第15話 彼女の日常
そんな経緯で、俺の今は非日常だ。香織の家で晩御飯を食べているのだ。
隣の席には香織が、そして俺の向かいには、香織のお父さんとお母さんが座っている。
「和音ちゃん、本当に久しぶりね」
香織のお母さん――山下千春さんはとても元気溌剌で優しい人で、母が亡くなってからも、俺のことを気にかけてくれている。
ただ――「ちゃん」づけはやめてほしい。恥ずかしいから。
「こんなに大きくなっちゃって! あ、そういえば、ピアノ最近どうなの? 日曜日も仕事が入ることが多くて、最近見に行けていないのよ、私。和音ちゃんのことだから、大丈夫だとは思うけど。あ、今度のコンクールはいつなの? 一緒に見に行きましょうよ、お父さん、香織。香織も最近見に行けてないでしょう?」
いつものように千春さんの会話は止まらない。次から次へと話が飛んで、飛んで、飛んで――の繰り返しだ。
「えーと、八月十九日の日曜日に予選があります」
「あと十日じゃない!」
千春さんは、二階に駆け上がっていったかと思うと、手にスマホを持って戻ってきた。
「もしもし、夜天社文芸図書第三出版部の山下です――はい、はい――。十九日の日曜日、お休み頂いてもよろしいでしょうか――はい。よろしくお願いします――失礼します」
はい、おっけー! 千春さんはスマホを居間のテーブルに置き、食卓へと戻ってきた。
……何が「おっけー」なんですか!!!!!
そんなあっさりとお休みしていいんですか!!!!
「あぁ――和音ちゃんの演奏楽しみ!」
当の本人はまったく何も思っていないようだ。
「じゃあ、僕も休暇をもらおうかな!」
ズボンのポケットから携帯を取り出し、香織の父は電話をしながら食卓を離れていった。
「その日は部活ないから、私は大丈夫だよ」
……あっという間の出来事に、俺はただ茫然とこの光景を見ていることしかできなかった。
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