丗伍ノ参 妖(三)

「うううう」

 そのときだった。

 再びうなり声が響いてきた。

 高宗ははっとすると、再び鞘に収めていた刀を抜き取った。

 万寿もあたりを見回す。

「妖です!私から離れないでください!!」

 万寿はうなずくと高宗に寄り添い注意深く当たりを見回した。

 声が聞こえる。さきほどと同じうめき声だ。おそらく、先ほどの妖に違いない。

 しかも、その声は一匹二匹ではない。いくつもの声が重なっている。

 おそらく、何匹ものアヤカシが近づいているに違いない。

「高宗さま」

「これはまずい。万寿!」

 高宗は思わず、万寿の手を握り締めると走り出した

「急ぎましょう!妖たちが襲ってくるまえに!!」

 しかし、高宗たちのまえには先ほどの妖が立ちはだかった。

 高宗は再び刀を構える

「くそ!!」

 妖は間髪射られずに、高宗たちに襲い掛かってきた。

 すぐさま、高宗は刀をふるい、妖を切り裂いていく

 万寿は思わず、悲鳴をあげて高宗の衣の袖を掴み取って目を閉じた

 妖は切り裂かれて地面にたたきつけられたかと思うと灰となって消え去った。

「いきましょう!!」

 再び走り出そうとしたが、すぐに妖が出現した。しかもそれは一匹ではない

 気づけば、高宗たちの周りを妖たちで取り囲まれていたのだ。しかも、その妖は同類

 異常なほどに長い毛を持つ獅子である

 獅子はまるでもてあそぶかのように徐々にこちらへと近づいてくる。

 そして、一匹が跳躍すると次々と高宗たちに襲い掛かってきた。

 高宗はそれを次々と切り裂いていくが、次々と出現する彼らは。高宗の体を斬りさいていった。

 高宗は悲鳴をあげて、とうとう地面に座り込んでしまった。

「高宗さま!!」


 万寿はすぐに高宗のもとへと駆けつけると、彼の怪我を案じた。

「大丈夫です。心配しないでください」

 そういって、高宗は立ち上がると再び刀をとった。

「さあ、逃げなさい」

「え?」

「私が彼らをひきつけます。さあ、早く!」

 万寿は呆然と高宗をみた。

「早く!」

 その間にも獅子たちが高宗たちに襲い掛かってくる。

 高宗は歯をかむと刀を振るう

 しかし、獅子はその刀にかぶりついた

「なに!?」

 その牙で刀を加えると、そのまま奪い取ると遠くへと投げ捨ててしまった。

 獅子はあざ笑うかのように、一度高宗たちから離れると、こちらを威嚇した。

 高宗は舌打ちをする。

『久方ぶりの獲物だ。さあ、恐怖を味割らせてやれ!!』

 高宗の刀を奪い取った獅子が言葉を放つ。すると周りの獅子たちは高宗たちを囲み、徐々に近づいてくる。

 高宗は息を呑んだ。

 そして、万寿は高宗の体にしがみつき、周りを見回す

 その顔はすっかり青ざめていた

 恐ろしいのだ

 死ぬのか?

 ここで?

 高宗の中で恐怖がよぎった

 このまま……

 何もできずに?

 どうすればいい?彼女を守らないといけないのに・・

 どうして自分はこれほどに非力なのだろうか

 もうだめなのか?

 私は、この娘一人守れないのか?


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