登録人数:1011 ゲーム実況、やってみた
「その昔、ゲーム実況というのは、非常に雑多な設備が必要でした。ですが、今や公式のゲームハードから動画をUPできる時代です。あるいはPC画面で直接操作すれば、そのままキャプチャーして編集、動画にすることもできるでしょう」
「へー」
「先程も話しましたが魔王さん、本当にゲーム実況というコンテンツに対して、メーカーは寛容になったのです」
スマホからPCに動画を取り込むためには、違法な機器が必要だったとか。
エミュレーターを使う実況者があとを絶たなかったとか。
そのあともくどくどと、にゃむろPは話を続けたが、魔王はスルーした。
あまり興味がなかったからだ。
魔王はPS4を箱から取り出し、初期設定を終え、そこで首を傾げた。
どうすれば録画できるかわからなかった。
「私の話を聞いていませんでしたね、魔王さん……」
「にゃむろん、怖いからぬっと顔出すのやめよう」
「にゃむろPです、覚えてください。さて、今回はPS4を使いますが、これによって動画を録画する方法は、大きく分けて2種類あります」
(ひとつは本体が録画してくれるんでしょ、知ってる。でもやり方わかんないし、にゃむろにやってもらおー……)
「とか、クズいことを考えている魔王さん」
「なぜわかったし!?」
「……たしかに、PS4本体でも録画はできます。コントローラーを操作して〝共有〟ボタンを2度押すだけ。これで録画ができます──が」
「さすがに我も学習してるから! あれでしょ、編集ができない!」
「そうですね、ダイレクトにはできません。あと動画形式が固定されてしまうので、変換で二度手間になります」
「動画形式……」
「和食、中華、洋食みたいなものです。和食しか食べられない編集ソフトとかあるんです」
「へー、にゃむろPってさー、微妙に詳しくないです?」
その問いかけには答えず、彼はもう一つの録画方法を口にした。
「一般的な方法として、画面レコーダーをダウンロードしたパソコンにHDMI、それからPS4、キャプチャーカードを接続する方法です。HDMIは接続器具です。このケーブルのようなものが、HDMIです」
「キャプチャーカードはなんなんです?」
「簡単に言えば、録画してくれる機器です。こうすることで、PS4の内容が、PCの画面に映し出されます。あとはレコーダーを起動して、必要な設定を行うだけですね。では、やってみてください」
「よっしゃぁ! 我の本気、見せてやるかんな!」
と、魔王が勢いよく言ったのが、30分前。
現状、彼女は号泣していた。
「ひっぐ……えっぐ……できる、できるもん……このくらい、ひとりで……我、すごい魔王だし……魔王だしぃぃぃぃ!!!」
ちら、ちら!
かなりの頻度でにゃむろPへ視線を送る魔王。
(もうワンプッシュ! もう一押し泣き付けば、たぶん手伝ってくれる……!)
「うえーん!」
「絶対手伝いませんからね」
「マジで!?」
無慈悲なにゃむろPの一言に、ショックを受ける魔王。
彼女が、それでもなんとか頑張って、録画環境を整えるまでさらに一時間が必要だった。
「というわけで! 出来たから! ひとりでできるもん、我! チクショーメ、威厳の欠片もねぇー!」
「では、さっそくプレイしてください。注文したソフトは、地球防衛軍6.1でしたね」
「そうなの! 我、このなんか、すごい、その!」
「むりに表現しなくていいので、軽く挨拶してから実際にプレイしてみてください、じつはVRゲーなので、ゴーグルがあれば没入感が増すのですが……諸事情で今回は我慢していただきます」
「……? よくわかんないけど、オーキードーキー!」
満面の笑みでOKサインを決めた魔王は、さっそく収録をはじめる。
「お゛はよぉおおおおお!! 寝てる人も起きてー! はやくなくてもこの業界では、おはよーなんだよ! 待たせたな定命の者たち! 我だ! 真字野マオが、今日はゲーム実況をやってみるよ。今日やるゲームは、ぱぱぱぱっぱぱー! ちきゅーぼーえーぐんろくてんいちー!」
(諸先輩方も、青い狸みたいな口調で言えば、人気が取れるって言ってたもん! 我、頑張る!)
彼女の掛け声とともに、メニュー画面が表示される。
青い地球を背後に、気合いの入ったロゴが描かれていた。
「このゲームは、フォーリナーとか、イミグラントっていう宇宙からの侵略者を、地球防衛軍EDFになって、ぶちころ……ころ……殴ったり撃ったりするゲームなんです! 兵隊さんの職種がいくつかあるんですが……我はこの、レンジャーというので頑張ってみたいと思います!」
はじめから、という選択肢を選ぶ魔王。
難易度はノーマル。
「あー、ローディング長いっすね。我、むかしから待つのが苦手で、勇者が攻めてくるらしいって聞いたときは、レベル1の勇者の前に現れてもうおしっこちびらせてやったんですけど──あ、はじまった!」
(なるほど、前作で撃退したはずの宇宙人がまたやってきたから、倒せと。確かカエルでしたよね、前のゲームの敵。つまり、今回もカエルを倒せばいいのですかね……?)
「あれ……? いきなり戦闘じゃないんですか?」
首をかしげる魔王。
実際、ゲーム画面では、プレイヤーはこの民間人であるとか、新人研修を行うとか説明が行われている。
「操作できない……あ、できた。ジャーンプ! ジャーンプ! ダッシュとかできるらしいんですけど……あれ、できない……ジャーンプ! カメラ、グリングリン動きますね! 楽しそう」
ストーリー的には濃厚な、しかし解説要素の薄いチュートリアルを進んでいくと、突然、基地内に警報が鳴り響いた。
魔王は目を輝かせる。
「敵襲です! てきしゅー! EDF! EDF!」
(あ、チャットの数すごい。だいたいのセリフがある。EDF!)
「え、ここで武器を貰うんですか? ……って、うわぁ。人がいっぱい逃げてくる……これ、撃っていいの? 押し流される、ちょ、人間じゃま! 撃っちゃえ!」
跳ね返る弾丸。
ダメージで減るアーマー。
「え?」
絶句する魔王。
目が面白いぐらい点になっている。
「え、えっと……なんかHP? アーマー? 減っちゃったけど、敵を倒したいと思います。ごめんねぇ、定命の者たち……そりゃあ抵抗するよな、いきなり撃たれたら我でもそうする」
(まさか殺せないどころか殺されかけるとは……この世界の人間つよい……戦闘力5のゴミじゃない……)
ステージの奥に進んでいくと、ようやく魔王はエネミーと遭遇することができた。
その、敵とは──
「ヒッ!? なにこれ、キモイ!? うえええええええええ、蟻だああああああああああああああああああああ!!!!」
……100を優に超える、巨大な蟻の大群だった。
「こ、こないでぇぇぇぇ……」
お決まりの演出とともにわらわら湧き出てくる蟻。
魔王のむなしい悲鳴が、収録部屋にこだまするのだった。
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