第2話 ふんわりベージュにラベンダーのチェック
うーん、ここらにいれたんじゃないかあ……。
作り付けの棚は 辛うじて手が届く 高さで、しかもがさがさと放り込んであるから、手探りでは よく見えないモノたちに触れるばかりで、何にもたどり着けない。
もういいや。これ以上遅くなったら間に合わない。なんでもいいんだ、入れ物なら。
目についたジップロックをとり、そのなかにごはんを詰めた。弁当だ。
ごはんを詰めた。ごはんだけ。
お腹はふくれる。これでいいや。あたしの弁当だ。
そうだ、お弁当にしよう。
そう思ったのは昨日のこと。
あとどこをつめたらいいだろうか、と考えてたらたどり着いた。
ランチにしたら、社食でも430えん。
100えんバーガーとコーヒーでも200えん。コンビニおにぎりも108えんはめっきり減った。だからといって、抜いてしまったら、あとの4時間が本当にうごけなくなる、
そうだ お弁当にしよう。夜ご飯ののこりのご飯だけ詰めたらいい。
そう思ったんだ。
起きて今朝、さあ詰めようとして、そうだ、こどもたちが使ってた弁当箱があったはず。
そう思って探しかけたんだけど 諦めた。
かたん、と同僚があたしのレジを閉める。休憩の時間だよ、の合図。
ここは、巨大なショッピングモール。
やっと4時間。まだあと4時間。
とにかくお腹は空いている。
自前の弁当はどこで食べてもいい、てなってる。て、社食内でも休憩室でもどっちでもいい、てことなんだけど。
今日はあほみたいにいい天気。
外のベンチにしよう。
ハジメテのおべんとうは お外で。
三階が、軽くプロムナードみたいになってて、かたかわはモチロン駅につながるんだけど、もうかたかわは 小さめステージを囲むような空間にしてて、花とかも咲かせてて、だからイベントしてないときは、それこそ、近所のOLさんらとか、おじいさんとか、
赤ちゃんバギーにのせてるママとかが、それぞれ思い思い買い寄せた食物を、硬いベンチに座ってモソモソ食べてる。そんなところ。
ジップロック 蓋を開いて つっつく。かたまっちゃったかあ まあしようがないかな。今度はふりかけくらいかけとくか。
はー……。
ちっさいため息が聞こえて顔をあげたら、となりに女の子が座ってた。
今日は天気がよすぎて、ベンチは大人気らしく、空いてるとこはここだけなんだろう。
くすん。
今度は鼻をならしてる、あれ、しょんぼりしてるんじゃないか?
サンドベージュのコートは淡いラベンダーのフードがついてて、フードの裏側は同色ラベンダーのチェック柄。
かわいいやんか、それ。奇妙に懐かしいような気もしてくる。
けどどうみてもこの子、小さいな。
小学生か、背の高い幼稚園児か。
もしかしたら、がちで迷子なんかな?
めんどくさいことには混ざりたくないけども、がち迷子なら ほってったら店長に怒られる。
どうしたの?
するとカノジョはくすん。と鼻をならしてこういった。
においがね、とれないの。
洗ったのにね、とれないの。
悲しげに差し出してきたコートの袖を嗅いでみる。
……うん、かすかに、におう。
でもこれは、
いつかどこかで嗅いだ気がするぬくいぬくいなにかのにおい。
カノジョがいう。
おかーさんがね、折角作ってくれたお弁当、うっかりこぼしちゃったの。
ああ、それで、ぬくいようななつかしいようなそんなにおい。
思い出の卵焼き、ウインナー、プチトマト。
くさいから、嫌われた。
カノジョが泣きそうだ。
くさくはないよ。臭くない。
なんだか必死で否定する。
……嫌われたん?
カノジョは答えない。
嫌われてないよ。
カノジョはやっぱり答えない。
嫌われてない!
ものすごく強く叫んでしまった。
うふふ、てカノジョ はじめて笑う。
あ、お弁当!
あたしの白ごはんづめジップロックを嬉しそうに指差す。
ね、ね、あたしね、
お弁当あったかいまんまできるんだよ。ね、貸して貸して。
さっさととられる ジップロック。
カノジョが大事そうに抱き締めるように抱え込む。
はい、どーぞ。
渡されたジップロックのなかの白メシが 湯気とか立てるわけはない。
だけど、ほんのり緩んでぬくいような。
ほんとだね、温かくなってる。どうもありがとう
て
いおうと思ったら
カノジョはどこにも居なくなってた。
あ、早く食べてしまって、戻らないと。
朝 がさがさされてた たなのなか
したのしたのそのしたから
ベージュにラベンダーの柔らかい布のようなもの それがちらりと覗ける。
ツクモノモクツ 中川さとえ @tiara33
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