第21話 千里の道も一歩から
『七番、鳴守和音さん。入場をお願いします』
今の俺にどれほどの演奏ができるのか。不安でいっぱいのこの気持ちを意識するのはいつぶりだろうか。これまで俺はこの感情から目を背けていた。向き合おうとしてこなかった。
それはピアノと曲と演奏と真摯に向き合っていない証拠だった。自分の感情に蓋をしていた。感情の欠落したピアニストに自分らしい演奏なんてできるはずもなかった。
舞台の天井から降り注ぐ光の中で俺は今から演奏する。自分とその感情に向き合う。一歩また一歩ピアノに近づいていく。静けさに覆われた空間に俺の靴の音だけが、コツン、コツンと小気味のいい音を奏でる。もしかしたらもうこの瞬間から俺の演奏は始まっているのかもしれない。そう感じるほど小気味のいい音を俺の靴は響かせていた。
椅子に座り高さを調節する。
鍵盤に指を合わせる。
さあ一歩を踏み出そう。その先に千里の道があるとしても。まずは一歩だ。
俺の第一音が静寂を打ち破った。
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