第12節「Welcome to the New World(中編)」
小学校1年生のとき、彼女に出会った。
私の大好きな彼女は、初めての出会いから、まさしく彼女そのものだった。
彼女は隣のクラスだった。まだ小学校に入ったばかりのころ。休み時間に、幼稚園から一緒の友達たちと外へ出て遊んでいたときだ。ブランコに座った彼女を、何人かの男子が取り囲んで「"しせつそだち"!」と呼んでからかっていた。私は子供ながら、咄嗟に、彼女を助けなければと思った。
昔から腕力が男子より強かった私は、その男子たちを退治した。彼らが去っていった後、私は彼女に声をかけた。
「だいじょうぶ?」
「…なにが?」
「え、だって、いま」
「べつに、ぜんぜんへいきだよ」
「…ほんとにぃ?」
「うん、べつになんでもないよ。だって、"しせつそだち"って、わたしにとって"にんげん"っていわれるのとおなじことだもん。だから、へいきだよ」
「…んー?よくわかんない」
「きにしなくていいよ。ほら、むこうでおともだちがよんでるよ」
「あ、うん」
このやり取りは鮮明に覚えている。今考えれば、彼女はこの時点でも、やっぱり彼女だったのだ。
その後、私は事あるごとに彼女のことが気になり、やがて常に一緒にいるほどの仲になった。頭脳明晰な彼女は、私の誇りであった。偏見をものともせず、ただ自分の考えを貫き通す彼女は、親友として本当に誇らしかった。
中学校に入って、彼女は素晴らしく美しくなった。中学一年生のころ、よく男子に彼女との仲介役を頼まれた。私はそのほとんどをもみ消していた。彼女にそんな男たちは似合わない。そういう想いからだった。
入学して数週間後、あるクラスの男子に目をつけた。明るく、優しく、顔立ちも整っていて、心も体も清潔感があった。私の大好きな彼女には、こういう男こそ相応しいと思った。私が話しかけ、三人で遊ぶようになって、気がついたら…私が惚れていた。
中学二年生の冬。あのとき私は委員会が思ったより早く終わって、二人に追いつくかもしれないと思い小走りしていた。そして追いついたとき、彼のあの言葉を聞いたのだ。
「雪、俺、お前が好きだ」
「………頭がおかしくなったのか?」
「いや、本気だ。本気で好きになった。だから」
それ以上聞いていられなかった。私は静かに逃げ出した。報いだ、と思った。彼女にふさわしい男を、なんて、あまりにも差し出がましいおせっかいだったのだ。結局、私自身が好きになってしまった"彼女に相応しい"彼は、初めの予定通り彼女のことが好きになった。一週間後、私は彼に告白した。彼女が彼を振ったことは、二人のやり取りでわかっていた。
結果は思い出したくもない。
それでも、私は彼のことを諦められなかった。いつか彼の気持ちが変わるかもしれない。そう思って。
それが…。
昨日、私は彼の下手な言い訳と、何故かそれをフォローする彼女を不思議に思って、一旦帰ったように見せかけて、彼女の後をつけた。そして、あの自販機スペースの隣の教室に隠れて、話を聞いていた。
そのときあの言葉を聞いてしまった。
「雪。俺が本心を偽って綾野と付き合ったところで、上手くいくはずがない。…俺の心は変わらない。報われなくてもいいんだ。雪、俺はお前を想い続ける」
その場で叫びだしそうだった。思い切り自分の頭を殴りつけてやりたかった。忘れろ、と。しかし、もう聞いてしまった。
どうしてそんなこと言うの。どうして雪なの。どうして、私を見てくれないの。雪が、雪が憎くて憎くてたまらない。でも、雪のことも好き。本当に好きなの。私は…私はどうしたらいいの?
泣いて眠れずにいた私の聴覚神経に通知音が響いたのは、ちょうど日付が変わった瞬間だった。右手でリングに触れると、神経ディスプレイに大きく文字が浮かび上がった。
『あなたは、本日のXに選定されました。』
それを見た瞬間、天から光が差した気がした。
私は自分が何をやるべきか、はっきりと分かったのだ。
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