁されたのだった。
(といっても、我、あんまりつぶやけることないんですよねー……我、世間知らずですし……友達とかこの世界いないですし……家族、友人、恋人……ボッチ……う、ううう……)
しくしくと涙をこぼす魔王だったが、泣いていても仕方がいないので、諸先輩方のツイートを覗きに行くことにする。
「今日もやってますねぇ……〝自分の動画の一場面をスクショしてラインスタンプみたいに使う遊び〟」
Twitter上では、親分ことキズナ・ムスビと、
▷サンちゃあああああああああ! 世界一可愛いよおおおおおおおおおお!!!
▷(あたし宇宙一だから! てっぺんとる女だから!)とテロップが入った画像
▷(ふぁきゅー?)という、気の抜けた表情の画像
▷(すげー! 口から※※※※を※※※※する美少女だ!)モザイクしかない画像
▷(ゆるしの境地)釈迦入滅のポーズをとるキズナ・ムスビの画像
▷(うわああああああああああああああああああああああああああああ!!)目をバッテンにしてただ絶叫している画像
という、魔王にしてみれば理解を超越した応酬が繰り広げられている。
(え? え? このリプいつまで続いてるの……? なんか、スクロールしてもスクロールしても終わらな……い……っていうか、増えてる!? 参加してるバーチューバー増えてる!?)
気が付くと10人ぐらいのバーチューバーが、同じ枝でリプを投げあっている。
そのほとんどは意味が通じない画像による殴り合いであり、
(なるほど、我はこのリプライによってクソリプという概念を理解しました……)
魔王はまた一つ、無駄な知識を手に入れていた。
「それはそうと、バーチューバーの方々、特に諸先輩方って仲がよろしいですよね。なんというか、すごくフレンドリー」
企業が産み出したバーチューバー。
個人が産み出したバーチューバー。
その垣根は、2019年現在でも残っている。
しかし、魔王が見る限り、本人たちはあまり意識していないように思えた。
(友達……いえ、これが仲間というものでしょうか? 我には手下以外はいませんでしたが……)
ただ、すこしだけ。
その関係性がうらやましと思う、魔王なのだった。
(こちらの世界に来てから、我は変わってしまったような気がします。変われるような気がします)
変わりたいと、魔王は思う。
(諸先輩方に、我もリプを飛ばして──と言うのは、失礼かもしれません! ここは、いいねボタンことファボを片っ端から押していきましょう! もしかしたら、なにか反応があるかもしれません……!)
(ふ、ふふ……我ながら、自分の才能が恐ろしい……!)
にゃむろPが聞いたらため息をつきそうな消極的な外交戦術を取り始めた魔王。
しかし、彼女の立てた見通しが、あまりに甘かったことは、ものの数分で証明された。
(……ん?)
Twitterの通知欄が音を立てる。
リプライ。
(だれからで、しょ、う……!?)
▷おおおおーい! マオちゃんもあたしたちと一緒にあそぼーぜ! うえぇえええええええええええええい!
「こ、この、我以上になにかをキメているとしか思えない言動は……!」
天照日。
確かにそこには、そう表示されていた。
「アババババババババ……」
(し、四天王! 五人そろって四天王の実質ナンバーツー! 天照さんに話しかけられるなんて……! い、いえ、これは、なにか高度な詐欺かもしれません……! 我に壺を売りつけるつもりでは……!)
▷おほー! これが噂のマオちゃん! クロもね、いっぺんお話ししたいなぁって! 今度、ハンマーで殴りに行くね? いいよね? やったぜ!
(!?!?!?!?)
更にもう一名、トップバーチューバーのクロシャチにまで声をかけられる魔王。
完全に思考が停止した彼女に、しかしまるで追い打ちでもかけるように、
▷マオちゃーん! おぼえてるー! わたしはムスビですよー!
キズナ・ムスビまでも参入してきてしまい、この時点で魔王のキャパは崩壊した。
そのあとのことを、魔王はよく覚えていない。
四天王をきっかけにして、一気に送られてくる無数のバーチューバーからのリプ。
それを、とにかく必死に。
とにかく失礼がないように。
出来る限りキャラを保って20名以上に。
彼女はただ、返信し続けたのだった。
結果として、この日バーチューバー真字野マオは、とある称号を獲得することになる。
▷マオちゃんスゴイいい娘! マジ天使! 善良魔王娘ヒロイン、略してマオインエンジェルツヴァイツェンと名乗ることを、キズナ・ムスビの名のもとに許可します!!!!
この発言をきっかけにし、魔王の知名度はうなぎのぼりになっていく。
問題があったとすれば、一つ。
「マオちゃんマジ天使って……! 我は魔王なんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
不本意なニックネームに、魔王は絶叫するしかないのだった。
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