登録人数:1013 低評価が増えはじめたら?

 初めてのゲーム実況を終えて数日。

 魔王はほくほく顔で、自分の動画を見に行った。

 お目当ては、


(コメント♪ コメント♪ いっぱいついてるかなぁー!)


 そのようなものだった。


(えへへ……最近は再生数も順調でしたし、きっと応援のコメントとか、どぱーっと、ついているはずで)


 これまでも、ポジティブなコメントを魔王はいくつか貰っていた。

 なかにはネタに特化したものもあったが、魔王にしてみれば嬉しかった。

 だから、その日も普通にコメント欄を覗いて──


(あれ?)


 彼女は、首を傾げた。


(コメント、増えてない?)


 数日前に見たときと、なにも変わらない。

 それどころか、最新の動画にはひとつもない。


(タイミングが、悪かったですかね……?)


 首をかしげる魔王だったが、そこで、気が付いてしまった。

 彼女は普段抜けているが。

 こんな時、奇妙に聡いのである。


「え? なんか、低評価のボタンが、すごい押されてる……」


 YouTubeには、動画を〝高く評価〟する、あるいは〝低く評価〟するという機能が存在する。

 これはユーザーが自発的に押すもので、押すことが義務であったり必須であったりはしない。

 だから、低評価だったとしても、それは視聴者が意図的に押したものであるということで。


「我……ひょっとして、不快に思われてる……?」


§§


「えっぐ……ぐっす……ということが……朝あったんですよ、にゃむろP……ぶえええええ……」

「なるほど」


 魔王の主食であるヌードルと、サラダなどを買いに出たにゃむろP。

 帰ってくるなり、魔王に泣きつかれ、彼は目をぱちくりしていたが、事情を聴き、納得する。


「魔王さんは、こういうの平気な方かと思ってました」

「なんで!? 我だって、生き物だよ!? つれなくされたらつらいよ!」

「異世界にいたころから、そうでしたか?」

「……ニートニアでは、威厳を保たなくちゃいけなかったし……それよりにゃむろー、なんで我、こんな低評価いっぱい押されちゃったの?」

「そうですね……」


 魔王の動画と、評価の推移を見比べ、にゃむろPは言う。


「気にしないことですかね」

「え、えー……」


(答えになってないんだけど……)


「納得できないという顔ですが、よくあることですからねぇ……特に意味もなく、誰かが低評価を押していたから、自分も押した。その程度のことです。とりあえず、メンタルを鋼にしておいてください」


(そういうものなのか……)


 納得しかけた魔王だったが、またまた閃く。

 窮地では、無駄に頭が回るのが彼女の特徴だった。


「でも、あんまり低評価ばっかりだと、影響が出たりしないのですか?」

「……一般的に、低評価が多いと、広告収入が得られないのでは、とまことしやかに噂されています」

「にゃぴ!?」

「……それは驚きの声ですか? それとも私の名前を呼んだのですか?」

「どっちもだよ! それガチやばいじゃーん!」


 この世界に、魔王が働ける場所はほとんどない。

 YouTubeの広告収入は、魔王が手にいれることができる数少ない収入源のひとつだ。


(ま、まあ、いまのところ、じつはぜんぜんまったく、その広告収入とやらは受け取れていないのですが……しかし、これは由々しき事態です!)


「カムナガラP!」

「にゃむろPです、覚えてください。まずは落ち着きましょう。順番に説明します」

「む」


 ドクターペッパーを差し出された魔王は、不承不承それを受け取る。

 ちびちび飲んでいると、にゃむろPが説明を始めた。


「たしかに、低評価が多ければ、それだけ再生される可能性は減るかもしれません。また運営が、もしかすると広告をつけてくれないかもしれません。ですが、これらには確証がないのです」

「でも、視聴者が面白くなかったから、低評価を押すんでしょ? 我もうだめじゃーん! おつかれさまぁー!」

「落ち着いて」


 自暴自棄な魔王を宥め、にゃむろPは根気よく説明を続ける。


「間が悪いというのは、本当にあり得るのです。前後する動画を見比べても、そのクオリティに大差はありませんでした。いつもの魔王さんの動画です。再生数も、いろいろ総合して考えれば、割合は同じぐらいです。バーチューバーまとめ記事にも、いつも通り端っこに名を連ねています」

「だったら……!」

「そうですね、理由はあるでしょう……たとえば」


(たとえば……?)


 ゴクリとのどを鳴らす魔王。

 にゃむろPは、おもむろに、こういった。


「飽きが来た……とかでしょうか」

「────」


 くてぇーっと、その場に崩れ落ちる魔王。

 赤い両目からは、ぽろぽろ涙が零れ落ちている。


「そっか……我、飽きられちゃったんだ……このまま、捨てられちゃうんだ……かなしい……惨め……神田川……」

「ひょっとして不憫な女性キャラがお気に入りなのですか?」

「違うわーい!」

「冗談はともかく。低評価という事実は、謙虚に受け入れなくてはいけません。ですが同時に、あまり深刻に考えてもいけません。もう少し様子を見ないとわからないのですよ、これは。或いは、いたずらの可能性だってあります。ですので魔王さん、私からひとつ、提案があります」

「なに……?」


 彼は。

 大の字に倒れている魔王の右手にスマホを握らせると、妙に生真面目な表情で、こう言った。


「魔王さんをもっと身近に感じてもらうため──Twitter、初めてみませんか?」

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