登録人数:1010 実況していいゲーム、ダメなゲーム

「にゃむろP、いま我が思ってること、ちょっと当ててみ?」

「……ハルサメはヌードルに入らない?」

「そうそう、いくら糖質制限が流行りだからって麺をハルサメに変えちゃ──って、ちがいますー! 我、そこまで横着じゃないですー!」


 子どもじみた魔王の様子に、困惑もあらわに首へと手を当てるにゃむろPだったが、なにか閃いたのか、ぽんと手を打つ。


「わかりました、あなたのCGモデルが仕上がるまでまだかかりますから、顔出しでもできるなにかを」

「そう! 我、ゲーム実況がやりたいのです!」

「なるほど」

「それでねぇー、我ねぇー、にゃむろPなら、我にー」

「その気色が悪い猫なで声を今すぐやめなさい」

「……ぐすっ……定命の者たちは、こうすれば一発だって……ヤフー知恵袋で言ってたのに……賢者……賢者のくせに……」

「どう考えてもそんなものを頼ったあなたの責任です」


 はぁーと、大きなため息をつくにゃむろP。

 ちらっちらと、なんども彼を確認する魔王。


「あなた、そうしていれば私がなんとかすると思ってますね?」

「だって……さては、にゃむろPは色仕掛けを期待している……?」

「してません」

「我……とてもできない……いくら恩人とはいえ……こ、ここここ、こうですか……? このニーソがちょっとダルっとなってるところがいいんです、か?」

「私をどのレベルのフェチに仕立て上げたいのですか魔王さんは?」

「ひぃっ、ぶたないで、ぶたないで……!」

「……DVをしている気分です」


 ふらっと来たのか、額を押さえ、顔をしかめるにゃむろP。

 結局、彼のほうが根負けしてしまった。

 そういうわけで。

 魔王は、にゃむろPの私費を使い、とあるゲームを購入することにした。


「魔王さん、一つここで説明しておきたいことがあります」

「なーにー、DVP」

「いつから決済の話になりましたか? ……決済の話をしますか? 出来るだけ低予算でバーチューバーをやるための心構えとか。予算とか」

「ごめんなさーい! 謝りますから、何卒、何卒ハルサメだけは……」

「こほん。では、大事な話を。一口にゲーム実況といっても、すべてのゲームが実況を許しているわけではありません」

「そーなの?」

「そうなんです。勝手にアップロードしては、罪に問われるものもあります。特に国内のメーカーでは、それは顕著です」

「え、じゃあ我がやりたいやつ、ダメじゃん」

「ですので、すこしだけ、どんなゲームならいいか、先に説明させてください」

「しっかたねーなー、我、聞いてあげるよ。ほら言ってみ?」

「…………」


 おのれの忍耐力を誉めつつ、にゃむろPは実況できるゲームの選別方法を教える。


「一番良いのは、海外のゲームです。もちろん一度問い合わせるべきですが、ほとんどの場合、実況することを黙認・快諾してくれます」

「まじか」

「マジです。これは、実況がマーケティングに対していい影響を与えるという考え方が、海外では強いからです。では翻って国内はどうか」

「あ、我知ってるよー、ファイナルファンタジーⅩⅣはいいんでしょ?」

「そうですね、例外的にOKということになっています。ほかにもドラクエ最新作、ウルトラストリートファイターⅣ、マリオカート8なども、ダメな部分はあちら側で勝手にカットされたりするので、実況してよいことになっています」

「なんだ、じゃあOKじゃないですか。日本も結構オープンだよねー!」


 笑顔になる魔王に、にゃむろPはゆっくりと頭を振る。


「いえ、そうでもありません。あくまでこの一部が可能なだけで、いまだ実況は企業に対して不利益であるとする考え方が、主流なのです」

「頭堅いなぁ、我ならちゃんと、広告塔の代わりをするもん」

「その広告塔がネガティブな発言をした場合、だれが責任を取るのですか?」


 あっと、魔王は声を出す。


(たしかに、それはそうですね……)


「国内ではまだまだ慎重に様子を見たいというのが、本音なのでしょう。それでも、ずいぶん数は増えました。とくに、PS4、xbox oneなどは、ほとんどのゲームを、ハード自体から投稿できるようになっています。その温情は素晴らしい事です」

「他にはないのです? 実況していいゲーム」

「ぷよぷよ、テラリア、あとは艦隊これくしょんなどは、割と初期から実況してもいいと声明を出していますね。ファンが義理堅いコンテンツでは、それが許容される傾向にあるように思えます。では、本題です。魔王さん、あなたがやりたいゲームは──」


 ドスリと、フローリングに置かれる黒い筐体。

 PS4。

 傑作ゲーム機の誉れ高い、どちらかというと海外で売れているそのハードの上に、にゃむろPはソフトを一枚、重ねた。

 タイトルは──


「地球防衛軍6.1ぃぃぃぃ!!」


 ハイテンションで両手を叩く魔王。

 それは、SIMPLE2000地球防衛軍というタイトルで、初回なんと2000円(税別)で売り出された、傑作アクションゲームの最新版であった。

 発売日は、5日前。

 お忘れかもしれないがこの物語、少し未来の日本が舞台である。


「やったー! これで、バグで遊べるー! ハヴォック神ー!」

「そういうゲームじゃないですから、これ」


 うきうきの魔王に、にゃむろPは冷ややかなツッコミを入れるのだった。

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