登録人数:1012 利用規約はチョー大事

「いやぁー!? 舌!? ベロ!? カエルの口からびよーんって! びよーんって! はひゃー、からめとられるー!? ダッシュ、ここでダッシュ回避を──はふん」


 だったり、


「勝利の凱歌には 俺たちの犠牲が必要だ 命を惜しんでは 世界は守れないぞー♪ いい歌じゃないですかー! でも我、あの有名な曲も好きですよ! あーおい地球を守るためー♪ EDFの出動だー♪」


 とか、


「グレード? アイテムを拾ったらグレードが上がるの……? え、同じアイテムじゃないとだめ……? 我、ちょっとわからない……」


 など、地球防衛軍6.1を堪能した魔王は、お決まりの挨拶をして、実況をしめることにした。


「というわけで、チャンネル登録よろしくね! 我との約束! ネクサス!」

「…………はい、お疲れさまでした、魔王さん」

「にゃむろPおつー! めっちゃ難易度高いよこれー! 思ったより難しいんだけどこのゲーム!」

「最新作のアップデート版ですからね、そりゃあ難易度も上がってます。多人数プレイ推奨ですし」

「でも、楽しかったので! 我、満足!」

「それはよかった。では、さっそく編集して投稿しましょう」

「オーキードーキー!」


 そういうわけで、魔王は動画の編集を手伝うことになった。

 といっても、魔王にはスクリプトを組むような能力はない。

 現状のそう言ったあれこれは、すべてにゃむろPに任せていた。


「さすがに一朝一夕でどうにかなるものではありませんし……とりあえず、見て覚えてください。今回は字幕を入れていきます」

「あれか! 5人そろって四天王の諸先輩方が、『お゛はよー!』とか『イェエエェェェイィィィ!!』とかしてるやつ!」

「そういうやつです。フリーフォントといって、ダウンロードすれば文字の形を変えることができます」


(フリーフォント……筆跡みたいなものだよね。この世界は筆跡まで変えてくれるのか……すごいなぁ……)


「もちろん商用利用が許可されているものを使う必要がありますが……簡単に一例を示しますと、一般的な〝明朝〟がこのような感じだとすると、この〝ようじょふぉんと〟は」

「子どもの字だ!? なにこれ、すっげー!」

「他にも、筆のような筆致、ロゴ染みたフォントなど、探すと結構あります。で、先ほどの魔王さんが絶叫したシーン」


(やだ……にゃむろPったら……我が、恐怖に震えていたシーンをまじまじと見ていたなんて……)

(絶対に許さんぞ! その弱みを忘れるまで、ギタギタにしてくれる……!)


「気持ち悪い顔芸はやめてください」

「ガーン!」

「えー……この、蟻だああああああああああああああああ!? のシーンですが、〝851チカラヅヨク かなB〟というのを選ぶと──」

「あ、なんか叫んでるっぽい。真剣10代喋り場っぽい」

「どこでひっくり返してきたんです、そのアーカイブ? まあ、いいでしょう、このように、フォントを効果的に使うことで、より臨場感のある動画にすることができます。ロゴジェネレーターという、アニメやドラマ、映画などのロゴを再現するものもありますが……諸事情からお勧めしませんね」

「権利問題というやつだな、定命の者も世知辛い……」


(我もニートニアを治めているころは大変だった。魔族ども、なにかにつけて調子に乗るし、ことあるごとに報酬を要求してくるし……う、思い出したら胃が……キリキリするぅ!)


「さて、最後になりますが、動画の投稿文について、今回のようなゲーム実況の際、特に気を付けてもらいたいことがあります」


 普段から2割増しほど、真剣な口調になったにゃむろP。

 彼は首筋をさすりながら、カタカタとタイピングする。


「何度も言いますが、利用規約は絶対です。皆が気持ちよく、よりよく使うためのルールで、それは守るべきです。ルールがおかしいと思うのなら、問い合わせるべきです」

「う、む……?」

「このゲーム、地球防衛軍では、このように規約が書かれています」


 静止画・動画を投稿する場合は、

 1)作品タイトルに【地球防衛軍6.1】を記載してください。

 2)動画説明文に著作権者の表記(©2019 SANDLOT ©2019 D3 PUBLISHER)を記載してください。


「こうすることで、メーカーの許諾を得ていることを明確に伝えることができます。これは非常に大事なことです。ユーザー、メーカー、両方の信頼の上に成り立つ、素晴らしいものです」

「具体的に、メーカーにはどんなメリットがあるわけ?」

「宣伝、告知、周知……言い方はなんでもいいですが、このゲームが面白いということをノーコストで知らしめることができます」

「でも、それなら別に規約とかなくても……」


 言いよどむ魔王に、にゃむろPは珍しく優しい視線を向けた。


「大事なのは、メーカーが管理できることです。自分が把握できる範囲であれば、責任も取りやすいでしょう? これを、リスクマネージメントと言います。リスクマネージメントを怠れば、現代では一瞬で、大炎上ということもあり得るのです。それは、動画でも同じこと。作る側が許容するからこそ、WinWinがあり得るのです」

「我らのようなバーチューバーにも、それがあり得るかもしれない、ってにゃむろPはいいたいんです?」

「そう、だからこそ、しっかり規約を守りましょう。というわけで、動画を投稿します。確認、よろしいですか?」

「もちろん! 我はにゃむろPを信じているからな!」

「……はい」


 こうして、魔王初めてのゲーム実況は、投稿された。

 にゃむろPが画策する〝魔王をプロデュース!〟計画。

 その火種がひとつ、いま放たれたことを魔王は知らない。


「よし! じゃあ、ヌードル食べましょ、ヌードル! 今日はとんこつがいいです!」

「そんなフレバーありましたっけ……」


 ……恐ろしいほど、知らないのだった。

 無頓着魔王の、奮闘は続く……!

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