ツクモノモクツ
中川さとえ
第1話 その名は"リーデッド"
……小さい手がでてる。
何かが入ってる倒れた紙袋、紙袋、紙袋の下に、挟まってる紙、紙、紙、なんかのブラスチック、また紙、その下のまた下から。
小さい手が、でてる。
なんだったっけ、これ?
で、
小さい手を引っ張ってみる。
案外、するすると 出てきた。
その上のモノたちが、かなり派手にがさがさがさぁっって崩壊したのに、
どっこも引っ掛からず、するするっと身軽にでてきたのは、
なんだ、リーデッドじゃないか。
……なんで、こんなとこにはさまってる?
それは、姉ちゃんが、お絵かきに熱中してたころ、どーしてもイラストレーターになるっ!て喚いて、母ちゃんに買ってもらった、"解説本付きのお絵かきセット"(とにかく俺はそう覚えてる。ちびだったから。きっと、もっとちゃんとした名前はあったんだろう。)
の中にあった、デッサン人形てやつ。
そんときやってたゲームにでてきてたリーデッドてのにそっくりだったんで、俺は密かにこいつをリーデッドと呼んだ。
やあ、リーデッド。
ひさしぶりやん。何してたん?
するとリーデッドが こくん、と頷く。
そう。こいつこうなんだ。
俺と姉ちゃんが、あっち向いてほい、とか、ジョジョのあり得ないポーズとか させすぎたせいなんか、間接が、時々、勝手に緩んじゃう。
モデルとしたら致命傷。
折角でてきたのにな、リーデッド、俺今日は忙しいんだ。
オーディションの結果発表あるからな、遅れないで学校いかなきゃ。
あー……、受かってないかなあ。
受かってたらいいのになあ。
あ、ごめんな、リーデッド。
あとでな。
リーデッドをポコンと床に放り出す。
やばい、駅までダッシュや。
床の上のリーデッド。
こくこく、こくこく、頷いた。
でも 誰も誰も みていない。
日は昇るから 空を渡るしかなくて、そして沈むしかなく、沈んでく。
昇り渡り沈む 未来永劫繰り返す。
太陽じゃないよ、地球がうごいてるんだよ、 知ってるよそんなこと。
とにかく、その日もちゃんと日が暮れて、暗くなって、ハラヘリで、
帰る。
ただいま。
姉ちゃんはまだで、母ちゃんは仕事なんかなあ。俺のメシどうなんかなあ。
なーっ、て鳴いたのはうちの猫。
そばにいるのは、リーデッド。
おう、リーデッドとあそんでたの?
猫はひとしき、なーなーなー。
餌やな、餌やろ。わかってる。
猫の餌を盛ってやる。
もしょもしょたべる猫の横、落ちてるリーデッドを拾って座り込む。
ただいま。リーデッド。
振動で、リーデッドはうまいこと、こくん、てする。
オーディションな、あかんかったわ。
リーデッドはうまいこと横にかくん、てした。
受かってたんな、ひとりおったわ。
顔やったわ。
受かる基準て、ほんまに顔だけやねんな。
まあ、わかるけどなあ、そんなシステムになってるってことくらい。
わかってるし。わかってる。
するとリーデッドが不思議にかくかくこくこくする。
あれ、俺 手 震えてるんか。
平気なつもりやけど、動揺してるんかなあ。
あ!
でもな、リーデッド。
俺 次のボイスドラマ、役ひとつやらへんか?て ゆうてもらえたわ。
これな、スポンサーおらへんから、ギャラあかんけど、お前でいこ、て。
セリフいっぱいあんねん。サブやけど、主役と一緒にほぼでてる、てやつ。な、ええやろ?ええやんなあ、リーデッド。
リーデッドはものすごくかくかくした。アタマだけでなく間接全部動かす勢いで。
俺が振り回してるからな。
猫は腹がふくれて、どっかにいった。
腹へったなー、リーデッド。
リーデッドがこくん、てなる。
ただいまー、
母ちゃんだ!よし、メシだ。
ただいまーあ、
おお、姉ちゃんもご帰還だ。
おや、リーデッドが自分で、こっくりした。すごい遠慮がちに。
おまえ、頑張ってくれたん?
リーデッドは動かない。
当たり前か。
でも、ありがとな。うれしいわ。
ありがとう。
……お礼せなあかんかな?
フイテ て 聞こえたような気がした。そういえば、こいつ、ほこりが平たく固まったかんじで、ドロドロだ。
よし、メシ食ったらピカピカにしてやるな。
メシの後、
約束通りに、拭いてやる。
お湯と、布と、ジョイくんと。
思ったより 時間かかった。
かかったわ、かなり。
けど リーデッドは ピカピカになった。
やっぱおまえ、木なんやな。
なんか艶々してるで。
よし、お前も俺の女の子たちんなか並べたろう。
近所のゲーセンのクレーンはめちゃ緩いから、どのこもこの子もすぐ獲れる。ほしがるやつらおるからな、時々安く売ってやるけど、まだまだたくさんいてはるで。
まみさんの横においたるわ。
どや、かわいいやろ?このひと
リーデッド、胸はって妙に光ってる。嬉しげだ。
……おまえ、オスやな。
決定。
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