登録者数:4021 掘って磨いてクラフトして

「ハロー、定命の者たちー! 世界で唯一の体当たり系魔王バーチューバー真字野マオとは、もちろん我だよー! あれはなんだ!? 美女だ!? 魔王だ!? やっぱり我だよー! 酔ってないよー!」


 ストロング・コロナゼロを本日も大いにキメて。

 魔王は、再びゲーム実況に挑むことになった。


「我の故郷ニートニアでも資源は大事だったわけですよ、とくに鉱物。そうそう、我はヌードルが大好きで──って、それは好物やないかーい! ……というわけで、今日はニンテンドーラボから発売されている拡張パック。『掘って、磨いて、クラフトして』──通称『ニンクラ』をやっていこうと思います」


 のそのそと画面の外から未開封の『ニンクラ』を取り出す魔王。


「御存じのとおり、ニンテンドーラボシリーズは組み立てなくちゃいけねーのですよ。でー、我、その組み立てに初挑戦してみようっかなぁーって。とりま開封の儀を執り行う! 平伏して、ちょっと平伏してみて、定命の者たち!」


 ノッリノリで箱を開けた魔王は、ダンボールの型紙と、ソフトを取り出す。


「我ぐらいになるとですね、このくらいの工作は秒で! 秒でできちゃうんで。なにせ我、むかし一晩でお城作ったことあるからね、風雲一夜魔王城。世界屈指のダンジョンにしてやったら、勇者かなり困ってたから! あれは我の勝利だったから!」


 武勇伝を語りつつも、てきぱきと手を動かしていくと、特に詰まるところもなく、ツルハシが完成した。もう一つのコントローラーを組み込んだ、スポンジのようなものも出来上がる。

 意外と手先が器用な魔王だった。


「はーい、あとはswitch本体にもパーツを取り付けて……できたんだってばよ! 見て! ねー、見てみて! すごくない? 本当に炭鉱みたいだよ! え? これで起動してツルハシ振ればいいの? めっちゃ楽しそうなんだけど……」


 ワクワクしながらswitchのスイッチを入れる彼女。

 switch特有の起動音の後、往年の冒険映画を思わせるBGMが流れ始めた。

 画面には坑道の入り口が広がっている。

 もちろん、画面の内容は視聴者に見えるようにされている。


(ニンテンドーラボは実況OKでよかったですね……初めのころは、そうでもなかったみたいですけど……ん? ちょっと待ってください……なんかトロッコが……)


「インディー!? これあれですよ、ジョーンズ博士ですよ! 我見たことある! でも、コネリーパッパのほうが好きー」


 突然はしゃぎ始めた魔王に、

 『実況してください!』

 と、書かれたカンペを見せ、にゃむろPがバンバン叩く。


(おっと、いけません。我がインディーと007のファンであることがばれてしまいます。ちゃんとプレイしなくては……)


「えーと……説明書によれば、ツルハシを一回振って場所を指示。移動もこの感じで……鉱脈を見つけたらカンカンすると。じゃあ、とりあえず坑道の中に入ってみましょう」


 ツルハシコントローラーを操作し、奥へと進んでいく。

 内部のテクスチャが凝っており、岩盤っぽさが強い。

 さらに奥に行くと、部分的にキラキラしている筋のようなものが、壁面に走っていた。


「おお? ひょっとしてこれですかね? これが鉱脈……? ちょっと、試しにカンカンしてみましょう。カンカン♪ カンカン♪」


 上機嫌で魔王がツルハシを振り下ろしていると、ボロボロっと、壁面が崩れた。

 そして、その崩れた石の中には、輝くものが。


「おぉ~!? いっぱい出ましたぁー! すごい……これそうでしょ!? 鉱石ってやつでしょ、さっそく次のステップですよ! え、どうすればいいんです? 鑑定して鉱石(?)の(?)を外せばいいんです……?」


 にゃむろPが音速でカンペを書き、魔王の前に置く。

 うなずいた彼女は、なにくわぬ顔で実況を続ける。


「じゃあ、鉱石を研磨しに行きます! いったん坑道から出て──はい、こちらのマップが研磨場です! ここでさっき使ったスポンジ……じゃなかった、研磨機を使うと──うにゃぁあああああああああああ! 見てみて! ほら、原石が磨かれて綺麗なダイヤモンドに! やったー!」


 彼女が採取してきた鉱物は、ダイヤの原石だった。


「それでですね、このニンクラ。なんと手に入れたダイヤを、こうやってツルハシでカンカンすると──ほら、指輪とかに加工できちゃうの! というわけで、我が送るニンクラ実況は終わり! 我にダイヤの指輪をプレゼントしたい猛者はどんどん応募してね! あ、ごめんうそついた、ダイヤいらないからチャンネル登録して! これ、我とのヤクソクだよー? では、さらばだ!」


 笑顔で手を振る魔王。


「──────はい、いただきました。カットです」

「おつかれ、にゃむろP!」

「はい、お疲れ様です、魔王さん。なかなかのゲーム実況でしたよ。慣れてきましたね」

「えへへ……」

「ところで魔王さん」


 にゃむろPは、真剣な面持ちで、こう訊ねた。


「ダイヤの指輪、欲しいんですか……?」

「……へ?」

「いえ、いま例のCGモデリングを手伝ってもらっている方がいるのですが、欲しいのならCGに指輪をつけようかと」

「あ、あーね。なるほどね、わかってたぁ、そのくらい完全にわかってたから我!」

「現実でも必要なら、言ってくださいね」


(…………んんんんん!? どういう意味?)


 どこまでも普通の表情でそんなセリフを言い放ち、編集作業に向かうにゃむろP。

 彼の本気とも冗談ともつかない意味深な言葉に、惑乱の境地へ達する魔王だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る