登録者数:4020 キャッチーなあいさつを考えよう!

「ハロー! 定命の者たちー! ……で、よくないですか、にゃむろP」

「お゛はようございまーす! よりはましだと思いますが……いえ、やはり妥協せず、もう少し模索しましょう」

「えぅ……ヌードルが伸びちゃうよ……」

「なんで会議中にヌードルを作ってしまったのですか……」


 いつもの薄暗い室内で、額を寄せ合ってうんうん唸る二人。

 魔王はドクターペッパーを一口音を立ててすすると、挙手をした。


「はい、異世界代表の魔王さん」

「ニートニアからこんにちは! 我、マオだよー☆」

「いい線いっていると思うのですが、その路線で魔王さんのメンタルは息をしていますか?」

「ごめんなさい……いっそ殺して……」


 羞恥心で頭から湯気を出す魔王。

 にゃむろPはため息をつき、キリンNUDAを口に運ぶ。

 彼は、いまは無きNUDAプレーンソーダのヘビーユーザーだった。

 売れ残った大量の在庫が保管されたまま倒産した会社から、コンテナごと買い取ったことがあり、いまだにほそぼそ飲み続けることができている。

 なお、この情報は本作とまったく関係がない。


「我だよー! はキャッチだと思います」

「最近ガチャで引いたからね! キャッチだよ!」

「……その路線で行くのなら『あれはなんだ? 魔王か、美少女か……いや、バーチューバー真字野マオだ!』という」

「元ネタが行方不明感すごい」


 踊りだしすらしない会議に困った二人は、とりあえず昼食にすることにした。


「我、ヌードルー」

「たまには栄養があるものを食べてもらいます」

「えー」

「えー、ではありません。私がなにか適当に作りますから、それを食べてください」

「え? にゃむろPって、料理出来てしまうタイプ……?」

「はいはい、テンプレテンプレ」


 呆れたように言い放ち、にゃむろPはエプロンを身に着けキッチンへ。

 手持ち無沙汰の魔王は、とりあえずアイデアだけでも出そうと、思考を続ける。


(魔王アピールが大事なんですかね? 我こそは大魔王インスタバエル……! って、知り合いの魔王も言ってましたし)

(そういえば勇者もなんか名乗ってましたね、『黒刻の運命に導かれし解放者……鮮烈のアンブレイカブルブレイブハート』……とかなんとか……ブ、多くない? よし、これから勇者のことはブ男と呼びましょう)

(我の部下にも凝った名乗りを考えるやつがいましたね。『輝くは風の調べ、揺らめくは草原の花、ああ、素晴らしき我が名はシルフ・カラルド』とか)

(つまりー、我もー、我的な魅力をアピールすればいいのでは……?)


「ハロー、定命の者たちー! 世界で唯一の体当たり系魔王バーチューバー真字野マオとは、もちろん我だよー!」

「それでいいのでは?」

「うわぁ!?」


 ぬっとあらわれたにゃむろPに驚き、ひっくり返る魔王。

 彼は困った顔で魔王を見下ろしつつ、料理が盛られた皿をテーブルに置く。


「色々混ざっていますが、それが一番端的に魔王さんを表現している気がします」

「まじで?」

「真剣真剣」

「じゃあ、決まりだね! ……ところで、このおいしそうな香りの食べ物はいったい……」

「麻婆豆腐です」

「マウボォドゥーフー」

「そんな発音になりますか? 本当に? 本当に?」

「我がいた世界の溶岩チーズを思い起こさせる色合いだ……食べていい? 食べていい?」

「はい、どうぞ」

「やったー! いっただきまーす!」


 パクリ、と。

 麻婆豆腐をレンゲでひとすくい、口に頬張った魔王。

 ニコニコとほほ笑みながら咀嚼していた彼女の顔色が、途端に変わる。


「かっれぇえええええええええええええええええええええええ!?」


 ボウ! 比喩でもなんでもなく、リアルに口から火を吐く魔王。


(え? なにこれ!? 辛ッ! マジカラ! なんなのこれ、え、辛……っていうか痛い!? 舌が、口のなかがザクザク刺されているように痛い!?)


 吹き出る冷や汗、垂れる鼻水。

 涙があふれとまらない。

 その様子を観察し、にゃむろPは満足げにうなずく。


「喜んでくれたようでなによりです。作った甲斐がありました」

「ひゃひゅろひぃー! われ、よろひょんでひゃい……」

「にゃむろPです、覚えてください。次回、あるいはさらに次回の配信あたりで、似たようなものを食べていただこうと思うのですが、これはサドンデスソース使用の甘口バージョン。次回はキョロライナ・リーパーと山椒を山ほどぶち込んだ中辛にしようと思っています」

「あまくひ!? これがあまくひ? ひょうきでいっへるんでひゅか? ばっかじゃねーの!?」


(最後だけはっきり言えた……! 怒られる気がするけど、これだけはどうしても言いたかった!)

(前々からうすうす感づいてましたが、絶対にゃむろPは一般人ではありません……)

(たぶん、なんかの組織のエージェント……)

(あ、でも、なんで……? どうして我、またレンゲですくって……)


 プルプルと震えながらも、また一口食べる魔王。

 吹き出す炎。

 号泣魔王。


(く、癖になってきました……! も、もっと食べたい! くっ、ころ──違う! ちくせう!)


「にゃ、にゃむろP……」

「はい」

「おかわりくだひゃい!」

「はい、喜んで。ふふ、実はこれ、私の知り合いにも好評なんですよ」


 にゃむろP特製麻婆豆腐。

 それは人知を超越した、とにかく辛く、とにかく痛い料理であったが……

 不思議なことに中毒性を有する、魔性の食べ物だと魔王が理解するのは、三杯目をおかわりしたときのことだった。

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