登録人数:3 口座は登録しましたか?
「面を上げてください、魔王さん」
先ほどまでの恐ろしいオーラを消したスーツの人物は、魔王の肩にそっと手をかけ、立ち上がらせる。
「ニャムロッピさん」
「にゃむろPです、覚えてください」
「にゃるらとほてっぷさん」
「にゃむろPです、覚えてください」
「ニャメローン!」
「ふッ!」
「カハッ!?」
ボディーにかなりいい感じのヤツを貰った魔王は、再度その場に崩れ落ちる。
スーツの男性は、反省していない様子の魔王を、三白眼で見下ろしていた。
魔王はプルプル震えながら考える。
(いますぐ頭破裂しねーかな、こいつ。我に地を舐めさせるような奴は、みんな頭パーンすればいいのに……)
「どうせクズみたいなことを考えている魔王さん」
「なんでわかったの!?」
「……ほんとうに考えていたんですか。まあ、それはいいです。なぜ勝手に、私の口座のお金を使ったのですか?」
「え? そんなこともわかんねーですか? ひょっとして、頭の中に空気が詰まってる──あー! あー! やめ、やめろー!? 無言で鎖骨外そうとするのやめろー! これでも我、魔王だから! えらいから! イ゛ヤ゛ァ゛ー!?」
軽い拷問を受け、魔王は涙目で自白する。
そもそも、にゃむろPは彼女の事情を知っているので──
そのうえでこの部屋を貸してくれている善人なので、初めからそうするべきだったのである。
「かくかくしかじか、というわけです。ごめんねテヘペロ!」
「なるほど。バーチューバーになる準備のために、購入したと。では、進捗を見せてください」
「え゛」
ギャグを軽く流され、しかもクリティカルな部分に言及され、目が泳ぐ魔王。
PCにダッシュするにゃむろP。
しがみついて必死に止める魔王。
「離しなさい」
「待って、ねぇ、話し合おう? 我ら、まだ終わりじゃないよね……?」
「別れ話を切り出された未練まみれの女性のような発言はやめなさい。私にはあなたの進捗を確認する義務があります。はやく有名バーチューバーになって、元の世界に戻ってもらわないと困るのです。私にあなたを食わせる甲斐性はありません。さあ、進捗を見せなさい」
「なーんーでーさー!」
「私はにゃむろP。本来の自担は鷲ざ──ごほん。しかし、いまはあなたのプロデューサーです」
「理由がわからないんだけどぉ」
「〝魔王をプロデュース!〟という、語呂がいいからです」
なるほど、語呂がいいのなら仕方がないと、魔王は納得した。
「……ダメですね。まったくダメです」
PCをのぞき込み、にゃむろPは首を振る。
「たしかに、この口パクソフトがあれば、PCカメラがあなたの姿を取り込み、勝手に可愛いキャラクターに処理してくれるでしょう」
「だしょだしょ! だったら我、すぐにバーチューバーに──」
「顔だけ動けば、バーチューバーですか?」
その問いかけに、魔王はピキリと固まる。
(確かに、我が見て回った諸先輩方の動画では、すべてのキャラクターたちが生き生きと画面内を動き回っていた気がします……つまり! つまり?)
「顔だけだと、再生数が稼げねーってことです?」
「断言はしませんが、動きが減れば見せ場が減るということで。改善点ですね。さて……」
にゃむろPは、あごに手を当て、首をかしげる。
魔王もつられて、ポカーンと口を開けたまま首をかしげる。
にゃむろPは、
「そもそも……登録しましたか?」
困惑したような顔で、そう言った。
(……ん?)
(登録って、なんのことでしょう?)
(フェイスリグの登録なら……)
「ユーチューブ、ユーザーとして登録しましたか?」
「──あ」
彼の言葉に、目を丸くする魔王。
にゃむろPは、困った顔で首をさすった。
「やはりですか」
「違いますー、やはりじゃないですー」
「いいですか、魔王さん」
魔王の強がりを無視し、にゃむろPは説明をはじめる。
「ユーチューバーになるには、最低限YouTubeのアカウントを取得する必要があります。そのうえで、チャンネルを開設し、動画を投稿し、その動画を収益化──広告収入を得られる状態にしなければいけません。バーチャルがどーのこーのというのは、その先の話です」
「そ、それは……その、いまからしようと……」
「第一、収益化したとして。そのお金を受け取る銀行口座は、どうするつもりだったのですか」
「うっ!!」
痛いところをつかれ、胸を押さえる魔王。
ため息をついたのはにゃむろP。
魔王に戸籍はない。したがって、銀行口座もない。
つまり、現状では収益を受け取る方法がそもそもないのだ。
「まあ、それはさすがに私がどうにかしましょう。ゆうちょならいけます」
「見捨てないでくれるのか、定命の者よ! あ゛り゛がと゛ー!!!」
「見苦しいので泣きながら抱き着いてこないでください。あくまで口座は、私がどうにかするというだけです。なので、魔王さんには、いくつか課題を出させていただきます。まずは──」
そこで、スーツの彼は、髪をオールバックにかきあげ。
厳粛な面持ちで、こう言ったのだった。
「まずは一本、動画を作ってみましょうか?」
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