登録者数:4019 ニンテンドーラボ買ってみた

「前回の配信がとても好評で、前日比チャンネル登録者数が8倍になりました」

「やったー! 今夜はすき焼きヌードルですね! 我の献身、じつに邁進!」

「というわけで、この波を逃さぬよう次の配信をやっていきます。ただ、魔王さんのCG開発にはもうすこし時間を頂きます。協力者ができましたので、めどはたっているのですが……負担をかけますね」

「そこは持ちつ持たれつ! それで、我は次にどんな動画を?」

「最近、再びブームがやってきたニンテンドーラボ。これで動画を作ろうと思います」

「急に路線が変わってなんかこわいんだけど……ニンテンドーラボとな?」

「詳しく説明しましょう」

「頼んだぞ、にゃむろP!」


 ガサゴソと荷物をあさり、にゃむろPはまず、ニンテンドースイッチを取り出した。


「スイッチです。あるいはswitch」

「我もさすがに知ってる、コントローラー取り外せるタブレット端末だ」

「否定はしませんが……さて、これの機能を拡張するものが、ニンテンドーラボです。ダンボールのオプションとソフトで構成され、2018年4月ごろに発売になって以降、小さい子どもたちに爆発的にヒットしました。また、ヒットし続けています」

「おもちゃはそもそも子どものものなのでは?」

「私の端末で散々課金している魔王さんのセリフとは思えませんね」

「うぎゅ……」


 にゃむろPの皮肉にぐうの音も出ない魔王だった。

 彼は軽く頷くと、説明に戻る。


「少子化が進む現代において、ニンテンドーラボは最適解でした。つくる、あそぶ、わかる。のキャッチコピーにすべてが集約しているとおり、自分で組み立て、遊び、沢山の経験を得ることができます。知育玩具として、親御さんの財布のヒモが緩んだことも、ヒットの一因でしょう。IRカメラで鍵盤を識別するピアノ、HD振動によって制御されるタイヤを必要としない車、内容もじつに画期的でした」

「よくわからないけど、それはすごいのか?」

「ダンボールが、長期展望を持たないのなら金型からして安価であること。自分で組み立て、改良できる点。いくらでも替えが効くこと──VR全盛の時代に使い古された〝こどものおもちゃ〟を──ものづくりの楽しさとして提供した手腕。まさに枯れた技術の水平思考。非常に素晴らしいのものです。長時間遊べないVRを、現実に持ち込むことで長く遊べるようにした点もエクセレントです」


(なるほど、なんとなくわかりました。目新しいわけではない技術を、最新技術と組み合わせて、見たこともないものを供給する。それがすごい事なんですね)


「また、その後の展開がうまかったのです」

「どう広がったんです?」

「コラボです。動物園とコラボし、ご当地的なケモノ撮影ソフトを作ったり、ダンボールでカメラを組み立てたり」

「ふむふむ」

「虫取りアミにしてみたり、ダンボールでライフル銃を再現してみたり」

「へー」

「珍しいものでは鉄道や空港とコラボし、電車や飛行機の操縦桿をダンボールで再現、限定のソフトで動かすというものもありました」

「あ、それ楽しそう!」

「そういうわけで、本日はこれをやっていただきます」


 前置きはここまでだと、にゃむろPはダンボールを取り出した。


「中身は宝石採掘セットです」

「宝石……採掘……」

「コントローラーとダンボールでつるはしを作り、本体とダンボールで坑道を作ります。頑張ると、ダイヤとか取れます」

「つまり……マインクラフト……」

「否定はしません」

「でも、これは一から作って遊ぶんですよね、にゃむろP?」

「そうなります」

「なるほどー!」


 楽しそうに箱を見つめる魔王を見ながら、にゃむろPは大事なことを思い出したと言わんばかりに、言葉を続ける。


「ところで、これはバーチューバーのなかでも、真字野マオにしか実況できないゲームなんですよ」

「なんでですか?」

「ニンテンドーラボは、データではないので」

「あ、我、実写だから。我の見た目がCGなのに実写だから、ニンテンドーラボの実物で遊べると。無駄な合成がいらないってことですか?」

「そこが売りですからね」


 ほほーうと、深く感心する魔王。


(にゃむろPは頑張って我のCGモデルを作ってくれているみたいですが、そうなってくるとこれはアドバンテージですよね。簡単に捨てるのは、勿体ない気がします)

(よく考えれば、この前のゲテモノ実食もそのたぐいですし)

(世の中捨てたものじゃありませんねぇ……)

(ふふふ……これで我、一躍人気に……!)


「身体を張ってもらうのは、これから確定事項なので、これは前哨戦のようなものですね」

「……なんです、いま不穏な言葉が聞こえたような……」

「気のせいです。さて、それはともかく魔王さん、じつはPとして、相談したいことがあります」

「Pとして、相談……ハッ!」


 頭に電球をひらめかせ、驚いた顔をする魔王。


(ま、ましゃか……我に告白を!? にゃむろP、我のことをそんなに……でも、我、わ、わわわわ、我、ほら、その、ほら……まだここここころの準備が……ッ!)


「魔王さん」

「ダ、ダメです……! まずはお手紙の交換から、いえ、手をつなぐところから……! 支度金は2000万ほどでいいです。円ではなくドルで。キャー!!」

「……なにを勘違いしているかわかりませんが。魔王さん、よく聞いてくださいね?」

「ドキドキ……ハッキュンドッキュン……」

「……冒頭のあいさつ、統一できませんか?」

「────」

「…………」

「──はぁっ!?」


 かくして魔王──否。

 真字野マオの挨拶を決めようプロジェクトが、この瞬間発足されたのだった。

 簡単に言えば、挨拶がまるかぶりだったのである。


「期待させやがって、チクショーメ!!!」


 魔王の遠吠えは長く、とても長く続いたという。

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